Scene_020_三つ足鳥
食べ終わり、レアルと同じベッドで寝る。
友達とは思ってないと言ったはずなのに、この子はお構いなしにこういうことをしてくる。
嫌じゃないけど、落ち着いて眠れる訳がない。
レアルの寝相はいいようで、すやすやと寝息を立てている。
顔はまだ少し赤いが、今日の夕方ほどではない。
熱も少し引いているようだ。
頭を撫でると、口をモニョモニョさせる。
そういえばこの子は深海ある城の侍女だ。
地上へは出たことがなく、ワクワクしてるような様子だったし、戦闘目的以外でなら一緒にいて……そういう様子眺めてるのもいいのかもしれない。
朝になる。
……暑い。
おおよそレアルが抱き付いてきてる。
「おはよう」
「おはよう、レヴララ。体調良くなったよ!」
「そうか。一先ずよかった。それじゃこっちは山頂のダンジョン行ってくるからさ、ルッセンと留守番頼む。……帰ったら一緒に町の散策でもしような」
レアルは少し驚きつつも嬉しそうに笑う。
「楽しみにしてるね」
「おう。待っててくれ」
私たちは朝食を食べ終え、私は山頂のダンジョンへ向かうと言った後に拠点から離れた後すぐに戻り、入り口横の窓下に座り込む。
ルッセンがレアルを襲ったりしないか気掛かりだ。
窓が開く。
「モンレアルちゃんはケーキが好きなの?」
「はい。フルーツも好きです。ルッセンさんは?」
「俺は焼き肉が好きかな。あっちの世界だと金網の上で薄めの肉を焼いて、塩とかタレを付けて食べるんだ」
「なるほど。興味深いです」
「レヴララが帰ってきたらやろうか」
「はい。……そういえばルッセンさんは、クエスト進めてるんですか?」
「推奨レベルが高くてさ、一つも進めてないよ。レヴララちゃんみたいな強い冒険者には憧れるんだけどね」
「憧れですか」
「そう。俺もこの世界ならではの楽しみ方をしてみたいって思うことがあるよ」
中の様子は分からないが、ただ会話しているような感じだ。
「それにしても、何もせずに留守番っていうのは退屈だね」
「そうですね」
「ちょっと遊ばないかい?」
遊びか。
いやらしい遊びなら私が出て行ってルッセンを叩きのめし、パーティーから追放しないと。
「いいですよ。何をしましょう」
「まずはそうだな、ファイルを送るから一覧と簡易説明を参考にキャラクターを作ってほしい。そのキャラクターの技能数値やステータスを使って、マップを探索して設定された目標を達成するのが君の目的になる」
「ボードゲームならよく遊んでいたので、それなりに得意なのですが」
「ボードゲームとは少し似てるかな。とりあえずやってこうか、GMはAIにやらせるから、俺もキャラクター作るね」
……まあ大丈夫そうか。
私はモートを出て、廃墟跡を歩く。
この辺にはエイリアン系のモンスターが多く、中、遠距離では必中の鋭い一撃を放ってくるし、接近戦ではスーパーアーマーを活かした連続攻撃を狙ってくる。
ステータスは他のフィールドモンスターの数値を全て二倍にしたような感じで、連続攻撃を二回受ければ30レベルほどの冒険者は死んでしまうだろう。
遠くから見える位置に点々と湧くため、戦闘を避けやすいところが唯一の救いだ。
……エイリアンに対して三つ足の鳥モンスターが交戦している。
こんな光景は初めてだ、鳥モンスターが爪でエイリアンを攻撃しようと距離を取り、急接近する。
エイリアンの尾のような触手のようなものが鳥モンスターの
羽を突き破り、鳥モンスターは地べたに転がったのち、立ち上がって前脚を突き上げて威嚇する。
空では二つ足の鳥の群れがホバリングしながらその様子を見ている。
奇形の生物が群れから追い出された? でも三つ足鳥は成長しきっているように見える。
鳥の群れはどこかへと離れて行く。
三つ足鳥はそれを見て追おうと羽をはためかせるが、エイリアンが複数の触手でなぶり叩き、三つ足鳥は羽根を散らしながらダウンする。
よく分からないが、この鳥がこのまま殺される……いや、死なないとは聞いたけど。
現実の生態系に介入するのとは違うものの、手を出したくない。
でもこの光景を見て揺さぶられた何かが、私の身体を動かしてしまう。
エイリアンが鳥めがけて触手を伸ばす。
私はそれをブーメランで弾き、長盾とメイスを呼び出して連続攻撃を防いでメイスで殴る。
エイリアンは少し距離を取り、触手の半分を振り下ろしながらもう半分を突き伸ばす。
私は身を屈めてメイスを槍に持ち変え、突き伸びる触手の中に挿し込む。
回り込もうとするエイリアンに向かって槍で薙ぎ、近付いて盾をぶつけるとエイリアンは消えていく。
三つ足鳥は倒れたままこちらを見つめている。
よく見るとクチバシは砕けているし、翼からは赤黒い血が滲んでいる。
死なないにしてもこれは……でも自動で治癒したりするものなのか?
