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未開の虚像現実より  作者: 坡畳
到達者編
1/45

Scene_001_少年

 カーテンを閉じた部屋。

ぼんやりとした気分の中、ベッドの中で薄目を開く。


……♪……♪……


 町中に昼を知らせる音楽が鳴り、日中の静けさを掻き消す。

ベッドからゆっくり起き上がって階段を降りると、玄関のドアを叩く音が聞こえる。


 突然、金属に何かを叩きつける音が鳴り響き、何かが倒れこむ音がする。

俺は恐る恐る目を開き、すぐに細め直す。


 廊下の先の玄関のドアは倒れ、開いている。

次に玄関の方から風が吹いたかと思うと、身体が宙に浮いていた。


 一瞬で外まで吸い寄せられる。

ドアの向こう側へ出ると、見慣れない砂漠に景色が切り替わる。

風が止み、尻餅をつく。


 ……痛いし暑い。

暑さからか、遠くの景色が少し歪む。

突然目の前に人影が現れ、俺の腕を太い腕が掴んで引っ張る。

背後を見ると、巨大な動物の足が見える。


 頭を上げると、白のドラゴンがこちらを見つめ、口元から炎を漏らしていた。

ドラゴンはすぐに炎を吐き出す。


 焼き殺される夢? それにしては何もかもハッキリし過ぎてる。

俺は思わず身構えた後、恐る恐る目を開く。


 ドラゴンは何故か、どこかへ飛び立ち始めている。

巻き起こる暴風でまた吹き飛ばされそうになるが、誰かが俺の肩を掴み支える。

さっきの男らしい。


 飛ぶドラゴンの方を見上げると、その右後ろの足の鱗が焼け焦げて煙を出しており、大きな傷が出来ていた。


「危なかったな」


 男は俺の肩から手を離す。

その顔は微笑んでいる。


 赤黒く長い癖毛の目立つ髪型で、やる気のないような垂れ目と濃い緑の瞳、先の少し尖った耳。

背には身の丈を超える大弓がある。

 服装は砂漠に見合う白に濃い赤と黄土色の装飾のアバヤで、使い込んではいないようだ。


「俺の名はジャムル。この世界の案内人だ、よろしく。状況は分かるな?」


 俺は首を横に振る。

転移者? なら俺は別の世界にいる?

案内人ってことはVRゲームの中か?


 疑問が頭に浮かぶものの、口を動かしても声が出てこない。

ジャムルは顎に手を当て、何かを考えるような様子で眉間にシワを寄せていく。


「言葉は伝わっているのだろうが……。そうだな、君をこの世界へ強制的に転送した。目的は君らの世界の人間文化調査ってとこだ。感じとしては、君は宇宙人に攫われたというのに近いかもな」


 何だそれ。

それが何で俺で、いきなりドラゴンに襲われなきゃならないのか分からない。


 俺はジャムルの顔をただ見つめる。

ジャムルは俺から目を逸らし、腕を組む。


「先ほどの龍のように、この世界には幻想……または人間より上位の生命体が多く存在する。なのでそれに対抗するための道具を渡しておく。まあ、無理に戦闘することもないが。死んで元の世界へ帰ることもできるし、ちょっとしたゲーム感覚で寿命……いや、残り時間が尽きるまで過ごし続けてもいい。死んだ時にこの世界での記憶は消える。ここでどれだけ時間が経とうと、現実では一夜の夢のようなものだからな」


 ジャムルは懐から指輪を取り出し、それを手渡してくる。


「これを身に付ければホログラムが出て、そこでギフトを選択できる。二個までだから慎重に選べよ。その他詳しい説明はホログラムから確認してくれ」


 俺は指輪を受け取り、手に握る。

少し分厚い指輪で、なかなか重い。

付けたら指が切り飛ばされそうな気がする。


「あの龍が転移者を積極的に攻撃しないことは珍しい。死なないよう気を付けながら、未来経路集めでもした方がいいかもな。それと最後にアドバイスだ、指輪は早めにつけといた方がいいぞ。そんじゃ、ご武運を」


