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大いなる女王

「魔女、ナイト殿、大物が来るぞ……! この気配には覚えがある。『モーリアン』だ!」


オスカーが毛を逆立てて空を睨みつけた。木々の間から巨大な黒い両翼に女性の胴体をもつカラスが降り立った。黒髪をなびかせ豊かな乳房が羽毛に覆われている。


「人間か。妾の巣に何の用じゃ?」

「モーリアン『大いなる女王』よ。久しいな」

「貴様はケット・シーか? また、えらく愛らしい姿になりおって」

「まさか同胞にこんなところで出くわすと思わなんだ。この小鳥たちはお主の雛か?」

「そうじゃ。妾の子だ。突然この世界に呼び出されたと思ったら、この森に幽閉されてな。忌々しいが、封印されてこの木よりも高く飛べぬ。」


モーリアンの左足にはオスカーの首輪によく似た鉄の輪が嵌っていた。


「そこで、雛たちを産み、血族を増やそうと……猫の王よ、まさか我が子らを食べる気ではあるまいな?」

「モーリアンと事を起こそうとは思わんよ。だが、そなたの子らが奪ったヒトの声を返してほしい」

「ああ、異世界に来て生態が変わったようでな。美しい声を聴くと自らのものにしてしまうようだ。安心しろ、間もなく……」


その言葉を語る前にオスカーとモーリアンの二匹は敏感に気配を感じ取った。それから遅れて二人にも遠くから車輪を引いてくる音が聞こえる。そこにはローブを着た五人の男たちがリヤカーを引いてやってきた。


「えーっと、モーリアンの雛を回収しに来たんだけど、君たち一体誰かな?」


赤い巻き毛の男がアイリーンとギルバードに尋ねた。バスで偶然隣になったような気軽さだった。その後ろには我関せずとばかりにスキンヘッドの大男がリヤカーから鳥籠を取り出している。


「俺たちが何者でも関係ないだろう。モーリアンとその雛たちを解放しろ」

「いやいや、そんなことしたらこっちは商売あがったりだよ~せっかく、魔術をかけて、合唱団を用意して、雛に刷り込んだっていうのにさぁ。しかも、こっちはモーリアンを召喚までしてるんだよ? 一体いくらかかったと思ってるのさ」


饒舌な赤毛の男はオスカーを見て動きが止まった。


「なんとなんと! ケット・シーまでいるじゃないか! 僕らツイてるよ! 召喚士様に早くご報告しなければ」


赤毛の男が興奮して振り返ると背中には獅子と鎖のエンブレムがはっきりと刻まれていた。


お読みいただきありがとうございます。


次回「鎖縛のサーカス」をどうぞよろしくお願いします。

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