三つ足鳥は立ち上がり、私の頬に額を当てる。
よく分からないが、私とは戦うつもりがないらしい。
私は三つ足鳥にポーションやら回復アイテムを使う。
「君、何で戦っていたんだ?」
フェムという人物からメッセージ文が届く。
本文には、あ、と一文字だけ入っている。
状況的にはこの鳥の名前がフェム……なのか?
フアガもメッセージ送れるし、この鳥がメッセージを送れても何ら不思議はない。
「フェムって言うのか? ……こっちはレヴララだ。よろしく」
フェムは少しの間私と目を合わせ、その場に座り込む。
フェムの頭を撫でると、ただ私の方だけを見つめる。
パーティー参加申請がフェムから飛んでくる。
「こっちの仲間になりたいのか。いいぞ、了承してやる」
とりあえず了承する。
しかし、拠点に連れ戻るには少し進み過ぎた。
もう少しで山に入る。
……戻るのは面倒くさい。
このまま付いてくるかも分からないし。
とりあえず進むか。
フェムがのそのそと後ろから付いてくる。
山など地形が悪いところでは、モンスターは出ない。
変わりに悪天候で風が強かったり、現実と同じような厳しさが待ち受けている。
少し歩き疲れた。
立ち止まると、フェムが目の前まで歩いてきて背に乗れと言わんばかりに座る。
……モンスターの世界でも、借りは返すとかいうのがあるのだろうか。
「乗せてくれるのか?」
フェムは微動だにしない。
私の一方的な想像で、フェムの背に乗る。
フェムは立ち上がり、羽を広げ山を下るかのように飛び立つ。
羽はなんとか回復していたようだ。
「フェム、山頂……って分かるか? さっき登ってたとこの一番上だ、そこへ行きたい」
フェムはある程度降下し続けた後、逆の方向へと飛びゆっくりと上昇していく。
山頂が後方下に見える高さまで飛び、フェムは旋回する。
言葉は伝わっていたようだ。
少し寒いがスピードを加減してくれているような気がする、妙に乗り心地がいい。
下を見ると、落ちたら間違いなく死ぬ高さだった。
思わずフェムにしがみつく。
気付いたら山頂に着いていた。
ダンジョンは山頂から下へと続いているらしく、階段がある。
看板に書かれていた推奨レベルは120。
まあ行けるだろう。
私はその中へと進む。
フェムが後をついてくる。
死なないか少し不安だ。
「フェム、レベル見せてくれ」
私はフェムにレベル公開要請を送る。
……承認される。
61レベルか。
あれに苦戦してたとは思えないくらいの高さだ。
「今まで逞しく生きてきたみたいだな。このダンジョンに君がついてきても生還できるだろう」
私はダンジョンの中へと進む。
中は所々で溶岩の光る、火山岩地帯だ。
奥からサラマンダーの群れがこちらの様子を伺っている。
フェムがそこへ飛び込み、一匹を爪で八つ裂きにしてから距離を取る。
前衛のサラマンダーが火を吹いてフェムを攻撃するが届かず、上空から次々と外側のサラマンダーが葬られる。
サラマンダーたちは薄暗い洞穴の中へと逃げて行く。
フェムはそれを追おうとする。
「フェム、待て。追うな。奴ら今は床を歩いてるけど壁も歩けるんだ、誘い込んでから焼き払うつもりかも知れない」
フェムはこちらを向くと、戻ってくる。
「ありがとうな。こっからはこっちでやる、後ろについて来ててくれよ」
ランタンを灯して腰に付け、洞穴の中を進む。
遠くから明かりが迫ってくる。
サラマンダーの炎だ、私は盾を呼び出してそれを防ぐ。
……熱い。
少しダメージを受けたようだ。
炎が止まった瞬間にブーメランを投げるが、避けられる。
焔は偏差ではなく一斉に吹いて来ているようで、持続時間は五秒。
次までの間隔は二秒か。
……盾が炎で溶けてく、私は盾を外して投げ付け氷魔法で洞穴内を凍らせる。
足が凍って身動きの取れなくなったサラマンダーたちのところへ飛び込み、洞穴を抜けた後にサラマンダーを後ろから短剣でつついて倒してゆく。
この辺はまあ強くはないか。
フェムと共に、さらに下へ向かう。
……もうボス部屋らしい。
