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未開の虚像現実より  作者: 坡畳
到達者編
14/45

Scene_014_ルミェ郊外

 シイリッヒの支援魔法を受けながら、イノシシ型のモンスターを剣で切り付ける。

モンスターの突進が来る。

避け切れずにダメージを受けるが、吹き飛ばされない。


 モンスターは硬いものにでもぶつかったかのように、一瞬前足を宙に浮かせて仰反る。

そのまま剣を振り続けていると、モンスターが倒れる。


 スーパーアーマーと自動回復付与のおかげで、どんな相手でも剣で切り続ければそのうち倒せるようにはなった。

しかし、レベルは10だ。

途方もない数の敵を倒したはずなのに、レベル10。

次のレベルまで必要な経験値はどんどん増えていくし、もう疲れてきた。


 特攻の効果が入る敵を倒したいんだけどシイリッヒはそれだと技術が身に付かないとかって反対してくる。

この戦法の方がよっぽどだと思うんだけどな。


「少年くん。そろそろ休憩しようか」

「はい」


 街に戻り、カフェに入る。

倒してからの戦利品は自動でアイテムストレージに入るようだ。

通貨や素材、ポーション類が僅かに溜まっている。


「少年、ここでは専用のホログラムを開ける。そこから注文もできるのだが……今回はとりあえず私のおすすめを頼んでおくよ」


「いらっしゃいませ。ご注文は?」

「オニオンスープ二つ、ステーキセット二つで頼む」

「はい、オニオンスープがお二つと……ステーキセットがお二つでよろしいですか?」

「うん」

「ありがとうございます」


 ウェイトレスが注文票……いいや、ハンディターミナルを閉じる。

俺はテーブルに顔を伏せる。


「そんなに疲れたのかい?」

「まあ、はい」

「それにしてもレヴララたちが気がかりだ。あの一件、レベル300に到達したが故の仕打ちだと旅人の間で噂になってる。実際にはどういうことが起きているか、気になって仕方がない。あの時見に行けばよかった」

「俺、見に行きましたけど突き出されましたよ。俺たちが気にするようなことじゃないと思います」

「ふーむ……」


 シイリッヒは椅子に寄り掛かる。

俺の返事が気に召さないとでも言いたげな素振りだ。


「それよりレヴララって、短期間でどうやってレベルを上げていたんでしょうか」


 シイリッヒはこちらに顔を近付ける。

なんて分かりやすいやつなんだ。


「彼女は無謀にもレベル3でソロダンジョンに挑み、なんと攻略してしまったのだよ。レベル99で挑んで帰ってこない者もいるというのにな。メインで使った武器は鉄製のブーメランとされていて、縦に投げても戻ってくる代物だそうだ」

「レヴララってそんなに強いんですか」

「そうだ。彼女がまだ幼いからと大勢の低レベル冒険者がソロダンジョンに挑むも、一人として帰ってくることはなかった。行くとしてもレベルは50、十分な所持品と様々な敵への対応力が必要とされている」


 モートでの戦いを見る限り、モンレアルやツルハシとかの方がよっぽど動き良かったけど。

何か抜け道でもあったんじゃないのか?


「しかし、実力が伴っていないと疑う者もいたな。疑う者の代表者が冒険者同士の決闘を彼女に申し込み、彼女の実力を証明する結果になったが」

「本当ですか?」

「本当だ。記録を見せてやろう」


 シイリッヒから即座にアーカイブが送信される。

動画のようで再生すると、ホログラムに映像が流れる。

かなりの人だかりの中、レヴララの隣には見知らぬ男が立っていた。

異様に距離が近くて何か気持ち悪い。


 邪魔だの何だの言われ、男がレヴララから離れ人混みに紛れる。


「それじゃ、低レベル攻略者の実力を見せてもらうぜ」

「……おう」


 対面の男はゴツい鎧を着て盾を持っている。

レヴララは軽装で、手にはブーメランがある。


「あのガキ、あんななりでマシムと10レベル差らしいぜ」

「噂が嘘だろうが本当だろうがマシムには勝てないだろ。盾で殴られて一発KO、はたまたレアアイテム効果の武装解除でなぶり殺しさ」


「それでは、試合開始!」


 レヴララの手元からブーメランが消え、鎧男の手に剣が呼び出される。

鎧男は剣を下ろしたままレヴララに近付く。

レヴララはブーメランを持っていた手を眺めている。


「終わったな。武装解除の効果であのガキは武器を呼び出せない」


 鎧男がレヴララに向かって盾を突き出す。

レヴララは鎧男が剣を握っている側へ避け、手を足で蹴りつける。

鎧男の手から剣が滑り落ち、レヴララはそれを拾い上げ鎧男の背に向かって構える。

 鎧男が振り向くと同時に、レヴララは剣を両手に握り締め鎧を突く。

金属音が鳴り響き、鎧が割れ男は仰向けに倒れる。

鎧男の手元から盾が消える。


 レヴララは鎧男の脇に立ち、喉元の隙間に剣を振り下ろす。

剣は消え、鎧男はレヴララの脚を掴もうとするが蹴り返される。


「シールドバッシュを堪えれば、まだ戦いになったかもな」

「この状況で何を偉そうに、気でも狂ったか。鎧を砕いたところで無駄だ。お前は俺への攻撃手段がない、いくら避けようと終わりだ」


 鎧男は立ち上がり、鎧を解除して鎖帷子を見せる。

そして新しい別の鎧を呼び出し、一瞬で装備する。

レヴララは鎧男に向かって魔法を使おうと手を向ける。


 鎧男はレヴララとの距離を一気に詰め寄る。

俺の迅雷と似たようなものか? しかし、レアアイテムを使った後はスキルを使えないと聞いた。


 地力……だろうか、恐ろしい。

レヴララは魔法を中断し、鎧を蹴り付ける。

鎧があっさりと砕け、男は地面にうずくまる。


 動画はここで終わりらしい。

鎧男、迫力があったし見た目の割に動きは早かったけど、レヴララに行動を読まれているような感じだった。


「レヴララは読みが強い上プレイヤー特攻を持っていてな、対人戦はこの通りだ」

「……でもレベル3で攻略って、これだけ素質があっても不可能なんじゃ」

「時間はかかったらしい。レベル3と50ではステータス差が20倍ほどあるし、道中で多少レベルが上がったとしても、ボスにはどんな攻撃も1ダメージしか通らなかっただろう。それでも丸二日かけて攻略したんだ」


