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未開の虚像現実より  作者: 坡畳
到達者編
13/45

Sence_013_ヨヨ塚

 講義に遅刻する夢で目が覚める。

もう履修の必要数は足りているというのに。

しかも時間は余裕で一限目に間に合う。


 今日バイトは休みだし、準備してから研究室に行くか。




 3分ほど歩き、大学の研究室前まで来る。

中に入ると、猫耳と尻尾を付けた変な少女が本を読んでいた。


 目を合わせないようにしながら資料を探す。


「こんにちは。ゼミ生の方ですか?」

「あ……ええ」


 よく見ると、ファンタジーの世界から来たような、現実味のない可愛い見た目だ。

触れてはいけない崇高なものが目の前にいるようで緊張する。


「私、お爺ちゃんの娘のモンレアルといいます。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 誰かが研究室に入ってくる。


「あ、ヨヨ塚さん。資料取りに来たの?」


 横を見ると、レヴララが不機嫌そうな顔をしている。

この子は若年ながらも助手をしてる分、相当な苦労してきていると先生から聞いた。


「はい」

「バイト大変そうだね」

「はは、まあ。そうですね」


 モンレアルが微笑みながら資料をこちらに向ける。

俺はつい顔を逸らしてしまう。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 資料を受け取ると、レヴララがテーブルにあったノートパソコンを開き、ヘッドホンを耳に当てる。


