Scene_103_リャウ
ジャムルの護衛として今まで鍛えてきたけど、ジャムルは私が牢屋でゴロゴロしている間に殺された。
あの会議場でもすぐ取り押さえられてしまったし、私はもっと強くなりたい。
レヴララさんに牢屋から出してもらう。
アップデートで無差別PvPが可能になったので、それで鍛えることにする。
無差別PvPと言ってもできるのはレベル100以上で同じ相手と同じフィールドで戦えるのは一回まで。
転移者以外にも適用される。
相手を倒すとレベルが1上がって、負けると1下がる。
レベル300になるとシナリオが解放されて、シナリオを進めると色々な装備品と地形クラフトが解放される。
城下町のフィールドの一部を買って地形クラフトで自由に弄れるらしいので、ジャムルの形の家を作るつもりだ。
道沿いの林でプレイヤーを待つ。
早速四人パーティーがギルド本部の方から歩いてくる。
ノートをちゃんと読んだらしく、私を見るなり武器を構え始める。
持っている武器で何となく役割が分かる。
私は後衛にいる杖を持った女の人を狙うことにする。
「一対四でやろうってのかい? お嬢ちゃん」
前衛の剣を持った男の人が自身ありげに尋ねる。
私は杖を持った女の人の背後に瞬間移動し、ナイフで喉を掻き切り元の位置へ戻る。
前と違って、ダメージを与えた場所に赤い光が入るようになったらしい。
前衛のもう一人が氷魔法を撃ってくる。
私は距離を取りながらぬめりのあるヒモ付きの三角ナイフを投げ、全滅魔法使いの首に巻き付くよう引っ掛けた後引っ張り、首を落とす。
前衛魔法使いが白く光りながら消える。
「イヤーッ!」
後衛のもう一人が叫び、パニックになった様子で雷の魔法を詠唱する。
私はナイフを懐から抜き宙に投げ、避雷針がわりにしてそれを防ぐ。
落雷で周囲に少し火が上がり、鎮火していく。
近づいてきた剣士の背後に回る、察していたのか剣士はすぐにこちらを剣で薙ぎ切るが、ナイフで受けて宙返りし剣士に抱き付いて首をナイフで突き刺す。
……後は適当に片付け4レベル上がる。
片付けた直後、私の周囲に火の玉が漂い始め近付いてくる。
瞬間移動でそれを避けた先で火柱が上がる。
火柱に焼かれる、それほどダメージはない。
どこから魔法撃ってきてるんだろ。
直線上に炎が飛んでくる。
その方向にワイヤー付きのナイフを投げて引っ張ると、杖が釣れる。
……杖が消え、赤くて大きい、煙を放つ何かが倒れ込んでくる。
私は瞬間移動で避けて炎が飛んできた方向へ向かう。
……誰もいない。
おおよそ一人は武器を持ってないと思う。
深追いしてみよう、アップデート直後で付けてる装備が充実してる人はさほどいないだろうし、有利な内に上げ切らないと。
私はヒモ付きの三角ナイフやワイヤー付きのナイフを振り回し、辺り一帯の木や草を斬り払う。
範囲は20mほど。
スキルは取らずに火力を上げてるから必殺技みたいなものだ。
複数人隠れてくれてると嬉しい。
レベルが1だけあがる。
1人だけだったみたいだ、目立つことした割にコレはあまり美味しくない。
私は急いでその場から離れる。
……一日でレベルが300になった。
なったけど今は城下町のレストランでバイトしている。
元々働いていたので気になって来てしまったところをレヴララさんに捕まった。
深海フィールドと城下町を切り離す際にシェフが深海フィールドに残ったらしく、接客を終えレヴララさん、厨房スタッフと一緒に三年後にはあった料理の試作をしてる最中だ。
ここの裏方で働いているのは深海出身者が多い。
皆フアガに憧れてここへ入ってきたそうだ。
「……シェフ不在とはいえ美味しいね。これでお客さんに出せる気するけど」
「いえ、まだまだです」
「うーん。リャウも食べてみなよ」
私はコンソメスープを口に運ぶ。
賄いで毎日食べてた、食べ飽きてくると味を悪い方へ感じていくものだけどこれを食べ飽きることはなかった。
噛んで飲み込む。
味は全く同じだけど何かが違う。
「本人から作り方のメモは貰ってるんだけどな。どう?」