「クリアして、レベルはいくつ上がったんでしょうか」

「一気に80まで上がったそうだよ。それ以降は各地のダンジョンを回って、この世界に来て一週間でレベル100に到達した。それからはパーティーを組むようになったらしく、経験値が分配されたりスケジュール合わせたりしてた分、ペースはかなり落ちてたみたいだ」

「へーえ」


 エズメとの会話から察するに高レベルの迷惑プレイヤーを殺してレベル上げしたと思ってたけど、無謀ながらも割と真っ当に上げていたんだな。


「君の場合はこの調子で行けば、一月でレベル30前後にはなるんじゃないかな? それからは傭兵の子と一緒に頑張るといい」

「そのくらいですか」

「レヴララと比べてはいけないよ。これでもかなりのハイペースだ、普通はレベル30まで半年掛かる。その代わり今は剣を振るためだけの戦い方をやらせてしまっているし、傭兵さんからスキルの振り方や戦い方をしっかり教えてもらった方がいい」


 比べてるわけじゃない。

苦労に見合わないような気がして飽きてきただけだ。

ああ、レヴララも同じ気持ちで早めにダンジョンへ向かったんだろうな。


「こんなにレベルが上がらないなら、一か八かでダンジョンに向かったレヴララの気持ちが分かりますよ」

「待ちたまえ、レヴララは一か八かでダンジョンに向かった訳ではないぞ。彼女には熱心なストーカーがいてな、ソロダンジョンを逃げ場にした訳だ。そしてそのダンジョンが思っていたより楽しかったらしく、一週間こもる予定が二日かけての攻略ということになった」

「はあ」


 このレヴララオタクめ。

あと二十八日も一緒に過ごすんだぞ? 正確な情報なんかよりも俺の気分を察してもらいたいものだ。


「お待たせしました。オニオンスープが二つになります」


シイリッヒが注文したスープをウェイトレスが置く。


「ありがとう。なあ、少年。君はどこか、レベル上げに焦っているように見える。レヴララのように、この世界を自分なりでも楽んでみたらどうだ?」

「俺はさっさとレベル上げて、強くなって女の子からチヤホヤされたいんです。それの何が悪い……んですか」


 ああ、つい本音が出てしまった。

でもこの世界が最初にジャムルが言った通りなら、ファンタジーなんだ。

レヴララだけじゃなくて、俺にとっても都合のいい世界であるべきだ。


「悪くはないが、それなら強くなるだけではダメだ。むしろ強さより大事にせねばならないことがある」

「何ですか? ……それ」


 興味ないけど、レヴララから嫌がられていたヤツが大事にしていることは反面教師として知っておくべきだろう。


「努力。と言いたいところだが、それは我々のサポートがあれば必要ない。異性への気遣い。それを上手くできればレベルなど関係なくチヤホヤされるだろう」

「具体的にどういう感じですか?」

「まずは距離を縮める。何かしら同じものに属していなければ不自然なので、相手は我々と同じ旅人に絞る」

「ふんふん」


「話は自分がやろうとしてることでいい。旅の中で起きたエピソードなんて言う必要はないよ、そして旅に関する話でなくてもいい」

「ふんふん」

「それからが気遣いだ。気遣いと言ってもお節介を焼く訳ではないし、日頃から誰に対しても行うようなことになる」

「ん……どういうことですか」


 シイリッヒが深くため息を吐く。


「少し厳しい言い方をさせてもらうと、受け身なままでは叶わないということなのさ。ただし、転移者というだけでその他の条件は揃ってる」

「なるほど」


 そうは言われても、レヴララやレアルはこっちが何をしなくてもチヤホヤしてくれてたし。

嫉妬だろうな。


「さて、チヤホヤされたいのなら強くなる必要はないと思うのだが。君はこれからどうするつもりだ?」

「どうって、レベル上げを続けますよ。それで強くなって、レヴララが目を覚ましたら一緒にダンジョンへ行く仲間になるんです」

「ほお、いいじゃないか。ぜひ頑張ってくれ」


 なんだ? 嫉妬ならここで言葉に詰まるとか、激怒するとかやりそうなものだが。

思っていたよりつまらない反応だ。


 シイリッヒの注文した料理が届く。


「しかし、ソロダンジョンへは行くべきじゃない。見た限り君は繰り返し挑むことで強くなるタイプだ。それでも低レベルで挑むつもりなら戦闘の修練、そしてクリアできそうになかったら帰る引き際を理解しておいた方がいい。それとダンジョンにはこういった串刺しトラップの他、様々な罠が仕掛けてある。当然モンスターもいる、フィールドのモンスターが群れを成しているような形でな」


 シイリッヒはステーキ肉をフォークで突き刺し、フォークを逆さに持ち上げる。

肉の両端が垂れ下がり、シイリッヒがそれを口へと運び噛みちぎる。

今までと違うその態度に、思わず息を呑む。


「…‥分かりましたよ。まだ行きません」

「そうしてくれた方がいい。転移者と言っても命は大切だからね」

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