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ペンダント!~ツイてない私がとびきりの幸せをつかむまで~【電子書籍発売中】  作者: 守雨


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28/42

28 専門店にて

 女性の下着専門店はメインストリートから二本入った細い道に面して建っている。店の商品は通りからは見えない。基本、男性のみの入店はお断りの店だ。


 男性のお供を連れてきている人のために一階はティーラウンジのようになっている。


 贅沢な夜着、最高級の絹の下着。それらは短い階段を上った中二階に展示されていて、どれも絹製、使われるレースは最高のレース職人の手による物。アリスとシンディーはうっとりとそれらを眺めたり手に取ったりしていた。


「素敵ねぇ。乙女心をくすぐる物ばかりだわ。そう思わない?アリス」

「どれもこれも欲しくなるわね」


 二人に付き添っている女性の護衛も二人に合わせて移動するが、時折りチラッと商品に目をやっている。きっと彼女も素敵な商品に目を惹かれているのだろうと思った。


 伯爵令嬢であるアリスでさえ、十六歳になる今までお目にかかったことのないような美しい下着ばかりが並んでいる。もしかしたら母は来たことがあるのだろうか。母と来たら楽しそうだ、などと思いながら見て回っていると、下の階で何やら騒ぎが起きた。


「様子を見て参りますので、お二人はここに。決して降りてこないでください」


 女性護衛騎士のクラリスがそう言って階下に向かった。まだ午前中だというのに酔っ払いが怒鳴っているような意味不明の声と、それを追い出そうとする護衛騎士のやり取りが聞こえてくる。


 アリス、シンディー、女性店長の三人は、階段から離れて窓際に集まり顔を見合わせていた。


 窓の外はすぐ隣の建物の壁しか見えない。その窓に上から一本のロープがするすると降りてきた。細身の男性が音も立てずにロープを伝わって降りてくる。男は窓から店内に入り込み、開いた窓に一番近かったアリスの口を塞ぎながらもう片方の腕を首に回して締め上げた。


 アリスのすぐ前に立っている二人は階下の大騒ぎに気を取られて後ろの出来事に気づかない。


 頭に血が行かなくなり数秒で失神したアリスを抱えると、男が先程のロープを片手で握り建物の壁をトーントーンと蹴りながら降りた。男が地面に降り立つのを見届けて屋根の上の仲間が縄を引き上げ、屋根伝いに姿を消した。


 酔っ払いは一人ではないようだ。階下での騒ぎはヒートアップしていてガシャンガシャンと何かがひっくり返され破壊される音がする。店の従業員の悲鳴も混じる。


「私、ちょっと見て参ります」

 

 店長が振り返ってアリスに告げようとして固まる。


「あら?お客様?」


 シンディーも振り返る。そして二人で試着室や展示ケースの裏側を探したが、アリスは忽然と姿を消したまま見つからない。シンディーの叫びに気づいて下から護衛たちが駆け上がり、皆で探すがアリスは見つからない。窓の外に落ちたかと見下ろしても誰もいなかった。




❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎



 公爵が怒っている。


「どういうことだ。君たち四人もいて誰も何も見ていないとは!」


「申し訳ございませんっ!」

「特にクラリス。なぜ二人のそばを離れた?」

「申し訳ございません」


 護衛たちは皆沈痛な表情だが、特にクラリスは自責の念で顔から血の気が引いている。


「アリスが拐われたことは極秘だ。何者かに拐われたとあっては無事アリスを取り戻せてもどんな悪い噂がばら撒かれるかわからん。アリスは具合が悪くなって帰った、これで通せ。お前たちはとにかくアリスを探すのだ。行け」

「はっ!」




 レオンには公爵家の執事が直接知らせに行った。しかし勤務中のレオンが動くと勘の良い者に何かあったと知られてしまう。なのでレオンは勤務が終わってから探すことにした。


 そこで協力を申し出たのはレオンが主に警護を務めているビクトリアス王女である。


「いいわ、レオン。私はこれから数日間は風邪をひくわ。いくつか夜会に行く予定があったけれど、断る。風邪をひいたのなら部屋にこもっていればいいし、警護のレオンもいらないと思うの。どう?私って優しい従姉妹でしょ?」


「感謝します殿下」


「いいのいいの。さっさとアリスを見つけていらっしゃい。このことは陛下と妃殿下には内緒にしておくわ」


 もう一度頭を下げてレオンは王女の部屋を早足で後にした。


 レオンが最初に向かったのは王都の警備隊詰所だった。下着専門店で騒ぎを起こした男が二人収監されている。レオンは私服に着替えて詰所を訪れ、顔見知りの隊長に例の男たちとの面会を申し入れた。





「おい、面会だ」


 そう言われて騒ぎを起こした男は顔を上げた。鉄格子の向こうに立っているのは身なりの良い貴族らしい男だ。


「知らねえ人だ。間違いじゃねえかい?」

「いいや。俺はお前たちに会いに来た」


 そう言うと身なりの良い若い男が鉄格子の中に入ってきた。薄汚い服装の男の隣に立つと、静かに話しかけてきた。


「あの店で騒ぐよう、誰かに頼まれたのか?」


 男の声は静かだったが、貧民街で生きている男たちはその声に殺気が潜んでいることにすぐ気づいた。慌てて立ち上がり、壁際に後ずさった。


「俺は、俺は何も知らねえよ。ただ、その、ただ、」

「ただ何だ?」


 レオンが詰め寄る。


「何も知らないのは本当だ!俺はただ美味い酒をご馳走されて、あの店で騒げば金をくれるって言うから、その……」


 レオンが表情を変えないままその男の襟首をつかんだ。男が殴られるのを覚悟して目を閉じたが、殴られなかった。


「お前にそれを頼んだ者のことを残らず話せ。ひとつでも思い出し損ねたら命はないぞ。相手の身体、言葉、服装、靴、全てだ」


「へ、へいっ!」


 しばらくしてレオンは警備隊の者に声をかけて鉄格子を開けてもらって出てきた。中の男たちは殴られはしなかったものの、長い時間殺気にさらされて腰が抜けていた。




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