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未開の虚像現実より  作者: 坡畳
レヴララ編
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Scene_024_安寧

 葬式では従兄弟や弟と近況を話合った後、式を行いすぐに帰った。

話し合ったと言っても、新卒の従兄弟から世知辛い会社内の話を聞いて、私のことを将来は研究職だねと言われたくらいだ。


 さすがに睨まず、敬語を使って話したけどやはり頭が痛い。

お茶汲んだりした後はボーっとしていた。

兄はリサイクルショップで働いていると嘘を付き話していた。


 実際にやっているのは親の金を使った転売。

祖母には杖を買ってやったと言っていた。


 金稼ぎのやり方やプレゼントしたことに文句はないけど、一昨日帰った時、買って間もないにも関わらず祖母は違う杖を使っていたことに何も思わないのか。


 冷たく接し、ただ一度役立たないものを受け取らせたことを葬式で誇る。

この人はそういうのが平気でないから無職でいるのだろうに、何をしたいのか分からない。

兄が従兄弟に話している最中、弟が私の顔を見て苦笑いしていた。


 昼少し過ぎに家に帰ると珍しく祖父がいて、レアルと一緒にケーキのようなものを食べていた。


「おお、帰ったか。今日ゼミ生たちと別荘へ行くのだが、レヴララも来るか?」

「……疲れててもいいなら」

「悪いね。ちょうどヨヨ塚君の予定が空いて私も暇ができていたのでな」

「いいよ、特にすることないし」


「別荘へ行って何をされるのですか?」

「バーベキューやって食って飲んで帰る。そんなところだ」


 レアルがキラキラした目でこちらを見る。


「レアルも連れて行っていい?」

「勿論だ。しかし耳と尻尾はコスプレで通ってはいるが勢いで触られたらすぐにバレる。レヴララから離れないようにな」

「分かってる」

「よし! では支度してから行こうか」




 祖父の別荘に着く。

三階建てで、広いベランダから街を大きく見渡せる。

ベランダでヨヨ塚さんとレヴララがキャンプの準備を始め、それを他のゼミ生が手伝う。


 人数は全員で十人。

一階と二階は廊下と個室だらけで、三階は間取りが広く、巨大なモニターやら長いソファやら大きいクッションやらが置いてある。

こういうことをするために用意したと思えるような家だ。

隣に祖父が来る。


「祖母が死んですぐというときに悪いな」

「いいよ。今は落ち込んでる訳にもいかないし」

「そうかそうか。しかし、レヴララはよく頑張っているな。夢をもつ日もそう遠くないんじゃないか?」


「夢ねえ。こっちは別にいらないと思うけど」

「押し付けがましくなるが、やはり持てるようになった方がいいぞ。沢山な」

「沢山は無理だよ」


 夢。

小さい頃はあったけど、親に喜んでもらえたのが理由だと分かってからは追わなくなった。

しばらくしてからこの世界の何を知りたいか考え出して祖父に拾われて、助手やって。


 一つのこと知り続けるっていうのは夢なのだろうか。

夢と呼ぶには不透明な気がする、感覚的に自分が嬉しくなることが夢だと錯覚していたからかも知れないが、夢というより人生と言った方がしっくり来る。

それを沢山持つというのは無理だ。


「今は無理かも知れないが、そのうちな」

「……うん」


 そう、いつか別の考え方もできるだろうという漠然とした期待がある。

最初の串焼きが出来上がり、皆が乾杯しようと構える。

レアルと金髪の男が私たちに笑顔で近付き、グラスを手渡す。


「先生と助手様もどうぞ」

「ありがとう」

「ありがとう、では私から本日の挨拶を」


 おーっ!? と金髪の男、料が一人で声を上げる。


「皆、卒論お疲れ様。今日は久々にここで楽しんでくれたまえ。乾杯!」


 乾杯! と皆が声を出す。


 早々にレアルへ女の人が近づく。

私はレアルの手を引いて遠ざける。


「その耳何? 動いた気がするけど」

「そういうカチューシャ。二千万ぐらいするやつだから、触って壊したら弁償頼む」

「ふうん。そんなにするんだ」


 女の人はレアルから少し離れる。

そして、腕を組んでこちらを見つめてくる。

納得いかないという様子だけど、何か察した様子でもある。


 ホノが私に抱きついてくる。

この人はボディタッチが多いからレアルには近付けたくない。

ホノは抱きついたまま、私には何も言わずにレアルの方を見る。


「あたしホノ。ねね、ヨヨ塚くんと同じバイトに入ったって?」

「入りました」

「すごいねえ。そんなにヨヨ塚くんのことが気に入った?」

「ヨヨ塚さんには時間の余裕を持って貰わないと困りますので」

「そっかそっかー、なるほどねー」


 黒髪の女がホノの頬を引っ張る。


