Scene_018_死刑
ここからは石造りの道と街路樹のように立ち並んだ樹木がしばらく続く。
樹木の向こう側は木々で視界が塞がれており、モンスターの奇襲が怖い場所だ。
一番近いのはベレリフタバンという町で、冒険者向けの設備が充実してる。
レアルは朝日に照らされながら、ガレイの背中で眠る。
「町までは少し遠いぞ。ガレイも眠っておいた方が良いんじゃないか?」
「町に着いたらそうする。ここは落ち着かねえ」
「そうは言っても半日かかるから、休みたい時は言えよ」
ギルド本部の入口から足を踏み出す。
そういえばアイツ、どうやって私に付いてきてたんだろう。
深海への移動はベレリフタバンから歩くのが最短というくらいインフラが悪い。
レベル5という低さやアイツの性格からしても、一人で来たとは考えづらいし。
歩いていると、スケルトンたちに囲まれる。
複数体同時に来るのはフィールドでは初めてだ。
「何だコイツら」
「ガレイ、伏せてくれ」
私は光魔法を放つ。
光魔法と言ってもその実は衛星操作権限で、一段階目は時差のある定点レーザー、二段回目は自身を中心とした小範囲のレーザー、三段階目は指定位置への広範囲レーザーになる。
MP消費が激しい上にフィールド以外では使えないけど、その分強力だ。
スケルトンたちの大半が一瞬で消滅する。
「は? 何が起きた」
「光魔法だよ。それよりも打ててあと8回なんだ、このペースで出てこられるとまずい」
「すげえなお前。つーかモンスターが弱いのか? とにかく、俺は戦えないから任せた」
「戦えよ」
残りのスケルトンは体制を崩している。
MP消費抑えたいものの、光魔法以外は一体倒すのに二分はかかる。
残りは三体。
とにかく一匹ずつ片付けるか。
三体のスケルトンが拳銃を呼び出し私に向けて撃ち込んでくる。
私は防弾チョッキを呼び出し即時装着して弾丸を受け流す。
この世界では銃を向けられてもこれが出来るし、生身で撃たれても耐えられるから普通の銃はそこまで強くない。
次にブーメランを投げる。
これには貫通する性質があり、相手の身体を通過する。
他にも刺さる性質のものと弾く性質のものがある。
急所以外で即死ダメージを与えるとその部位を斬り飛ばせたり、蓄積ダメージが一定量を超えると血が流れたり、傷を負ったりもする。
そして短剣を両手に呼び出す。
殴って来るスケルトンの拳に刃を向け短剣を強く握り構える。
拳は弾かれ、スケルトンは少しのけぞる。
その隙にスケルトンの胴に突きを入れ、さらに仰け反ったところへ踏み込み身体を切り刻む。
腕を交差させて斬り、左右に開くように斬り、上から降り下ろして斬る。
8hitにしかならないけど、ノックバックを入れつつ倒し斬るには丁度いいダメージになる。
スケルトンは背から転んで黒いモヤになり消えていく。
もう二匹のスケルトンはいつの間にか銃を手放しており、微動だにせず立っている。
どういう訳か分からないけど、あまり時間を取りたくない。
「フィールドで敵が複数出たのは初めてだ。町まで急ごう」
「おう」
私たちは駆け足で道を抜ける。
結局あの後、敵が湧くことはなかった。
ベレリフタバンに着き、息を切らせながら街中を少し歩く。
レアルが目を覚まし、ガレイはレアルを背中から下ろす。
……ガレイは唾液を垂らしながら地べたに座り込んで空を見上げている。
「お前、お前な、少しは、休憩しながら、走るもんだろ」
「しかたないだろ、敵の湧き、違ったし」
レアルはというと楽しそうに町を眺めている。
「すごいところですね、不思議な建物がたくさんあります」
「たし、かにな、こんな、場所、初めて、だ、」
私にとっては現実世界で見たことすらあるような景色だけど、二人とも感動しているようだ。
「そんじゃ、ガレイ。元気でな」
「おう、またな」
ガレイは息を切らせたまま立ち上がり、出店の前をうろうろし始める。
私とレアルは広場へ向かい、噴水を囲うように置かれた円形のベンチに座る。
「レアルもガレイと同じようにこれからは好きにするといい、と言いたいとこだけど。そのうち城に帰したいし、同行させてくれ」
「はいっ」
レアルはとても嬉しそうに答えた後、浮かない顔をする。
「でも、レヴララ様のお邪魔にはなりませんか?」
