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ペンダント!~ツイてない私がとびきりの幸せをつかむまで~【電子書籍発売中】  作者: 守雨


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37 似顔絵

「一週間後の結婚式までがひとつの山場だろう」


 アンドレアス王子がもっともらしくそう言うとレオンが反論した。


「わざわざ警備が厳しい時期にシンディーを狙うでしょうか。各国の使者が帰り、皆が油断した時期に手を下す方が簡単なはずです」


「そ、そうか。それもそうだな」


(レオン様は美しいだけじゃなくて頭も切れる。天はこの方に二物も三物もお与えになったのね)とアリスはホワホワする。こんな時にニヤついた顔をしてるところを見られないように下を向いて誤魔化した。


「ならばどうしたら良いものか。このままシンディーが危険に晒されるのを待つのも悔しいではないか」


 文句を言う第三王子の声を聞いていたレオンがアリスの様子に気がついた。


「アリス?どうした?」

「レオン様、ちょっとよろしいでしょうか」


 すぐに察したレオンがアリスの手を引いて隣室に入った。


「水晶玉に人の顔が」

「知っている者か?」

「いいえ」

「ならばそれを絵に描けるかい?殿下とシンディーならそれが誰なのかわかるかもしれないよ」


 

 二人は部屋に戻った。

 水晶玉のことはレオン以外には知られたくないのでアリスは適当に相槌を打ちながら話し合いをやり過ごした。


 話し合いはこれといった結論も出ずに終わり、晩餐会でまた会おう、と解散した。





「さあ、紙とペンを用意した。水晶玉を見ながら似顔絵を描いてごらん」

「はいっ!」


 小さな水晶玉を何度も覗き込み、何度も描き直し、アリスは頑張った。



「えーと。これは……」

「水晶玉に出ている女の人です」


 誇らしげなアリスに比べ、レオンの表情は冴えない。なぜなら五つ六つの子供でももう少し上手く描けるだろうと思われる人物画が手の中にあるからだ。



 そう、アリスは壊滅的に絵が下手だった。



(そもそも首から両腕が生えているのはなぜだ)とレオンは苦悶する。



 レオンは貴族の嫡男として厳しく躾けられ、女性に対してはいつでも最大限に誉めるのが男の役目であると叩き込まれている。なので今回も全力で誉めた。


「なるほど。黒目黒髪なんだね。とてもわかりやすいよ。ありがとう」

「どういたしまして!」


 アリスには自分の画力についての自覚は無いらしい。誉められて嬉しそうだ。



(おそらく伯爵家は誉めて伸ばす主義なのだろう。今度アランに会ったら少しその辺を聞いてみなくては)



 コルマの国民は色味が濃い薄いの違いはあれど、大半の国民が黒目黒髪だ。この似顔絵では役に立ちそうもない。


 シャンベルの血が半分入っているとはいえシンディーの金髪碧眼は異例中の異例で、その外見も第四夫人まで待たされた理由かとレオンは推測した。


「えーとアリス、私も描いてみたいから水晶玉を覗きながら人相を説明してくれるかな」

「レオン様がお描きになるんですか?ではどちらが似ているか勝負ですね!」


 勝負にはならない自信があるレオンだが、自分の絵心の無さに気づいてないらしいアリスが可愛いと思う。


 間違いなく惚れた欲目な自覚はある。可愛い可愛いと細い体を抱きしめたいのを我慢してレオンは似顔絵描きに集中した。



「髪の毛は真ん中わけで、顔は少し面長ですね。眉は細くて三日月みたいな感じです。目は鋭い感じ。はい、そんな感じですね。鼻は小さ目で、唇は薄くて大きいかな」


 アリスはレオンの描く似顔絵と水晶玉を交互に見比べて「鼻はもう少し細いです」「鼻と唇の間をもっと狭く」と修正させた。


 結果……


「素晴らしい出来ですわ、レオン様。水晶玉の中の顔とそっくりです!」


 アリスが驚き喜んでいる。


(あんまり出来が違うから可哀想なことをしたかな)と心配してチラッとアリスの顔を見ると、彼女は二枚の似顔絵を見比べて

「残念。悔しいけれどレオン様の似顔絵の方がずっと似ています」

と愛らしい顔でレオンを見て笑った。


(俺の婚約者は天使だな)と思いながらレオンは自分が描いた似顔絵を眺めた。






 晩餐会の前、少しの時間の隙間を縫ってレオンは自分が描いた似顔絵をシンディーとアンドレアス王子に見せた。


「知ってる顔ですか」

「ええ、知っています」

「それはクレイン兄様の第一夫人の侍女、イリアだ。そうだ、思い出した。イリアは左手の中指に刺青をしているぞ」


 思いついたようにシンディーが聞いてきた。

「この似顔絵、どうしたんですか?」

「例のカフェの店員が思い出したらしい。出がけに描いてもらってきた」


 レオンの誤魔化し方が日々上手くなっている。



 しかしすぐに晩餐会が始まり、三人の会話はそこで途切れた。

 

 第二王子のクレイン殿下は顔立ちこそアンドレアス王子に似ているが、まとっている雰囲気が違っていた。美しい顔立ちながら言動に小物感漂うアンドレアス王子に比べ、クレイン第二王子は王者の風格だ。


「結婚式は来週ですが、それまでは我がコルマ王国を存分に楽しんで過ごしていただきたい」


 クレイン第二王子は食事前の挨拶の最後をそう締めくくった。

 王子の右手側に第一夫人、左手側にシンディーが着席していた。第三夫人はシンディーの隣だ。

 第一夫人はクレイン王子よりもいくつか年上らしい女性で、穏やかそうに見える。とてもシンディーを邪魔にして殺そうとするような人には見えなかった。


 そして第一夫人の後ろに、その女性は控えていた。


 アリスは後ろに立つイリアという女性から目が離せなかった。

 距離があるから左手の中指の入れ墨は見えない。食事をしながら彼女を観察していると、クレイン殿下がシンディーに話しかけるたびに彼女は目だけを動かして二人を見る。


「アリス、見過ぎだ」


 レオンに耳元で注意され、慌てて視線をそらした。彼女がシャンベルでの指示役ならシンディーは自分の死を願う人と暮らすことになる。


(どうしたらいいんだろう。そしてなぜイリアの出国はばれなかったのかしら)




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