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ペンダント!~ツイてない私がとびきりの幸せをつかむまで~【電子書籍発売中】  作者: 守雨


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13 レオンの記憶

レオンの回です。

 一度目は三年前のことだった。


 自分たち近衛騎士は本来なら週に一度は休みだが、王族の都合により休みが吹っ飛ぶことなどしばしばだ。その日は二十日連続勤務した後の休日だった。


 たまには城外の空気でも吸うかと一人で街中を歩いていると、自分のすぐ前を侍女を伴って歩く少女がいた。見るともなしに見ていると右の路地から飛び出してきた男の子が少女にまともにぶつかった。男の子の持っていた蜜がけの菓子が少女の高価そうなドレスにべったりと黒蜜をつけてしまった。


 これはどうなることか、場合によっては仲裁に入ろうと見守った。


「ごめんなさいっ!」

「申し訳ございませんっ!」

 半泣きで謝る男の子とその母親。


「いいのいいの。洗えば落ちるわ。それよりせっかくのおやつが台無しになってしまったわね」


 少女はそう言うと小さなバッグの中からキャンディを取り出して少年に渡して、あっさりと笑顔で立ち去った。


「へえ。あんな令嬢もいるんだな」と思った。

金色の髪と青い目が印象的な華奢な少女だと思ったが、それっきり彼女を思い出すことはなかった。


 二度目は二年前のある日。


 部下が結婚したので祝いの席で徹夜で飲んで祝った帰りに城下街を歩いていたら、向こうから若い男女の二人組が歩いてきた。見覚えがある少女だな、どこで見たかな、と思っていると突然野良犬が彼女に吠えかかった。


 あろうことか隣にいた男は少女をほったらかしにして逃げた。思わず自分が駆け寄り、睨みつけて犬を追い払った。恐怖で固まっていた少女は丁寧に礼を言ってくれたが、やはり恐ろしかったのだろう、指先が震えていた。


 彼女を置いて逃げた男が恥ずかしげもなく戻って来たが、少女は彼に文句も言わず大人しく男と二人で歩き出し、二度こちらを振り返って小さく頭を下げた。最後まで目は合わせてもらえなかったが、蜜菓子の時の少女だと、少し歩いてから思い出した。


「二度も不運な時に出くわしたな」と思った。


 そして三度目は乳母のエマの件である。エマはお産をした娘の世話で西地区に泊まり込んでおり、いつもとは違う教会の礼拝に出た。そこで礼拝堂の倒壊に遭遇してしまったのだが、エマを助けてくれた少女がいかに凛々しかったか、いかに優しかったかを熱心に話してくれた。お礼をしたいと名前を尋ねても笑って答えなかったと言う。


 エマの初孫の祝いに行ったレオンはその話を聞いた後で「泊まり込みの赤ん坊の世話は疲れるだろう、息抜きに甘いものでも食べに行こうか」と近くの店に誘った。そこでエマが「坊ちゃん、私を助けてくれたのはあの御令嬢ですよ!」と入ってきた少女たちの方を見て教えてくれたのだ。


 振り返って自分も驚いた。あの少女だった。二人いたが、きっとそれは青い瞳の少女の方だと思ってエマに尋ねるとそうだと言う。これで三度目だ。こんな偶然があるだろうか。思わず厚かましくも名前を聞き出し、乳母のお礼にかこつけてお茶会に誘った。


「私が君に運命の女神シルヴァーナのお引き合わせを感じるのは、そういう理由なんだ」


 そこまで驚きながら聞いてくれたアリスは、何やら考え込んでいる。やはりこんな話はただの偶然と思われたか。大人が何を言っているのだと怪しまれただろうか。



「ルシュール卿のお話はどれも思い当たります。少年の蜜菓子の時、あなた様が後ろで見ていらっしゃったのですね。その上、犬を追い払ってくれた方があなた様だったとは」


 アリスがなんだか思い詰めているように見えるのは自分の気のせいだろうか。


「その節はお顔もちゃんと見ないままで失礼いたしました。婚約者が逃げてしまい、怖かっただけでなく恥ずかしくて情けなくて、助けてくれた方の顔を見られなかったのです」


「あの男との婚約を解消したのは正解だよ」

 と言うとアリスは

「皆さんがあんまり同じことをおっしゃるので、逆に彼が気の毒になるくらいです」

 と苦笑した。


「そうか。君は強いな。強いからこそ相手を思いやれるんだろうな」


 そこで厨房から料理を担当していた女性が顔を出した。


「お茶のお代わりをお持ちしましょうか」

「いや、もう帰るよ。遅い時間に来て迷惑をかけた」


 そう言ってから、立ち去り際、自分としてはかなり勇気を出して言葉をかけた。

「またあなたを誘ってもいいだろうか」



 自分の言葉に少女は返事をためらっているように見えた。


「少し、考えさせていただけますか?」

「ああ。よく考えて欲しい。そしていい返事を期待している」


 そう言ってからドアを閉めた。柄にもなく緊張していた。


「ふぅ」と息を吐く。

 

 公爵家嫡男ということもあり、子供の頃から異性に声をかけられたり思いを告げられたりすることは多かった。正式にではないが何人かお付き合いした女性もいた。だが、自分から告白したのは初めてだった。


 見知らぬ少女の健気な一面に三度も関わることなど、普通はない。運命の女神に背中を押されているような気がした。直接話をしてみれば、愛らしく真っ直ぐな人だった。


 花粉を顔につけながら花の香りを嗅いで回っていたあの愛らしい姿を他の男に見せたくない、と思った。


 彼女の態度を見ていれば、自分が恋愛対象と見られてないのは承知の上だ。年もだいぶ離れている。だがこれから彼女の心を自分に向けてみせよう。


 しかし翌日に返ってきた彼女からの手紙は意外な内容だった。


 

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