スタンフォード家の人々
案内された食堂にはトーマスと妻、息子が二人席についていた。妻は黒髪をきちんと結い上げており、黒髪と茶髪の二人の息子は値踏みするようにアイリーンを見つめていた。その視線にアイリーンは緊張で声を詰まらせながら挨拶をした。
「アイリーン・ストウナーです。下働きでもなんでもします。どうかよろしくお願いします……」
「下働きぃ?」
黒髪の少年が不機嫌そうな声を上げた。びくりとアイリーンは身を固める。
「何言ってるんだよ! 今日からお前はおれの妹なんだからさぁ~」
「兄さん、怖がらせるなよ。初めまして、アイリーン。ぼくはユージーン。こんなに可愛い妹が出来て嬉しいよ。ジーン兄さんって呼んでね?」
茶髪の少年が微笑んで声をかけた。
「あ、ずるいぞ! おれはエドワードだからエド兄でいいぞ」
アイリーンは予想外の反応に戸惑いながら返事をした。
「えっと、エド兄さまとジーン兄さま?」
そう呼ばれるとエドワードと名乗った少年は拳を突き上げた。
「良いなぁ、小さくて可愛い妹に兄さまって呼ばれるの。夢だったんだ」
「小さくも可愛くも妹でもなくて悪かったね、兄さん」
「静かにしなさい。エド、ジーン」
「すみません、お母さま」
アイリーンはその厳しい声に背筋に冷たいものが走った。黒い釣り目のきつい顔をした女性はぎろりとアイリーンを見た。
「あの、申し訳ございません。お母さま……」
アイリーンが口に出した途端、場が凍り付いた。エドとジーンたちにつられてつい自分もそう呼んでしまった。
「アイリーン、わたくしが貴方にそう呼ばれる筋合いはありません」
「ご、ごめんなさい!」
「でも、そうね。どうしてもというなら『ママ』と呼んでくれても良いですよ」
「……え? ママ?」
そういうと、女はつかつかとアイリーンに近づき、抱きしめた。アイリーンは何が何だか混乱していた。
「嬉しいわ、ずっと女の子が欲しかったの! こんな愛らしい娘ができるなんて。顔をよく見せて頂戴。まるで春の野原のような髪に、黄昏時のような綺麗な目。頬は桃色で唇はサクランボみたい。でも、ちょっと痩せすぎね。さぁさぁ、食事にしましょう、フェイス、用意を」
「かしこまりました、奥様」
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次回「新しい家族」をどうぞよろしくお願いします。