「ヨヨ塚さんはゲームやるの?」

「やってます」

「どういうの?」

「ゲーム実況見て面白そうだったのを色々と」

「ふーん。これやってる?」


 ノートパソコンの画面を見ると、親しみのある景色が映っていた。

一瞬画面が暗転し、レヴララと目が合う。

レヴララは睨みながら苦笑いのような笑みを浮かべる。


「このゲームやったことあるでしょ」

「ありません」

「嘘だな、さっきの表情はやったことあるって顔だった。おおよそ女性アバターなんだから隠したいんだろ」


 黙っているとレヴララはヘッドホンを外し、こちらを向く。


「やったことあるんなら、一緒に遊んで貰えるとかなり助かる。ダメならどこにどんなNPCがいるっていうのを教えて欲しい」

「まあ、教えるのはいいですよ」

「本当? 助かるよ。でもまた今度に教えて。お礼用意しときたいし」


 NPCか。

どういう楽しみ方をしてるのか気になるものの、俺のとは全く異なるのは確かだ。

俺ならNPCとの会話文は読み飛ばす。


 このゲームは一見、平凡なVRMMOなのだがゲームジャンル以外の情報が閉鎖されてる。

少しでも関連のあるネットの書き込みは即削除され、プレイ動画もなぜか配信や投稿ができず、音声通話でもノイズがかかったりと明らかにおかしい。


 情報交換はゲーム内チャットでだけ可能なため、プレイヤー同士の情報の売り買いが行われているぐらいだ。


 無課金ゲーでどうやって運営されているかも謎、他のオンラインゲームでも見るようなログインページのリンクだけが消されずに拡散され、同時接続数は一万人規模。

 呪われてそうな代物なのに人気なのは、謎に対するロマンなのかも知れない。




「今レベルいくつですか?」

「2。装備買ってちまちま上げてるよ」

「なるほど、まだ初めたてぐらいでしょうか」

「そんなとこ」


 モンレアルが本を閉じ、俺に微笑みを向けた後、隣に立って画面を見る。

すぐに触れるような距離だ。

俺はついモンレアルから数歩離れるが、モンレアルはすぐさま俺の側に寄り、声をかけてくる。


「ヨヨ塚さん、バイトって何ですか?」

「飲食店で接客や簡単な調理とかをやってます」

「なるほど。私もやりたいです、興味あります」


 真面目そうに話すけど、冗談で言ってるのかよく分からない内容だ。

もし本気ならかなり助かる。


「レアルは働いたり従属したりするの好きだからな」

「言い方……」

「ごめんごめん。ま、いいんじゃないか? ヨヨ塚さんよりは暇なんだし」


 どういう話の流れなんだこれは。

混乱していると、隣にいるレアルの体温が空気で伝わってきて、慌てて立ち上がる。


「俺、もう帰りますね。資料ありがとうございましたと先生に伝えてください」

「分かった」




 家に帰って資料に目を通した後、パソコンを立ち上げる。

論文……か。

どうするか悩んでいたら、既に進められている研究に名前を載せるだけみたいなものをやることになった。


 用意された質問紙を大学で配布して回収。

その段取りが資料には書いてある。



 風呂に入り、着替えて飯を食べた後、ゲームを起動してログインする。

だだっ広い草原に木がポツポツと生え、巨大モンスターがちらほらとうろつく。


 ……ゲーム内で鏡を持って見てみると、モンレアルの見た目と全くと言っていいほど似通っている。

服が違うのですぐには気付かなかったが、奇妙なこともあるものだ。


 ゲーム内でやってることはレベル上げだ。

皮肉にも、レベル上げに飽きたのを理由にソロ用ダンジョンへ何度か挑戦してクリアし、今はレベル100から装備可能なレアアイテムを装備できるようにフィールドモンスターを狩っている。


 どこのフィールドモンスターも強い割には経験値がまちまちだからか、リセット前後の最初の街に近い場所は他のプレイヤー達が狩場にしていて倒すのが難しいし、何より喧嘩腰のチャットが投げられ易いので近づきたくない。


 前日にようやく上げ終わり、今からレアアイテムを試す。

その後はダンジョンでレベル上げだ。


 珍しく、他のプレイヤーが近くを通る。

三人組らしい。

一人はモンレアルによく似た外見だ。

表示される名前はモクスデ。


「レアルが二人いるww」

「え」

「しかも強いww」


 笑ってるキャラは獣耳の男で、名前はキュリネ。

薄い色の赤髪を背まで伸ばしている。

もう一人は黒髪ショートで名前はメグ。

冷たい雰囲気の女キャラだ。


 レアル……ってことはあの子が実際にモンレアルで、他二人は知り合いか。

どちらかはレヴララだろうか。


「こんばんは」


 挨拶をすると、三人とも手を振ってくる。


「こんばんは、失礼しました。レベル上げをされているのですか?」

「はい」

「良ければ私たちとパーティーを組みませんか? 街の近くは治安が悪くて。別々の敵を狩るようにして頂くだけで構いませんので」


 黒髪の子が声を掛けてくる。

それにしても、珍しい提案だ。

まるで暗黙のルールを口にされたかのような。


「いいですけど、アイテムがないので蘇生は出来ませんよ」

「結構です。分隊にして別々の敵を狩りましょう」

「了解です」


 三人のところへレヴララによく似た子が近寄る。

表示名もレヴララだ、あだ名だろうとはいえそのまま使って大丈夫なのか?