 ジャムルの足元に光の波紋が現れ、その姿は霞み消えていく。

俺は指輪を眺めてみる。

指輪の中身が透けて見える、中には液体が入っているようだ。


 それにしても、足元の砂が少し湿った感じがして暖かい。

日差しが強くてひどく暑いけど、それほど苦ではないような感じで頭の中はスッキリとしてる。

足の感触だけなら立っているだけでもなんだか心地良い。


 指輪を空に掲げていると、空に大きな鳥、その足を掴む小柄な人影が目に入る。

それは少女のようで、長くサラサラした薄い灰色の髪が目立つ。

 ところどころ薄紫に褪せた黒のノースリーブと水色のデニムショートを身につけ、鉄製のベルトを雑に巻きつけており、ノースリーブの裾をズボンに入れ込み、首には銀のロザリオを下げている。

どこか不良っぽいような見た目だ。


 少女は落ちてきて少し遠くに着地し、足元の焼き焦げた砂を見た後、こっちをオレンジ色の瞳でじっと睨みながら歩み寄り、少し離れた場所で立ち止まる。


 俺は少女から目を逸らす。

……女子とはあまり話したことないし、何か苦手だ。

こういう太もも丸出しな露出の高い服着てる人は。


「そのナリにこの有様、君は転移者?」


 俺は頷く。

少女は俺を睨んだまま、ジロジロと観察する。


「難病患者? いや、引きこもりか」


 ……その通り。

でも思っても口に出さない方がいいことってあるよね?

少女は腕を組み、俺の顔を、固い肉を噛み千切る時のような顔で睨む。


「転移者なら、指輪をさっさと付けといた方がいいぞ。……つーかここ暑いな」


 三つ足のグリフォンが少女の隣へ静かに降り立つ。

少女は相変わらず睨んだままで、鳥の下げた頭を撫でる。

機嫌が悪そうな顔にしては優しい撫で方だ、ヘンナヤツ。

 

 鳥の背には騎乗用の鞍が取り付けられており、そこには焦げ茶の首元まで伸ばした髪の、猫耳と尻尾が生えた女の子が隠れるように座っていた。


 冷たそうなローブを羽織っていて涼しそうだ。

首元には血で満ちた小さなひし形の小瓶を下げている。

瞳は少女と少し違う黄金色で、俺の方を向いて不器用に微笑む。


「モンレアル。悪いな、寄り道することになって。すぐ拠点まで送るから」


 モンレアルと呼ばれた女の子は、首を横に振る。


「いいよ、私のことは気にしなくて」

「そういう訳には行かないだろ」


 モンレアルはなぜか俯き、小さく頷く。

何かの用事の帰りだろうか。

わざわざ俺に話しかけに来た意味が分からない。


「そういや君、名前は何? アタシはレヴララ」


 俺は黙り込んだまま、少女から顔を逸らす。

どうせ言葉出ないし、こういう自分から話しかけてくるヤツは、自分のルールみたいなのをどこかに持ってて、仲良くなってもそれに合わせないと簡単に裏切ってくるんだ。


「言いたくないなら少年と呼ばせて貰うからな。コホン、早速だが少年。モンレアルの前でも後ろでもいいから乗って行け、近くの町まで送ってやる。その指輪は今付けろ、待ってやるから」


 俺は言われるがまま、指輪を右手の指にはめる。

指輪は少年の指の中へ沈み込んで消え、少年の目の前にホログラムが現れる。

……少し安心した。


 あのジャムルとかいうの、本当のことを言ってたみたいだ。

ホログラムの内容はゲームの設定画面のような一覧で、その一つであるギフトを注視すると、選択一覧が表示される。


 一覧には、《フィールドモンスター撃破時獲得経験値5倍&獲得スキルポイント2倍》《ステータス&スキル無制限振り直し》《固有能力取得》とさらにその一覧などが書かれている。


 これ、見られる情報の量がかなり多そうだ。

何から手を付けていいのやら。

とりあえず一覧をスクロールする。

……さっきまでと違って何だか暑い、頭が回らない。


 そんな中で、プレイヤー特攻という不穏そうなものに目が止まる。


「どうした?」


 レヴララが傍に近寄りホログラムを眺める。

レヴララも身体中に汗を滲ませ、少し辛そうだ。


「ギフトか。どれがいいのか分かんない感じ?」


 俺が頷くと、レヴララは唸る。


「君ってMMORPGのオンラインゲーム遊んだことある?」


 俺は再び頷く。

最近初めて、今日もレベル上げやろうと思ってたんだ。

レヴララもそういうの遊ぶんだろうか?

