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新しい家族

フェイスが部屋を出るとトーマスが朗らかにアイリーンに声をかけた。


「ストウナーさんたちはね、本が好きでずっとうちの常連さんだったんだよ。お父さんもお母さんもとても博識で素晴らしい人たちだった。アイリーンのことも聞いていたよ。とても賢い子で、大切にしていた。まさか、事故で亡くなっていたなんて知らなかったが……すまない、辛いことを思い出させてしまったね」


アイリーンは首を小さく振った。


「しかし、再会できて良かったよ。これからのことだが、初等学校へと入学しなければならない。しかし、孤児院の先生によると文字が書けないらしいが、アイリーン本当かね?」


どうしようとアイリーンは返事に困った。本当のことを話してもいいものだろうか。アイリーンはそのまま俯いて沈黙した。その時、フェリスが部屋へと駆け戻ってきた。


「旦那様、大変です! キッチンで急に火の手が!」

「なんだって?! 早く消火しないと! エド、ジーン、水を持ってきなさい。ジェイダとアイリーンは外へ!」


皆がパニックに陥る中、アイリーンは声を上げた。


「誰か、ペンと紙を!」


全員の視線がアイリーンに集まる。アイリーンは自分の頬が紅潮していることを感じながらも必死になって繰り返した。


「ペンと紙を貸してください!」

「これでいい?」


ユージーンが胸ポケットから手帳とペンを手渡した。


「あ、ありがとうございます」

「アイリーン、危ないぞ」

「大丈夫です、エドお兄さま」


アイリーンは部屋を飛び出し、煙を伝って台所へと辿り着いた。アイリーンを心配したキャンベル一家が追いかけてきた。そこでアイリーンは手帳の一ページに書き込んだ。

『炎よ、消えろ』

すると煙が徐々に消えてきた。消えると黒焦げになった竈が姿を現した。


「これは……アイリーン、君がやったのかい?」


アイリーンは小さく頷くと手帳に『竈の焦げよ、消えろ』と書いた。すると竈は新品同様になった。スタンフォード一家とフェイスは口を開けて驚いた表情のまま固まった。


「……台所に変わったところはないでしょうか?」


アイリーンが恐る恐る尋ねるとトーマスは驚きを隠せないまま再び尋ねた。


「アイリーン、君はもしかして魔女なのか?」

「……はい。私が文章を書くと現実になります」


一同は感嘆の声を上げた。


「すっげぇ、そんな魔法聞いたことがねぇ」

「世界でも数人しかいない魔女で、こんな強力な能力を持っているなんて……」


魔女は魔術師とは異なる存在だ。世界の法則に従い、四大元素を支配する魔術とは違い、魔女は天性のものだ。魔術は習えば素質の差はあれど、大概の人間が使用することができる。しかし、魔女の持つ魔法は特殊で魔術の原理に当てはまらない。


「それで外で文字を書かないようにしていたんだね。辛いこともあっただろう」


トーマスがそっとアイリーンを抱きしめた。


「あなた、この子は幼年学校に入れるべきではありません! わたくしがこの子に教育を施しましょう。この能力を知っている者は少ない方が良いです。エド、ジーン、お前たちもこのことは他言無用ですよ、わかりましたね?!」


ジェイダの言葉に息子たちはしっかりと頷いた。こうしてアイリーンのスタンフォード家での生活が始まった。


お読みいただきありがとうございます。


次回「新鋭の作家」をどうぞよろしくお願いします。

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