「やめなよ。レヴララが嫌そうでしょ」

「ええ、嫌がってないじゃん。むしろもっとしてって感じだよ。ね?」

「ああ、うん」


「……そうですね」

「何何? なんか知ってるの鈴子?」

「別に……」


 この人は鈴子と言って、レヴララのことは話してある。

料もだ、料はキュリネという名前、鈴子はメグという名前でゲームに協力してくれてる。


「レヴララちゃん、飲食店ではもう働き始めたの〜?」

「こないだ小冊子を頂いて、今は練習中です」

「そうなんだ〜。ヨヨ塚くんから少し教えてもらうのはどう〜?」

「そうですね。という訳でヨヨ塚さん、お相手を」


 ヨヨ塚は嫌そうな顔をする。

それで、ゆっくりとした口調のこの人はショウラクさん。

料と付き合っている。


「いいですよ」


 ヨヨ塚とレヴララはバイトの練習を始め出す。

私は抱きつかれたままだ、下にホノの頭が見える。

あとの二人は男で、カレマサとヤエギ。


 私の方を見ながら二人で何か話している。

二人と話したことはあまりない。


 ショウラクさんが私の口元に串焼きを持ってくる。


「はい、あ〜ん」


 私が口を開けるとホノが物凄い勢いでキスしてきて、串焼きが上に吹っ飛ぶ。

吹っ飛んだ串焼きをレヴララがキャッチし、おー、という声と小さな拍手が辺りに広がる。


 私の方はそれどころではないが。

ホノの鼻息が荒くて怖い。


 ショウラクさんがホノの鼻を摘み、ホノの口が私の口から離れる。


「ホノ。ひどいですよこれは」

「レヴララ、次はもっと長くしようね」

「ちょっとうがいしてくる。料さん、私の分の串取っといて」

「まっかせとけやい」


 私はその場を離れる。

祖父はカレマサたちのところへ行って何か話し始めている。

……とりあえず口の中洗おう。

戻ると、ホノはショウラクに捕まり串を食べさせられていた。


 串を焼いている料と鈴子のところへ行く。


「私が焼くよ」

「お、さすが助手ちゃん気が利くね。さて俺はレアルたち見とくよ」


 鈴子はその場を離れず、スマホを片手にグリルの様子をチラチラと見ている。


「レヴララちゃん。先ほどは災難でしたね」

「まあいいよ。あれより先には行かないだろうし」

「フフッ……時々大人な冗談をいいますよね、レヴララちゃんは」


「そうかな。そういえばあのゲーム楽しい?」

「ええ、たまに一人で遊んでいるくらいです。ああいうの違う世界に生まれ変わったみたいで、色々と新鮮です」

「そう感じるんだ」

「レヴララちゃんは違うのですか?」


「私は……」

「串を三本くださいな〜」

「ああ、はい」


 ショウラクが来て、串焼きをホノのところへ持っていく。

続いてカレマサとヤエギが来る。


「俺らにもくれ。あともうちょいしたら焼くの代わるよ」

「ありがとう〜」

「そんじゃ」


 ……さっき何を言おうとしてたっけか。

まあいい、鈴子もそれほど気になってはいないみたいだ。


「しかし、別世界というのが本当にあるのですね。記憶を継いで他の世界へ行けるのなら、死後の世界というのもありそうです」

「そうだね。でも他に世界があったとしても、死後の世界と思い込んだ人たちが宗教の違いで争ってそうな気がするよ」

「それはありそうです。ああ、レヴララは本当に賢いですね」


「バカだよ。それに想像を口にするなんて誰にでもできる」

「いえいえ、誰にでもできることをやってこその人生だと私は思います。その方が色々な方と共感できたりしますから」

「そうなのかな」

「ええ。少なくともレヴララの場合はそうかと」


 人生。

……私と祖父の話を聞いていたのかと疑うくらい、タイムリーな言葉だ。

人生って、自分にとって大事なものにもよるのか?

そう考えると、自分をよく知っておかなくちゃならないかもしれない。


 ジャムルの言ってた自分を救えなければというのもこの辺に通じるのだろうか。

……誰にでもできることをやってこその人生か。

すべきことをしてればいいと思ってたけど、漠然としてきて疲れるな。

何したっていい気さえしてくる。


 私は皿に盛られた焼き上がっている串を口に運ぶ。

雰囲気や気分にもよるのか、初めて食べたわけではないのに初めて食べるような感じがする。

 フアガの料理とはまた違った感じの美味しさだ。

少し落ち着く。


「おいしいですか?」

「うん。にしても……いいとこだね、ここ。居心地がいいっていうかさ」

「こんな高級なところは浮き足立ってしまいますよ」

「そっちじゃなくて。皆仲良しってほどじゃないけど悪くない雰囲気でやれてるからさ」

「ああ。確かにそうですね」

「こういうのがずっと続けばいいなって思うよ」


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