扉を開いた先は王の間のような長い通路で、二十メートルぐらいはありそうな燃え盛る鎧の巨人が十体左右に並び、大きなハンマーを持って待機している。
手前の四体が動き出し、息を合わせているかのように同時にハンマーを振り下ろす。
思ったより動きが早い。
後ろから何かに持ち上げられ、振り下ろされるハンマーの隙間を抜けた後上空へと飛び上がる。
フェムが助けてくれたらしい。
フェムの背に乗り、下の様子を見る。
十体全てが動き出しており、私たちが降りるのを待ち構えている。
一体がハンマーを振り投げてくる。
フェムは何とか避けるが、風圧で壁に叩きつけられ地面に落ちる。
地べたから立ち上がろうとすると、ハンマーの影が見える。
ちょこまか動き回って少しずつ削るか、上空から攻撃しようと思ってたけど仕方ない。
私はフアガと同じ姿に変異し、能力を切る。
巨人のハンマーを爪で切り裂き、迫り来るハンマーを避け切り、足を殴り砕き、落ちたハンマーを振り回して一気に制圧する。
巨人たちが消え、記憶経路が所持品に入る。
そういえば今までも何個か拾ってたけど、一つを見てから他には目を通してない。
暇な時目を通すか。
奥にあった玉座が震え出し、メッキや布が剥がれ濃い紫でトゲトゲした怪物が現れる。
背もたれの部分が口のように広がり、その奥にはただ真っ黒な空間が広がっている。
多分これがこのダンジョンのボスだ。
玉座は歩き出し、黒い空間から鎧を着た男を吐き出す。
私は爪を振り、衝撃波みたいなのが飛んでいく。
玉座に当たり、玉座は消えて行くが鎧男は避けて剣と盾を手元に呼び出し、こちらへと駆け寄ってくる。
能力を入れ、振り下ろされた剣を受けながら鎧男の胸の中心を腕で貫く。
鎧男は剣を引き、私の首を切り落とそうとするがすり抜け、剣を握ったまま消えていく。
辺りの空間が白く染まってゆき、目の前に宝箱が現れる。
フアガの時こうならなかったから変更されたと思ってたけど、こっちが普通らしい。
……それにしてもこっわいギミックだったし、今回のダンジョンボスにはかなりの殺意があった。
変異なしではどういう戦法を取ればよかったのやら。
宝箱の中身は小さな培養液の中に入った八面体の結晶、の周りに細い肉のようなのが沢山張っているものと記憶経路が一個。
アイテム説明を見たところ、埋め込み式装備でレアアイテムらしい。
効果は合成魔法強化で自動発動、つまり一日一回使用の制限はないものだ。
かなり強そうなので手の甲に埋め込んだ。
ダンジョンの入り口に戻される。
フェムが起きて、こちらに背を向ける。
「お、ありがとう。モートまで頼むよ、座標はここな」
フェムにデータを送り、その背に乗る。
すぐにモートの拠点入口に着く。
太陽はまだ真上だ。
フェムから降りて、その頭を撫でる。
「この庭は君が使っていい。それとアイテムストレージの一部を共有にしとくから、食べられそうなのあったら食べていいぞ」
フェムは早速地べたに木の実を呼び出して啄ばむ。
うーん、元々飼われていたのだろうか。
適応したにしては早い気がする。
玄関の扉を開ける。
レアルとルッセンが椅子に座っている。
「あれ、早かったね。おかえり」
「おかえりなさい」
「おう、ただいま。なんか……鳥を拾ってさ。それで行き来早く済んだ」
「鳥? 見てみたい!」
「今庭にいるよ」
レアルは喜んで玄関を飛び出し、庭にいたフェムに近付く。
「クチバシ割れてる、可哀想に」
「理由は分からないけどフィールドモンスターと殴り合ってた」
ルッセンも付いてきて、フェムを眺める。
「そんなことあるんだね」
「珍しいよな。初めて見たよ」
「この子、フェムっていうんだ」.
「メッセージか?」
「そうそう」
「あ、俺にも来てる」
フェムはじっとルッセンの方を見つめている。
「フェム、この人はルッセンであっちはレヴララだ。今度どっか行くときにでも、背に乗せてやってくれると嬉しい」
フェムは素っ気ない様子で柵の方へと歩き、町の様子を眺める。
「レヴララ、モートにもご飯出してくれるお店があるみたいだよ。三人で食べに行こうよ」
「ああ」