少しだけど親近感が湧くなあ。


「ここのフィールドは序盤だと強い敵しかいない。アタシが思いつくのは、最初の敵に対して有利な固有と特攻系をその場で取るか、街で非転移者とパーティーを組んで戦闘は任せることにして、経験値倍系のギフトを取るかのどっちかだな。固有はどれか一つ取らされるけど、どれもまちまちな性能だから好みがなければ雑でいい。あとはホログラムの内容参考にしたり、気に入ったもの選んだりで自由にするといいよ。所持品にある装備は、付けなくても初期ステータスの耐久値がそこそこあるから即死するってことはほぼないし、とりあえずは焦らないことだ。そんじゃ、行こうか」


 一気に言われてもよく分からないのだが。

そう言えば初めてすぐに初心者かどうか聞いてきた相手もこんなだったな。

ありがた迷惑なのが分かっていないんだろうか。


 レヴララは俺を睨んだまま鳥の方へ親指を差し向ける。

俺は大きな鳥の背で、モンレアルの前に座る。


「こんにちは。私はモンレアルで、この子フェムって言うの。このまま飛んで行っても落ちることはないけど、私は抱き着く方が安心するから、いつもそうしてる」


 鳥は大きく羽ばたきだす。

緊張する、こういうのって落ちそうで怖いんだよな。

俺が鳥に抱き着くと、その後ろからモンレアルが抱き着いてくる。


 モンレアルも怖いのか? と思ったが抱き着く力は弱い。

力がないのか、怖いわけじゃないのか分からないけど、俺がフェムを力一杯抱きしめる必要はなさそうだ。


 上昇し始めてすぐに、フェムが小さく揺れる。

レヴララが足を掴んだらしい。

それにしても、胸当たってる気がするし、汗で服湿って恥ずかしい気もするし。

色んな意味で熱くて頭がどうにかなりそうだ。


 しばらくして、オアシスを中心に白い建築物がちらほらと立つ町が見える。

下から指笛が聞こえると、フェムはその場所へと降下していく。


 着地してすぐ、モンレアルが地面に降りてからこちらを見て微笑む。

俺は卒倒し、フェムの上から落ちる。

尻餅をつく。

なかなか痛い。


「大丈夫?」


 目を開けてモンレアルの顔をまた見てしまったら、緊張で気絶してしまいそうだ。


 ……地面は砂が固まったような感じで、すぐ近くが砂漠で日が照っているのに、少し涼しい。

誰かに手を握られ、つい目を開ける。

モンレアルではなくレヴララだった。


 嫌そうな顔を見て、少し落ち着く。

ついレヴララの手をベタベタと触ってしまう。

でもレヴララは気にしていないようだ。


「自力で立てるか?」


 俺はレヴララの手を離し、汗ばんだ手を一同地面に着いて立ち上がる。

変態だと思われていないようで助かった。


「ここはアムトドムラだっけか。富裕層のために最近新設されてて、他が来ようとしても交通費用で断念する辺境のリゾート地。……つっても片道5000ゴールドってとこだ。案内人からのメッセージが来るまで、ここで待ってるといい。そんじゃま少年、元気でな」


 モンレアルが俺に向かってお辞儀する。

俺はお辞儀を返す。


 こういう礼儀正しい子は好き、というか見た目も好きだ。

レヴララの方は印象イマイチだけど、顔は可愛いし一緒にいると落ち着きはする。


 俺のやりようによっては、この世界にいる女の子たちとハーレムパーティーを作ってあんなことやこんなことが起きる予感がする。


 二人とフェムは空へと離れていく。

俺はただ見つめて見送った後、町の方へと進む。

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