Scene_008_試合
「これより決勝戦を開始する! 右は闇魔法使い、黒い炎を放ち一撃で敵を屠ってきた練介選手。左は多芸なる剣術で相手を圧倒、攻略してきたサムライ、ツルハシ」
練介出てたのか。
戦うところは初めて見るな。
練介は魔法の威力だけ上げ続けてるロマン砲で、絡め手で道具を使うらしい。
ダンジョンボスをソロ撃破はしたけど、一発で倒すつもりが五十発は魔法を撃ったらしく、帰還した時は息を荒げながらも相当落ち込み、それからはダンジョンには行っていないそうだ。
でもレベルが100より少し高い辺り戦闘はこなしていたはず。
レアアイテムも所有してるだろうけど、それが闇魔法だろうか。
ツルハシが刀を鞘から抜き、片手に握る。
こちらはレベル99。
剣などの材質は鉄ではなく、この世界特有のもので壊すのは難しい。
ツルハシはここまで刀を使い勝ち上がってきた選手なのだろう。
練介が勝つにはいかに相手との距離を取るか、そして武器を手放せられるかが重要になるかも知れない。
「準備はいいな? それでは……試合開始」
練介はジャムルが叫んだ直後、ツルハシに向けて手の平をかざす。
手の平から魔法陣が出て広がり、そこからさらに魔法陣の枠一杯の黒炎が吹き荒れ、辺り一帯を歪ませながら覆い隠す。
火球を強化して使ってると聞いてたけど変えていたらしい。
「練介選手、先制で魔法を撃ち込んだー! これは前回の試合同様に決まったか?」
レアルとリカの試合の時とは違い実況が入ってきてる。
聞き覚えのある女の子の声だ、ギルド本部にいる子だけど名前は思い出せない。
黒炎が晴れていく。
そこにはツルハシが試合開始前と変わらない様子で立っていた。
「おおっと!? ツルハシ選手無傷のようだ! あの攻撃を一体どうやって防いだのか!?」
むき身の刀が黒炎を纏っていて、ツルハシが刀を抜き、一振りすると黒炎は消え去る。
ツルハシはそのまま練介の方へ駆け寄る。
練介は裾からマスケット銃を出し、弾丸ではなく粘着性のありそうなネットを撃ち出すが、投げ付けられた剣の鞘に防がれる。
「このままツルハシ選手が決めてしまうのか!?」
練介は所持品一覧から取り出したであろう粉をツルハシに振りかける。
ツルハシは剣風でそれを払い、練介をめった斬りにするが、練介の身体は黒炎そのもののようになって刀がすり抜ける。
突然、ツルハシの身体に黒炎が纏わり小さく燃える。
しかしツルハシはそれに怯まず、練介の間近で居合いの構えを取る。
「なんと、練介選手は発した魔法と同じ体質になっているのでしょうか〜? しかし、ツルハシ選手にはまだ手があるようだー!」
ツルハシの体から炎は消えず、少しずつ燃え広がっていくもののツルハシは微動だにしない。
構えから放たれた居合いが黒い炎を掻き消し、練介の身体を木っ端微塵に散らしてしまう。
「で、出たぁ〜! ツルハシ選手の奥義! これは練介選手、ひとたまりもありません!」
散った炎が集まり、練介の身体を作る。
戻った練介は前のめりに倒れる。
「勝負あり! ツルハシ選手の勝利!」
黒い炎の効果は謎だけど、手を狙うか、道具を使って刀を取り上げられたなら練介に有利な試合だったかもしれない。
つい気になって、みんなの方を見る。
ルッセンとフリックは試合に見入っているが、隣ではユーネイがうとうとしてるレアルの頬をつついたりしている。
「練介負けちゃったか」
「あの使い方ではな。装備説明をよく吟味して貰いたいものだ」
「なんて書いてあるんだ?」
「持ち主に聞きたまえ」
フリックは元ギルド本部のメンバーで、色々とこの世界のことを知ってるけど、その辺りの情報は全く教えてくれない。
聞いちゃいけないこと聞く方が悪いものの、この程度のことでも教えてくれないから少し会話しづらい。
「じゃあそうするか」
「レアアイテム……自分だけの固有スキルや能力って羨ましいな。俺もレベル100になって使いたいよ」
「所有スキル使えなくなる縛りが発生するから、完全上位互換みたいなのじゃないと不便になるぞ」
「レヴララはそれを忘れたままフェムから飛び降りて大怪我したことありますもんねー」
ユーネイがそう言って不気味に笑みを浮かべる。
「まあそういうこと。強いには強いんだけどね」
「そういう感じかぁ」
「ジャムル杯優勝者、ツルハシに今一度盛大な拍手を! 優勝者にはレアアイテムが贈呈されます! ……それでは、実況はワタクシ、シラオがお送りしましたー!」
歓声と拍手が聞こえる。
ジャムルの背後から、筋骨隆々の熊のようなモンスターが顔を出す。
「コイツがボスモンスター、名前はボスベアだ。ツルハシ、戦ってみるか?」
ツルハシは剣を抜く。
ジャムルがボスにワイヤレスマイクを渡し、その場から離れる。
ボスが雄叫びを上げる。
「手加減はしねえ、ぶん殴ってやる!」
ボスがジャムルの方へマイクを投げる。
「準備はいいか?」
ツルハシが頷く。
喋るモンスターとは私も一度戦ったことがある。
正直、戦いになるような相手ではない。
「それでは、3……2……1……試合開始!」
開始合図と共にボスがツルハシの近くまで駆け寄り、腕を振りかぶって殴る。
ツルハシはなぜか受け身すら取らずに殴られ、一撃でダウンする。
場内がざわめく。
ツルハシが運び出され、ボスは高笑いしてすぐため息を吐く。
「物足りねえ……おい! そこのお前強そうだな。エキシビションのヤツと組んで俺と戦え!」
そう言いながらボスは、私の方を指差す。