Scene_100_アップデート
赤い荒野でエズメと一緒に野営の準備をしていたら、突然空間が白く焼けていくような感じで消えていって……気付くと人混みの中にいた。
雑音の中、訳がわからないまま身体をぶつけられ続けて地面に倒れ込む。
踏んだり蹴ったりされて苦しい。
……訳分からないが、俺このまま死ぬんじゃないか?
次にはさっきいた荒野に戻っていた。
エズメが冷や汗を垂らしこちらを見つめたあと、自分の身体を抱くようにして縮こまる。
なぜか髪型が変わってるように見える、前はもう少し短かったような。
……ん? ステータスがレベル1の頃に戻ってる……。
しかもスキルも装備も何もかもなくなっている!
金もない、ホログラムがおかしくなってるのか?
「エズメ、レベル1になってない?」
「……。誰ですか? 今は何だか気分が優れなくて、すみません」
「ここはモンスター出ないからいいけど。とりあえずモートに戻って状況確認しないと」
……誰ですかって、俺以外と話でもしてるんだろうか。
エズメは縮こまったまま動こうとしない。
俺の目の前に、睨み顔のあのレヴララが現れる。
レヴララは一度咳払いすると、俺の肩を叩いた後真っ白な指輪を手渡してくる。
「少年、久しぶり。……いろいろあってこっちは転移者たちの案内役と、この世界の管理役やらされることになった。とりあえずこの指輪付けてみてくれ」
俺は指輪を嵌めホログラムを開く。
レベルの表示とか色々元に戻ってくけど、いくつかの装備やギフト効果は消えたままだ。
「世界は作り替えられた。でもって変更点をまとめたノートがこれ。読んで分からないことがあったら通話で聞いてくれ、連絡先は入ってると思うから」
「待って、エズメが俺のこと忘れてる……気がするんだけど」
他にも気になることはあるが、エズメのことを聞いておいた方がおそらく好印象だろう。
レヴララは自分の髪を指で摘んでなぞるように下に引く。
「ここに元々いた人たちの時間は、ジャムルを除いて三年ほど巻き戻してある。他にも質問があるなら聞いとくよ」
「レヴララが巻き戻したの?」
「ん……そう」
「何で?」
「こっちが仕事する代わりに願いを一つ叶えてもらったんだ。レアルをただ生き返らせるだけじゃ、また無茶しそうだしさ」
「仕事って具体的になにするの」
「改変したこの世界の微調整と転移者の案内。暇な時は自由にしてていいんだってさ、願い叶えてくれる割にはそれほど重い条件じゃなかったろ? とりま、プレイヤー側じゃなくなった訳だけどよろしくな」
レヴララは手を差し出してくる。
俺はその震える手を見つめる。
何だろう? 人の手握ったりするの、あまり好きじゃないなら差し出さなければいいのに。
「ああ、悪い。震えてるな」
レヴララは冷たい目で自分の腕を見た後、手を後ろに隠す。
「それじゃ、今度見かけたら声掛けるよ。またな」
「待って」
俺はレヴララの腕を掴む。
レヴララはビクッとしたまま振り向かず答える。
「な、何だよ」
「さっき神殿でさ、助けてくれてありがとう」
「……こっちはしばらく神様っていうのと、あとジャムルと話したりこの世界の設定弄ったりしてたからさ。誰かと間違えてると思うぞ」
「そう……なんだ」
「じゃあな」
レヴララは透けていって消える。
なら、あのレヴララは別人なのか? 確かに違和感はあったけど俺のこと知ってた。
……レヴララが身体を乗っ取られていたのならもう解決してることかも知れないけど、嫌に気になる。
ユテレハは何か知ってそうだった、でも転移者以外の時間は巻き戻されててエズメと同じように記憶はないのかも。
あのレヴララは結果的に、俺がアルブムからあの映像を見せられるのを妨害してたような。
妨害の理由は分からないし、目を覚ましてから二重人格化してるっていうのが何となく有り得そうな気がする。
「……先ほどのお方はどなたですか?」
「俺を何度も助けてくれる先輩プレイヤー、みたいな人。いいや、エズメにとっては神様に近いかも」
「そうですか。……もしかして、あなたは転移者なのですか?」
「そうだよ」
あれ、出会った時エズメは俺のこと転移者って呼んだ気がするけど。
まあいいか。
「先ほどの話を聞くに、あなたは三年先の私と共に冒険していたということでしょうか」
「そうだよ」
