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ペンダント!~ツイてない私がとびきりの幸せをつかむまで~【電子書籍発売中】  作者: 守雨


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32/42

32 子供の頃から     

「旦那様、コルマ王国の王子様の使者という方がいらっしゃってます」

「王子? アンドレアス殿下のかい?」

「いえ、第二王子クレイン殿下の使者だそうです」


 公爵が驚いた。クレイン第二王子は次の国王である。

 しかも、コルマからシャンベル王国までは船足の速いものでも一週間はかかるのに、その使者はアリスの拉致事件から四日で到着した。つまりシンディーを狙った事件のことは知らずに来たことになる。


「なぜ私のところに?」


 そう疑問を持ったが、相手は王子の使者である。公爵は急いで応接間へと向かった。

 応接間で待機していた第二王子の使者は、公爵の姿を見ると立ち上がり、恭しく一通の書状を差し出した。


「拝見します」


 互いに腰を下ろして公爵が書状に目を通す。読み進めていくうちにどんどん表情が険しくなっていった。


 書状では第二夫人の親族に以前から不穏な動きがあること、間者を送り込んでいたところ、シンディーの旅行に合わせてその親族の手の者がシャンベル王国に入国したことが把握された。第二夫人がそれを認めたため、この国で唯一頼りになるのが公爵であることから保護を願い出る内容だった。


「なるほど。そういう事情でしたか。しかしながら一足遅かったようです。すでに犯行は行われた後だ」

「えっ! それで、シンディー様はご無事でしょうか」

「シンディーは無事だ。代わりに一緒にいた同じ髪と目の色の令嬢が拐われました。私の息子の婚約者です。だが、そちらも安心してほしい。息子とうちの護衛の手によって、コルマ人の指示役は捕縛済みだ」


 使者は深い安堵のため息をつき、頭を下げた。


「全てはこちらの手落ちです。まことに申し訳ございません」

「それ、第二夫人の処遇はどうなるのです?」

「犯人が捕まっているのでしたら、おそらく第二夫人は体調不良により王妃の座を辞して実家療養、その後に離婚ということになるはずです。実家も処分を受けましょう」


 侯爵が「なるほど」とうなずく。


「立ち入ったことを尋ねるが、我が家も被害にあった以上知る権利がある。今回のことに第二夫人以外の夫人たちは、全く無関係なのでしょうか」

「それは……」


 使者は急に汗をかきはじめ、ハンカチでしきりに汗を拭った。


「はっきりしておりません。第二夫人は『自分一人の考えで配下の者をこの国に送り込んだ』と自白しましたが、殿下はそうは考えておられません。しかしながら証拠も目撃者もなく、手が打てないのです」

「そうですか」


 そこで公爵は続き部屋の方へ声をかけた。


「シンディー、こちらにおいで」

「はい、公爵様」


 シンディーが続き部屋から姿を現すと使者は立ち上がって深い礼をした。


「シンディー様、ご無事でなによりでございました」

「遠いところまでご苦労さまでした。私はこの国の方々のおかげで無事でした。やはり護衛が急に来られなくなったのは、こういうことだったのですね。あの時から私を亡き者にする計画は存在したということでしょう」

「シンディー、どういうことだい?」


 侯爵の質問に、シンディーが事情を説明した。


「婚約者の私に護衛をつけようと、殿下は準備してくださってました。しかし、三人の夫人たちが急にあちこちに出かけることになったのです。近衛騎士は全員そちらの護衛に付くことになりました。私はまだ婚約者でしたから、護衛は付けてもらえなくなりました」

「だが、実家の方で護衛を付けることはできただろう」


 シンディーが悲しげな顔で首を振った。


「ええ、実家の護衛騎士が付く予定でしたが、なぜか前日に遠い視察先の陛下から父に呼び出しがあり、更に父方の親戚から母に呼び出しが来ました。母を送ってから港に来ると言った護衛騎士たちは、なぜか一人も港に現れませんでした」


 シンディーはそこでひと息ついて続けた。


「コルマの王妃は国を出ません。なので日程的に、この国に来られるのは今回限りでした。どうしても諦められず、私は侍女だけを連れて渡航したのです」

「そうか。おそらく陛下の呼び出しというのは嘘だろうな。親戚の呼び出しも怪しい。護衛騎士は港に来る前にどこかで足止めされたのだろう。シンディー、そういうことなら私に会った時に護衛を頼むべきだったよ。私も配慮が足りず、済まないことをした」


 シンディーは、「いいえ、侯爵様のせいではありませんわ」と否定した。


「船に乗る前に私が諦めていれば良かったのでしょうが、なんとも悔しくて意地を張りました。その結果、アリスには恐ろしい思いをさせてしまいました。申し訳ないことです」

「話を聞くと他の夫人たちも今回の事件に関係しているように思うが。そんな魔物の巣窟みたいなところに嫁ぐつもりなのかい?」


 使者が気まずそうな顔をするのに取り合わず、公爵が遠慮なしにシンディーに尋ねた。


「はい。政治の安定のために各派閥から妻を迎えたというのに、他の妻を亡き者にしようと考えるような妻しかいない殿下がお気の毒過ぎます。私は殿下をお支えしたいと思っております」

「そうか……」


 一連の話をアリスとレオンが続き部屋で聞いていた。


 シンディーはともかくアリスとレオンはいないことになっていたのだが、話を聞いていたアリスはダーダーと涙を流していて、見かねたレオンがそっとハンカチを渡すと、涙を拭き、ついうっかりそのハンカチでチンと鼻をかんだ。

 応接室にいた公爵が苦笑して声をかけた。


「君たちも出ておいで。アリスは間違えられて拉致されたんだ。話し合いに参加する権利があるよ」


 グスグスと鼻をすすりながら、アリスがレオンに手を引かれて応接室に姿を現した。


「シンディー、なんだか私、切なくて悲しくて悔しくて……」

「アリス。私はずいぶん前からこのようなことは覚悟していたわ。まさかこの国で実行するとは思わなかったのが失敗ね。殿下の妻たちが皆でこんなことに手を染めているとは思わなかったの。この国で最後の自由を満喫するつもりだったに……」

「ほんとに、そんなところに嫁ぐの?」

「ええ。子供の頃から私は殿下に嫁ぐことを夢見て生きてきたわ。それは殿下も同じとおっしゃってくれているの。アリスだって、どんな事が起きてもレオン様と添い遂げたいでしょう?」


 急に話を振られて慌てたアリスがレオンの顔を見上げると(どうなの?)というようにレオンもアリスを見下ろしている。

 グスグス言いながらアリスがうなずいた。


「そうね。何があってもレオン様に嫁ぐわ」

 

 ホッとしたような顔でレオンがアリスの肩を抱いた。アリスはもう一度チン、と鼻をかんでから赤くなった。

 



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