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ペンダント!~ツイてない私がとびきりの幸せをつかむまで~【電子書籍発売中】  作者: 守雨


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11 店舗契約

 コリンナ先生たちの協力を得られることに勢いをつけて、アリスは店舗探しに奔走した。


 伯爵令嬢が貸し店舗を探していると聞くと、たいていの業者は大通りに面した大きな物件を紹介したがるが、手持ちのお金は金貨三十枚。当座の運転資金がどれだけ必要かもわからないので高い店を借りるのはためらわれた。


「貴族らしい格好をしてるから良くないのかも」


 そう考えて平民の娘の服装をアメリに用意してもらって出かけることにした。


「それがようございます。どうも業者は貴族のお嬢様だからと、ふっかけているような気がしますもの」

「やっぱり?なんとなく私もいいように扱われている気がしてたのよ」


 そこで護衛の二人は親戚、アメリは友人という設定で店舗探しをしたのだが、この設定が有効かどうかはともかく、護衛たちとこんなに親しく話をしたのは初めてのことだった。


「平民相手の店なら私達も詳しいですよ」

「安くて美味い店なら私の守備範囲ですね」

 

 最初はお嬢様のお遊びと見ていた護衛たちも、アリスの真剣さと連日の候補店巡りの必死さを目の当たりにして、意見を述べるようになっていった。


 貸店舗を見た後は四人で感想を言い合った。そしてひと月かけて二つに候補を絞った。

 大通りに近い席数四十の店と、大通りから二本入った席数二十五席の店。大きい方の店は借りたいと言う人があと二人いるそうで、早い者勝ちだと言う。


「大きい方にしようと思うの」

「いいと思います。三人の人手があれば回せますよ」

「お嬢様、私も同じ意見です」


 果実水を売る屋台の椅子に座って話をしていたが、四人全員の意見が一致した。そこでアリスが(そうだ、こんな時こそ)と思い出してペンダントをワンピースの襟元から引っ張り出し、そのまま固まった。


「アリス様、どうなさいました?」

「ん?なんでもないわよアメリ。ただ、もう一度考えさせて」

「ええ、ええ、じっくり考えてくださいませ」


 何ヶ月かぶりに水晶玉が不運を示していた。たった今、四人で意見が合った大きい方の店舗が見えるのだ。なぜこの店が現れてるのかはわからないが、この水晶玉に逆らう度胸など持ち合わせていない。何しろこの水晶玉には二回も救われているのだ。


「ごめんなさい、私、やっぱり小さい方の店舗を借りようと思う」


 突然のことに三人は驚いたが、お嬢様がいいのなら、と反対する者はいなかった。その足で業者に行き、大通りから二本入った小さい方の店を契約して屋敷に戻った。



 契約を済ませ、業者から鍵を渡されたので、早速翌日にはコリンナ先生、ユーグ君、ジャン君、アリスで店を見に行くことにした。アメリと護衛の二人も一緒である。


「ご契約いただいてありがとうございました。即金でお支払いいただきましたので、これはサービスでございますよ」


 壁に取り付ける大きな鏡をプレゼントしてくれて、賃貸業の女性は満足げな顔だ。


「うちは誠実を旨に商売しております。他に行かずに良かったと思っていただける自信がございますよ。今日も他の業者が夜逃げしたんですが、三重契約した挙句に契約金も前金も全部持ち逃げしたらしくて。契約者さんたちが青い顔をして店の前で途方に暮れてましたよ」


 アリスとアメリと護衛の二人がギョッとする。


「あの、その物件て、もしかして……」

「大通りから一本入った席数四十くらいはある貸店舗でしたわね」


 コリンナ先生たちは何のことかと言う顔だったが、アリスたち四人は血の気が引く。


「お嬢様、危のうございました」

「お嬢様が判断を変えて大正解でしたね」

「いやぁ、危なかった!」


 何のことかという顔をする業者の女性とコリンナ先生たちに事情を説明すると、口々に「良かった」「危なかった」「これは女神様の思し召し」と言う。


 厨房の道具選びはコリンナ先生たちに任せてアリスたちは帰宅した。帰りの馬車でアメリはずっと「お嬢様の勘は素晴らしい」と繰り返していた。それをウンウンと聞きながらアリスは背中にびっしょりと冷や汗をかいていた。


 世間は怖い。あちらの業者は誠実そうで信用できそうな人と思っていた。あんな真面目そうな人が客のお金を持ち逃げするとは。自分はとんだ甘ちゃんだったと脚が震える思いだった。




 帰宅して母にことの次第を説明して、無事に店舗を借りることができたと報告した。


「怖いわねぇ、そんなことがあったの。あなた、運が良いのね」


 何も知らない母が感心してくれるが、アリスはずっとドキドキしていた。初っ端からこんなことがあると先行きが不安になった。そしてペンダントが無かったら今頃母の大切なお金は半分以上を持ち逃げされていたのだと思うと、ありがたくてペンダントに祈りを捧げたいくらいだ。


 夜になってアランにも報告した。

 アランは話を聞いて興奮した。


「世の中には僕の想像もつかない不思議が存在するんだな。面白すぎるよ。姉さん、店の経理なら僕が手伝うよ。僕なら持ち逃げの心配も無いし安心でしょ?」


 アランがこんなに優しい子だったことを、ペンダントを手にするまで気づかなかったな、と反省する。最近は姉弟の距離が縮んだと思う。


「アランに頼めるなら心強いわ。少ししか出せないかもしれないけど賃金を払うわね」

「いや、賃金はいらないよ。その代わりに僕にもコルマ料理を食べさせて。姉さんがそこまで入れ込む料理を食べてみたいんだ」

「そんなことならお安い御用よ!いつでも好きな時に食べにいらっしゃいな」

「楽しみができたよ。ありがとう、姉さん」


 開店準備はコリンナ先生一家の頑張りもあって順調に進み、メニューも決まり、家具と内装も整えられた。


 開店まであとわずかとなった。


 毎日あちこちに出かけ、大人を相手に交渉した。着々とアリスの店の準備は進んでいる。最近ではモーリスを思い出すこともなくなっていた。


 開店準備の途中で十六歳になり、夜会に参加可能な年齢になったものの今は忙しくて夜会は全て不参加だった。さすがに最近は「目標に向かって努力するのも良いが、貴族の娘として夜会にもいい加減参加しなさい」と父から小言をもらっている。


「はい」と返事はするものの、夜会に出るのはモーリスに会いそうで気が進まなかった。



 いよいよ明日は関係者だけでの事前お披露目会だった。

 

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