「一体なんのために……。私は、私は転移者の方々から村を焼かれたのに、何で」
「会った頃は宗教を広めたいとか言ってたよ」
その後ちょっと事件があったけど。
エズメは上目遣いでこちらを見た後、夕陽の方を眺める。
「……夕陽。大嫌いです、焦燥を感じます」
「さっきまで好きだって言ってたけど」
「ご冗談を」
なんか前よりめんどくさいな。
とりあえず町の様子でも見に戻るか。
エズメは後ろをついてくる。
一応、パーティーは組んだままだし信じて貰えてるのだろうか。
ロープウェイのようなものに再び乗り、モートに着く。
乗っている最中はエズメが抱き付いてきてなかなかよろしかった、また乗りたい。
着いてすぐ、大きな切り株の横に掲示板のある場所にユテレハとアウゴシシスが座り込み呆けている。
「何してるの?」
ユテレハが横目でこちらを見る。
「ちょっと考えごとだよ、まずはどうやって帰ろうかってね。それよりこっちのアルティメット・スケルトン様が気になったのかい?」
「まあ、うん」
「彼はインビジブルドラゴンという希少種でね。こんな見た目。かっこいいだろ?」
エズメは目をキラキラさせながらアウゴシシスを見ている。
「ああ、うん。かっこいい」
「私はユテレハ。変な名前だけど、深海の城壁を守ってた。……にしても、アトクさんの演説聞いた? いきなり三年前に私たちの時間を戻したと言われてもさ、意味分かんないよね。とにかく、戻すんなら三年前いた場所に転送しといてくれたら良かったのに。おかげで深海に戻ろうにも一苦労だよ」
「そうなんだ」
「今さ、モート周辺の敵は強いし馬車通せないしで、出たくても出られない人を運ぶためにレヴララって子が鳥を使って往復し続けてる。出るならさ、運んでもらった方がいいよ」
「君たちは運んでもらわないの?」
「自力で出られるからさ。でも地図の更新中」
「なるほど。それじゃ、俺たちもう行くよ」
「ああ、気を付けてね」
俺たちはモートの広い場所へ出る。
町から出たい人はこちらへ、という看板を持つアトクのところに数十人の行列ができてる。
転移者の町って聞いてたけど、ある程度それ以外の人数がいるみたいだ。
「どうする? 歩きで一番近い町まで行く?」
「はい」
エズメは少しふらふらしている。
顔色もあまり良くない。
「……休んでからにしようか。あそこの小屋まで歩ける?」
「まあ、そこまでなら」
エズメと共に小屋へ戻る。
中の様子は昨日と何ら変わりない。
エズメを部屋に案内する。
「ここは三年後のエズメが使ってた部屋。好きに使っていいよ」
「……どうやったのか想像もつきませんが。ありがとうございます」
「これ、水と食べ物」
ベッド近くのテーブルにカップに入った水と皿に乗った食パンを置く。
こうして見ると随分と質素だ、パンにピーナッツバターでも塗っといてやろう。
「……ありがとうございます、いただきます」
エズメはパンに手を伸ばし、もそもそと食べ始める。
「俺は外に出てるから。準備できたら来て」
「分かりました」
俺は庭で横になり、レヴララの言っていたノートをホログラムから開く。
死亡時にギルド本部の祭壇で復活。
レアアイテムの削除。
装備変更にCT追加。
敵対システム(評判)の追加。
職業(ロール化)実装。
記憶経路の削除。
深海フィールド削除。
メインシナリオ実装。
スキルレベル、武器レベル(熟練度)の実装。
一部スキルの削除。
PvPシステムの変更。
デスペナルティの追加。
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削除とか実装とか入り混じっていてあまり整然としていない。
記憶経路、結局一度も手に入れられなかったな。
深海フィールドってのには行ったことすらないけど、どんなところだったんだろう。
……まあ削除されたっていうのを気にしても仕方ないか。
にしても、あれだけ楽しそうにこの世界の話をしてた子が作り直した世界、どんなふうに変えたのか楽しみだ。
ん、下の方にメッセージがある。
注意点として、フィールド上での無差別PvPが可能なので出歩く場合は十分注意するか、酒場の転送装置を使うこと。
PvPシステムの変更については十分に目を通してほしい。
その他変更点は簡単に言うとゲーム寄りにした。
それではこの世界での健闘を祈る。