Scene_113_内省
新しくなった深海フィールド、というより居住区を散歩する。
だいぶ遠くまで歩いたけど、永遠に続くと思われるほど花畑が続く。
遠くにはジャムルの形の家が見える。
他にはまだ何も見えない、そのうちに充実してくるだろうか。
……こないだはフーとドラウスに私情で命令してしまった。
何かお礼でも考えないと。
歩き疲れてきたのでその場で仰向けになる。
……眠い、また感情的になってものを考え過ぎたせいだろうか。
ああいうの考えるのはもうよそうと、レアルと一緒にいる時は思ってたんだけどな。
しばらく時間が経つ。
……新しい転移者の案内でもするか。
転移者の選出は完全にランダムらしいけど、VRMMOをやったことある人限定らしい。
加えてこことよく似ているVRMMOを一切知らないのが条件なのだそうだ。
私は転移者召喚のために場所をベレリフ付近のフィールドに移す。
……女の子が召喚され、私の方を見上げる。
学校の制服を着ていて黒い長髪で眼鏡、ゲームやったことなさそうな見た目だが選出されたってことはやったことあるのだろう。
「よお、私はレヴララ。この世界の案内人だ」
「……今テストを受けてるんですけど」
「その辺は気にしないでくれ。この世界で時間が過ぎれば、この世界で過ごした記憶は消えて元の世界へ戻れるから」
「はい」
女の子は草原を見渡す。
「ほい。この指輪を付けたらVRMMOと同じように世界を歩き回れるよ」
私は女の子に指輪を手渡す。
女の子は何も聞かずに指輪を嵌める。
「私はこの世界の勇者とかに選ばれたの?」
「ここは現実とは別世界だけど、テスターに選ばれたって方が近い」
「詳しく説明して」
「……この世界自体が生命体みたいなもんでさ、現実世界からのエネルギーとして魂を借りてるってとこ」
「はい、分かりました」
……自分で言うのも何だけど分かるって言えるのすごいな。
本当は分かってないのかも知れないけど、まあ話を進めさせてもらおう。
「まずアバターはどうする? このタイミングで一度しか変えられないし作るの面倒だけど、ゲームに寄せたりできるよ」
「じゃあせっかくなので変えます」
「ならホログラムで容姿を変更しますか? って書いてあるの出ると思うから、はいを選んで」
「分かりました」
女の子はホログラムに触れると筒のようなものに囲まれる。
これが長い人は数日掛かるらしい。
まあどうせ暇だし、アルブムにちょっかい出されると面倒臭いし横になって待つことにする。
……お腹空いてきた。
日はもう沈んでいる。
近くに沸いたモンスターを槍でちまちま倒したけど、やっぱジャムルの時よりモンスターが弱い。
とりあえず火を焚いて眠ることにする。
案内人が火を焚くとその周囲でモンスターが湧かなくなるらしい、便利すぎるけどそういうアイテムがないと、街づくりとか面倒臭いか。
……モフモフしたものが頬に触れ、目が覚める。
いつの間にか眠ってしまったらしい。
あの筒はなくなっており、目の前にはケモケモな黒髪で眼鏡の女の子がいる。
白とベージュの毛で……何の動物かよく分からない耳だ。
「随分と思い切ったアバターにしたね」
「ぬいぐるみになるのが夢で。でも私らしさも若干残したくてこうしました。かわいいでしょう」
「うんうん。でもまあかなり目立つかもね、獣人はいるけど同じ度合いの人って一切いないし」
「そうですか。まあ構いませんよ」
「そういや名前は? こっちはレヴララ」
「ケーキです」
ケーキは眼鏡を中心から押し上げる。
声もなんか変わった気がする、前より特徴的な声だ。
「手とか大丈夫? 動かし辛くない?」
「全然平気です」
「とりあえず町まで送るよ、各種説明はホログラムから見といて。分からないことがあったら私に通話かけるなりチャット送るなりしていいから」
「分かりました。そういえばレヴララさんってどこかで見たような……。そうそう、大学で助手をやっておられるというつぐさんとそっくりです」
……マジか。
別に何の支障もないけどリアバレか。
「凄惨な事件に巻き込まれて死んだとドキュメンタリー番組で見て、よく覚えてます。でも別人なんでしょうね」
「本人だよ。……まだ死んだ覚えはないけど」