「ちょっと違う」
「そっか。スタッフの皆さんはどうする?」
スタッフの人たちが少し騒めき、静かになる。
「看板を降ろすべきかと。我々が引き継ぐべきものもあるとは思いますが、このままでは……シェフの料理の名に傷を付けてしまう」
「じゃあ予約取消しのお詫びだけして閉じようか。お詫びの品は私から出しておくから」
「いいのですか? シェフのご友人だったとはいえ、そこまでして頂くなんて」
「全然いいよ。あと看板下ろしても料理店は続けてほしいかな。フアガのよりは劣るかもしれないけど、おいしいしさ」
「ありがとうございます、是非続けさせていただきます」
「それじゃ、応援してるよ」
レヴララはそう言うと、私の手を握って店外へと連れ出す。
店の裏の方で、レヴララは手を離して座り込む。
「ごめんね、いいところにいたもんだから巻き込んじゃった」
「レヴララさん。シェフはどこへ行ったんですか?」
「故郷っていうか深海フィールド。今まで深海からここに連れて来てたような人を集めて、安全な村でも作る予定らしい。……フアガはジャムルと同じで時間巻き戻ってないし連絡取れると良かったんだけど、圏外みたい」
「モンスターはあそこから転送してるのでは?」
「その辺変えててさ、今はデータの塊になってる。深海フィールドは完全に分断しとかないとこの世界が滅ぶってジャムルが言ってたし、しゃーないよ。それと敬語じゃなくてもいいからね」
「分かった」
レヴララの隣に座る。
「でも分断したおかげで城壁の人たちをギルド本部のメンバーにできたし、悪いことばかりじゃないよ」
「レヴララさんはこの世界をどう変えたの?」
「全体的にゲーム寄りにした。でも便利過ぎるとこは変えちゃったな。装備をいつでもアイテムストレージから取り出せるのとか」
「ナルホド」
私は事前にジャムルさんから聞いてて、服に沢山武器を付けていた。
ヒキョウ……だったろうか。
「それよりもうレベル300になったんだね。おめでとう」
「ありがとう。特典欲しさについ……」
「なるほどね。シナリオはデータキャラ配置してあるのと、脚本はこっちじゃなくてジャムルだからね。内容はまあ主人公の手伝いで、アイテム持ってこいっていうのがだいぶ面倒かも」
「クリアしたら城壁の外の土地を買えるの……?」
「うん。買える広さと数に制限あるから注意ね」
「分かった」
レヴララは立ち上がって腕を伸ばす。
「あ、それと白いドラゴン見つけたら教えてくれる? 転移者だけを狙って襲って回ってるらしくてさ」
「そういうモンスターもいるんだ」
「うん。フアガが深海から連れて来たらしいけど、その子をちょっと調べたいんだよね。それじゃまたね」
レヴララの足元に円ができていき、青白い光がそこから立ち昇っていきレヴララは消える。
……一人でいるのが寂しくなってきた。
パーティーを組みたいけど、レベル300の人はまだいないんだろうか。
今私が冒険者の中で最強なのかも。
……そんなの別にどうでもいいか。
パーティー募集掲示板というのをレヴララさんが作ってくれてるので、条件をつけて募集をかけることにする。
あとはシナリオやって、クラフトしながら誰かの参加申請を待つだけだ。
……一日かけてシナリオをクリアした。
内容はジャムルの手伝いだった、感慨深い。
貰えた武器は危険そのものだ、射抜いた相手をこの世界から深海フィールドへ飛ばす大弓。
でも私にしか扱えない点は安心する。
レヴララさんにこの武器について聞いたところ、ジャムルの
アイテムストレージに残っていたものらしい。
嫌いなやつや強敵にバンバン撃っていいとのこと。
矢だけでも効果があるので刺してもいいらしい。
……いいのか?
それと防具を貰った。
アイテムストレージから装備する際のクールタイムを無視するらしく、物理耐性が高い。
パーティーの方はまだ参加申請は……今初めて来た。
名前は少年らしい。
なにか疑ってしまう名前だ、少年。
とりあえずチャットで指示した場所で待つことにする。