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ペンダント!~ツイてない私がとびきりの幸せをつかむまで~【電子書籍発売中】  作者: 守雨


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8 コルマの家庭料理     

 美味しいものが大好きなアリスは、コルマの料理に俄然興味が湧いた。


「美味しいもののこと、今度聞かせてください。私はこの国の食べ物しか知らないのです」

「食べ物は百回説明するより一度食べたほうがわかります。ご両親のお許しが出たら、我が家の夕食にご招待いたしますわ」


 その夜、アリスは父親の部屋に行き、「コリンナ先生の家を訪問させてほしい。コルマ王国の食事について知りたい」と頼み込んだ。


「いいとも。楽しんでおいで。アメリを連れて行くことと護衛を二人連れて行くことを条件に許可しよう」

「ありがとうございます!お父様、大好き!」


 次のコルマ語のレッスンで父の許可が降りたことを先生に報告するのが楽しみでならなかった。



 コルマ料理をご馳走になる日がきた。

 コリンナ先生の家は王都の平民地区にある庭付きの平屋だった。先生の隣に、優しそうな男性と少年二人が立っていた。


「いらっしゃいませアリス様」

「初めまして、アリス様。コリンナの夫のエリックです。妻がお世話になっております」

「アリス・ド・ギルマンです。本日はご招待くださってありがとうございます」

「アリス様、この子たちは私の息子です。長男ノユーグは十六歳、次男のジャンは十三歳です」


 アリスがスカートをつまんでお辞儀をすると、ユーグ君とジャン君が目を丸くして驚いている。


「この子たち、貴族のご令嬢のお客様と聞いて、緊張しているようですわ」


 コリンナ先生がそう言って笑い、旦那さんのエリックさんが笑顔で中に招き入れてくれた。




 今、テーブルの上にはたくさんのご馳走が並べられている。コルマの家庭料理は一度に全部出して並べるスタイルで、どれから食べてもいいと説明された。

 

「コルマでは自由に各人が取り分けて食べるのです。今夜は初めてですから、アリス様が選んでくだされば私が小皿に取り分けますわ」

「では全種類食べたいのでどれからでも結構ですからお願いします」


 食べる気満々のアリスに先生が最初に取り分けてくれたのは、黄色い豆のようなもの。長男のユーグ君が説明をしてくれた。


「これはイホウという木の実です。紫色の果皮ごと塩ゆでしてから果皮を剥きました。ホクホクして栄養がたっぷりですよ」


 イホウは不死鳥の目という意味だそうで、芋に近い食感でうっすら甘く、塩味が甘さを引き立てていた。アリスは(おやつに出されたら延々と食べてしまいそうな味だわ)と思いながら食べた。

 次は白いお団子が入った赤いスープ。エビ団子のスープだった。


 スープ皿の中で団子をフォークで半分に割って口に入れると、ぷりぷりした歯ごたえ。細かく刻んで加えられている香草と一緒に噛みしめると濃厚な海老の味がした。スープは辛くて酸っぱくて、ほんのり甘さもある複雑な味。


「海老をお団子にしたものを、初めて食べました。なんて美味しい」

「それは僕がお団子にしました」

「ジャン君が? すごい!」


 次男のジャンが照れながらも誇らしそうな顔をする。

 三皿目は四角くぶつ切りにされた豚肉だ。カリカリしたものがまぶしてあり、口に入れると肉はホロリとほぐれる柔らかさ。複雑な香草の香りがした。


「庭で育てた香草の種を刻んでタレに加えて、そのタレに八時間漬け込んでから壺焼きしたものです」


 アリスの家の豚肉料理も美味しいのだが、こんなに香ばしいのにちっとも固くないのが不思議だった。それに燻製みたいな香りもする。壺焼きとはなんだろうと思いながら、アリスは大振りなサイコロ状の肉を二切れも食べた。


 エリックさんが「侍女さんと護衛の方も食べてください」と声をかけたが、アメリも護衛も「とんでもない。仕事中ですから」と断った。なのでアリスも勧めた。


「一緒に食べてくれる? みんなに味を覚えてもらえば我が家の料理人に作ってもらえるかもしれないわ」


 そうお言われて三人はいそいそとテーブルに着いた。そしてひと口食べるごとに「うまい……」「なんて香りの良い」「コルマの料理とはこんなに美味しいのか」と感心している。


 四皿目は細い麺料理。具は塩気の強いハムと細い葉野菜のシンプルな見た目だが、強い葉野菜の香りとゴマ油の香りがする。もちもちした麺が美味しくて、みんな勢いよく食べている。


「この細長い野菜はなんですか」


 護衛の一人がモグモグしながら尋ねた。


「ニランです。血をきれいにしてくれると言われています」


 すかさずユーグが説明した。

 デザートはコリンナ先生が台所に立ってジュワーッといい音をさせて揚げてくれた。


「アツアツですので火傷に気をつけて」


 そう言いながら一人二個ずつ配られたのは、まん丸な表面に白ゴマがびっしりとまぶされたものだ。半分に割ると中からとろりとした黒蜜が流れ出てきた。


「アリス様、これは冷ましてから丸ごと口の中にいれないと、蜜がこぼれてもったいないです」


 もう一人の護衛がハフハフしながら食べ方のコツを教えてくれる。先生一家の食べ方を見るとそれが正解のらしい。スープで時間を稼いで揚げ団子を冷まし、えい! と口の中に丸ごと放り込んだ。

 ごま油の香り、プチプチした表面の白ゴマの食感、もっちりした皮の歯ごたえ、中からあふれる黒蜜の濃厚な甘さ。ハフハフしながら噛んで飲み込むと、目を閉じたくなるような満足感があった。


 明らかにいつもの五割増しくらいの量を食べて、(ウエストのリボンベルトをほどいてしまいたい)と思っていると、旦那さんのエリックさんがお茶を淹れてくれた。一家の主がお茶を淹れているのに、奥さんのコリンナ先生はにこやかに待っている。


「コルマ王国ではありえないことなんですけどね。エリックは『二人で働いているんだから家事も分担しよう』って、よく手伝ってくれるのです。こんな素敵な考え方人と結婚できて、私は幸せです」


 出されたお茶は薄い黄色で、とても華やかな花の香りがしました。


「乾燥させたジャスミンの花をブレンドしたお茶です」

「美味しい。なんていい香りなのかしら」


 食事の後は庭に出て、豚肉を焼いた壺を見せてもらった。

 壺は陶器製で子供が入れそうなほどの大きさだ。底に炭が並べてあった。鈎で引っかけた大きな肉を、壺の口に渡した鉄の棒にぶら下げるのだそうだ。


「炭火の熱で焼くと、直接火にかけたり鉄板で焼くより肉が柔らかくなるんです。タレに漬け込んだ香草には豚の脂を消化しやすくする働きがあります」


(これ、絶対に売れるんじゃないかしら。私ならお金を払ってでも食べたいわ)


 アリスの勘がそう訴えていた。



 大満足で自宅に戻ると父と母がそわそわしていた。

 自分が留守の間に公爵家の使いが来て、元乳母が世話になった礼として豪勢な見舞いの花束と高級な布地が届けられ、その上アリスがお茶会に招待されたという。


 動転している父に根掘り葉掘りことの次第を問い詰められてアリスは正直に答えた。「こうなると思ったから言わなかった」ことだけは省いて。

 

「アリス、大切なことはちゃんと報告しないか! 人違いじゃないかと思って、危うく失礼なことを言うところだったぞ」

「あー。うっかりしてました。えへへ」



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