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30 作戦会議

「アリス、ちょっといいかい?」

「はい、レオン様」


 二人で公爵様の執務室を出る。廊下でレオンが声をひそめた。


「アリス、君はこのままこの家……」

「いいえ。私も行きます。ペンダントにお告げがあった以上、私は動くべきなんです」


「はぁ」とため息をつき、レオンはアリスを抱きしめる。


「ごめんなさいレオン様」

「俺も行く」

「無理ですよ!どうやって?」

「チャドの仲間として」

「品が良すぎて無理です」

「ふふん。俺を舐めてもらっちゃあ困るな、お嬢ちゃん」


 急にレオンの雰囲気が別人のように変わる。ダウンタウンの遊び人みたいに。


「レオン様……」

「なんだい?」

「ステキです!」


 目をキラキラさせて自分をうっとりと見上げるアリスを見て、レオンが赤くなった。


「アリス、そんな顔を他の男に見せちゃダメだよ?」

「当たり前です。レオン様よりステキな殿方なんていませんもの」

「ンンッ!あの、そろそろいいかい?」


 執務室のドアを少しだけ開けてチャドがこちらを覗いていた。


「チャド、覗き見するなら見物料を取るわ」

「最近の次期公爵夫人はがめついんだな」


 作戦会議が行われた。

 チャドが依頼主に拉致したシンディーを見せるのは明日の夜。おそらく相手はシンディーを確認したら始末するつもりだろう。


「俺はそいつにその場で殺すな、と言われたんです。それに俺、殺しはやらないって言ってある」

「なぜかしら。シンディーが邪魔ならその場で殺してもいいはずなのに」

「もしかしたらですけど、病死か事故死を装いたかったのかもしれません。私があからさまに誰かに殺されたとなると、疑われるのは三人の妻たちとその身内です。それがきっかけで国民からの評判が落ちれば、王妃として相応しくないと判断されてしまいます」


 そう聞いても腑に落ちない。


「でも、コルマの妻たちは争わないって聞いたけど」

「普通はそうなのです。でも、私が嫁ぐバイロン第二王子殿下は、いずれ国王となられるご予定なので、妻同士がどうこうと言うよりも別の思惑があるんだと思います」

「第一王子様はなぜ国王にならないの?」

「第一王子殿下はお体が弱く、ご本人も歴史の研究者の道を望んでおられるのです」


 シンディーの話は公爵様もご存知なかったようで驚いた顔をしている。


「一年前から第二王子のバイロン殿下が次期国王になることはほぼ決まっていました。王家は貴族たちの派閥に配慮して各派閥から一人ずつ妻を迎えていて、私が四番目の妻となるのも決まっていました。ただ、殿下と私は幼い頃から仲が良く、それを面白くないと思っている貴族が多いことも事実なんです」

「シンディー……」

「あら、どうしてアリスが涙ぐむのよ。私は望んで第四夫人になるの。だから泣かないでよ」


 アリスは切なかった。

 好きな人が次期国王。自分の上に三人の妻。その上他国に旅行中に殺そうとする人がいる。なぜシンディーは笑っていられるのだろう。


「私ね、殿下を諦めるよう両親に言われたこともあるの。私が殿下と一番親しいから命を狙われるかもしれないって。でも、『かもしれない』ことを恐れて殿下を諦めたら、『確実に』その先の人生をずっと後悔しながら生きることになるわ」


 殺されるかもしれないことより、好きな人と生きることを選んで迷わないシンディーがとても強く見える。


「私がシンディーを守るわ」

「何を言ってるんだねアリス」

「父上、私がチャドの仲間として乗り込みますから、ご安心を」


 納得していない公爵を押し切り、作戦会議が続けられた。


「そもそも私とシンディーが下着の専門店に行くことを知っていたわけでしょう?護衛も距離を取らざるを得ないし、拉致するにはちょうどいいわよね」

「ああ、前日にお嬢さんたちがあの店に行くと知らされたんだ」

「それを知っているのはシンディーの侍女の他にいたかしら」


 シンディーとアリスが考える。アリスがハッとした。


「あっ!一人いるわ。ケーキを食べたお店の店員。茶色の髪を後ろで三つ編みにしていた人」


 レオンがすぐにドアに向かい、使用人に短く指示をして戻ってくる。


「その店員はすぐ捕まえられるだろう」

「チャド、依頼主とは次にどこで会うの?」

「貧民街の酒場だ。シンディー嬢はそれまでは廃屋に隠しておくことになってる」


 依頼主の外見は下着専門店で騒ぎを起こした酔っぱらいたちから聞いた人物と一致する。

 外国訛りの背の高い黒目黒髪の男だ。これといった特徴は無いらしい。公爵がチャドを見た。


「チャド、その廃屋の場所を相手に知られてる可能性は?」

「知らせてはいないが……金をチラつかせたらあの廃屋が俺のとっておきの場所だったことを喋る奴は何人かいるな」


 公爵とレオンが視線を合わせてうなずく。


「すぐに廃屋に行こう」

「え?」

「依頼主が約束を守る必要なんてない。廃屋からシンディーを連れ出して事故死に見せればいい。チャドに金を払う必要もなくなる。チャドは使い捨ての可能性が高い」

「くっ」


 悔しげなチャドには目もくれず、公爵は護衛騎士に集合を指示し、レオンたちは大急ぎで廃屋に向かった。

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