「そりゃあ拘束されてた間できなかったことやりたいけど。どのみち仲間は作りたいし、一人で気ままにやるっていうのもなんか虚しいしさ。あと敬語使わなくていいよ、気楽に行こう」
「……分かりました」
レアルは咳払いする。
「分かった。……」
レアルは顔をほんの少し赤らめる。
……まだ信頼はできない。
王子の言うような理由があるにしてもレアルは急接近してきた相手だ、怪しい動きをした時は警戒しないと。
「レヴララはレベル高いけど、ずっとレベル上げしてたの?」
「おう、モンスター倒す以外に楽しみなくてさ。レアルはどうなんだ」
「私は……王子専属の騎士兼侍女として両親から鍛えて貰ってた」
「そうか。レベル見てもいいか?」
「どうぞ」
レアルが右腕を握るような形で腕を前に出す。
私はホログラム越しでレアルに触れて、レベル公開要請を送りレアルのステータスを開く。
レベル136か、私よりも高いな。
「強いって聞いてたけど本当みたいだな」
レアルは、へへ……と笑う。
「戦闘スタイルみたいなのってある?」
「基本はこの武器を使うのですが、時間がかかったらもう少し慣れてる武器を使います」
レアルはそう言いながら袖を捲り、籠手を見せる。
一見防具に見えるけど射出口のような物が取り付けてあり、何らかの武器としても使えそうな形状だ。
「少し変わった武器だな」
「父さんが私に合わせて作ってくれた。同じ種類の武器は滅多にないと思う」
「よおレヴララちゃん。動画見たぞ、まさかアイツとあんなことを毎日やってたなんてな」
いつの間にか転移者の男たち十一人と一人の女が私たちを囲うようにしてジリジリと近づいてくる。
……モンスター複数湧きで焦り過ぎた。
ここはギルド本部に最も近い町だ、アーカイブを受け取った人たちが待ち伏せしててもおかしくない。
休んでる場合じゃなかったんだ。
男の一人がレアルの服を掴み、引き裂こうとする。
レアルは男の顎を殴り付けて倒し、気絶させてしまう。
一撃でスタン取るなんて、やっぱり強いのか。
レアルは黙って私の前に立つ。
「私はどうなろうと構いませんが、レヴララに手を出すならこの世界から去って頂きます」
男たちは立ち止まり、コソコソと話し合う。
なんであんなに強いんだ、あの子言ってること無茶苦茶だぞ、とか言っている。
一人だけいた女がレアルに近づく。
「あなた、転移者を殴ったわね。これは重罪よ、この町では死刑に値するわ」
「な……レヴララ、本当なの?」
「嘘だよ。そんなのあったら転移者のやりたい放題になる」
「何言ってるの。転移者のやりたい放題にしていいのがこの世界なのよ?」
女はニヤニヤと笑っている。
実際に転移者を殴るのは重罪になるけど、転移者が転移者を殺すのは何の罪にもならない。
最悪殺してでもここを脱出しないと、力づくで誘拐しようとするような奴等に私たちの時間と身体を握らせる訳にはいかない。
……特に強い意志を持ってそれをやってる人間は、そうやって止めるしかない。
レアルは何を察したのか服を脱ぎ始める。
「その、レヴララは好きでああいうことをしていた訳ではないので見逃してください。私は別に嫌ではないし、そのうち城下町の城へ帰していただけるならそれで構いません」
レアルは顔を薄青くしたまま首飾りだけ付けた裸になる。
女はレアルの頭を撫でる。
「へえ〜、そうだったのね。まあどっちでもいいわ、ちょうど皆あなたくらいの子が欲しかったのよ。私たちの仲間になって、一緒にこの世界を楽しみましょ。そうね、せっかく脱いでもらったんだし早速ここで、お互いの信頼関係を確かめ合いましょうか」
女の顔にブーメランを投げる。
女は倒れ、流した少量の血と共に白いモヤを出し、消えてなくなる。
モヤが消え、小さな血痕が地面に残る。
「レヴララ。気でも狂ったのか」
「先に仲間にしたのはこっちなんだよ、だからレアル。そっちに行くな」
気絶している男の首に短剣を差し込む。
……こっちは一回じゃ消えないか。
何度か抜き刺しすると血が噴き、男は消える。
殴られたヤツを殺せばレアルの罪はなくなる。
これでいいはずだ。
男たちは散り散りになって逃げ出す。
レアルは裸のまま立ち尽くしている。
「レアル、巻き込んで悪かった。早く服着なよ」
レアルは黙って服を着た後、座り直して呆然と町を見つめる。
「……すみません。殺させてしまって」
「いいよ。それにこんなこと、今回の一度きりで済むはずだ。早く忘れよう」