 さっきまではいなかったし、今ログインしたのだろうか。

しかしレヴララは真っ白な髪色で、この子は少し灰色っぽい。

 そこだけ微妙に変えていることにどこか違和感を覚える。


「ん?」

「どうした?」

「ん……何でもない。リランさん、こんばんは」

「こんばんは」


 レヴララ似は少しこちらを見て、すぐに目を逸らす。

言おうとしたことがなぜだか分かる。


「皆、今何レベル?」

「まだ全員5だよ」

「そっか。こっちは20だからしばらく見てる」

「上がるの早くない?」

「この辺の敵二匹倒しただけだよ。ソロだから経験値分散しないのもある」


 男が嬉しそうに腕を振り上げる。


「やっぱゲーム上手いんだな、レヴララって」

「それより、思ってたよりもかなりレベル上がり易い。予定よりゆっくり進めよう。メンテって週一回だっけ?」

「月二回だったと思う」

「なるほどな。んと……」


 レヴララは魂の抜けたように座り込む。

現実で一時的に操作不能状態になると起きる現象だ。

すぐにレヴララは立ち上がる。


「やっぱレアルが計算してくれ、レベル1から90までの必要討伐数。地形リセットまでの日数差と経験値量的に160倍、必要経験値数は変わらないから……どのくらいだ?」

「えっと、650です」

「そっか。それなりだな」

「そろそろ俺落ちるわ。また時間会ったら来るー」

「おつかれさま」

「おつかれさまです」


 男キャラの足元に魔法陣が現れ、魔法陣の光に包まれて消える。


「メグさんは時間大丈夫?」

「暇ですので。お邪魔でなければいつまでもお付き合いします」

「そっかー、助かるよ。あ、早速湧いた。リランさん、あれ貰ってもいい?」

「いいですよ」

「ありがとう」


 三人は少し離れた場所に出現したモンスターの元へ向かう。

どんな戦いをするのか見てみたい気もするが、近場にモンスターが湧く。

植物系の木型モンスターだ。

この辺は炎が通りやすい敵ばかり湧く。


 俺はオーブの入った器を呼び出して炎属性を付与し、鞘から抜いた剣でオーブを撫でる。

こうすると武器に属性を付与できる訳だ。


 早速モンスターに切り掛かるが、こちらに気付いていた割に動きがない。

こういう場合、地面からの攻撃が来る。

地面があちこち少し膨らみ、蔦が針のように生え突き上がる。


 それを避けて行手を遮る蔦を斬り、モンスターの胴に向かって思い切り剣を振り入れるが、モンスターの片腕にそれを防がれ、もう片方の腕で思い切り殴られて吹き飛ばされる。

 しかし、剣を振ったと同時にオーブから炎魔法が放たれていたらしく、モンスターは燃え盛る。


 オーブは属性付与とその属性の魔法を撃ってくれる訳だが、レベル100になっても一撃で倒せるわけではないらしい。

 立ち上がると同時にモンスターを燃やしていた炎は消える。

あとは今まで狩っていたやり方でやるか……。

俺は手斧を取り出してひたすらモンスターに投げる。


 三個ほど直撃すると、モンスターは消える。

普段はもっと使うが、これならこの先のレベル上げも捗るな。

俺はオーブの器と手斧を拾い、アイテムストレージに収納する。


 さっきの二人の方を見ると、モクスデが木のモンスターに貼り付くようにして短剣二刀流でガツガツ斬り、メグという人は遠くから弓をちまちま当てている。


 すごいのは、メグの弓がモクスデに当たらないところだ。

まるで後ろに目がついているかのように、モクスデは着弾地点を先読みして位置取りしている。


 ……しかし、これだけやって倒すのに10分か。

やはりこのゲームは序盤からモンスターが強すぎる。

三人が集まって話し始める。


「モクスデさんすみません、矢が何本か向かってしまって」

「いえ、いい攻撃でした」

「二人ともお疲れ。レベルの方は二人とも16か、次からこっちも参加して良さそうだな」

「キュリネのレベル上げはどうしますか?」

「来たら支援魔法使って手伝うか。攻撃するとお互い経験値入らなくなるから、攻撃はしないように気を付けてくれ」

「分かりました」


「すみません、用が済んだのでダンジョンでレベル上げしてきます。では」

「いてらー」

「行ってらっしゃいませ」

「PT抜けておきますね、縁があればまた」


 俺はその場を後に、ダンジョンへ向かう。

ダンジョンの入り口はやけに分かりやすい。

石で作られた途方もなく高い門と石碑が繋がっている。


 石碑にはダンジョン名と二週間内制覇者の名前が載る。

既に石碑の下部は名前で埋め尽くされている。

パーティーの場合はリーダー以外、名前の頭に・が付く。

全てパーティーのようだが、これ以降にクリアした者にソロで制覇した者がいないとも限らない。


 ダンジョンの位置的に街から遠いし、難易度は比較的低いと見ていいだろう。

この門を通れば、そこは洞窟だったり火山地帯だったり、フィールドとは一風変わった世界が広がる。

俺はそんなダンジョンへと足を踏み入れる。


 ……やられた。

最初の街の景色を見るのが辛く、目を瞑る。

ボスまで慎重に進んでいたものの、道中で挟み込まれ八体一の場面があった。


 運が悪いのもあるが、あれに対応できないとまたソロダンジョンの時のようにグダりそうだ。

 ソロダンジョンをクリアするだけでも半年かかった。

道中のモンスターからでも経験値を貰えるからまだマシだけど、いつ制覇できるやら。

ログアウトして寝床に伏せる。


 バイトは明後日で時間あるけど、疲れた。

明日はアニメやら動画見て過ごすか。

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