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鏡の中で

お見舞いのために花束とお菓子を買って、ギルバードはスタンフォード家を訪ねた。


「こんにちは、フェイスさん。アイリーンさんの具合はいかがですか?」

「お嬢様なら快復されて、書斎にこもっておられますよ」


フェイスの態度も随分軟化してきたが、怖い顔は相変わらずである。


「アイリーンさん、ギルバードです。入ってもいいですか?」

「ギルさんですか。どうぞ」


白い木綿のワンピースを着たアイリーンは図鑑を読み込んでいた。


「何を読んでいるんですか? 野鳥図鑑ですか?」

「ええ……ちょっと気になることがあって」


アイリーンは栞を挟むとぱたりと図鑑を閉じた。


「あの、ギルさん、今回ハリエットの森に行くのは私だけで行かせてもらえませんか?」


その言葉にギルバードは狼狽した。


「ダメですよ! アイリーンさんの魔法は確かに万能ですが、文字を書かなければ発動しないからどうしてもタイムラグが生まれます。危険な何かと遭遇しても身を守れません!」


ギルバードはアイリーンの両手を握って問う。


「それとも、俺だけでは頼りになりませんか?」

「そんなこと……ありません! でも、ギルさんに何かあったら、私……」

「……あの鏡で何か見たんですね?」


ぎくりとアイリーンが身を固める。


「一体あの『先見の魔女』から何を見せられたのですか? それは鳥と俺に関するものなのですか?」

「……ごめんなさい」

「謝ることではありません。アイリーンさん、あなたに嘘は似合わない。教えてください」

「……森の中に銀色の綺麗な羽根が舞う中、血まみれのギルさんが倒れていました」

「そうでしたか。確か、先見の魔女の見せるものは『決定された未来』なんですね?」

「そうです。覆せない、そう先見の魔女は言っていました」

「それ以外には?」

「えっと、『二人の運命は分かち難く絡みついている……意志を強く持って。未来は選べる』と……」


それを聞くとギルバードはからりと笑った。暗い表情のアイリーンとは対称的だった。


「アイリーンさん、大丈夫です。俺は死んだりしませんし、万が一怪我をしても命に別状はないでしょう。だって、先見の魔女がその先の未来を保証してくれているんですから」

「そんな、楽観的な……ギルさんは確かに血まみれで倒れてました。傷付くとわかっていて森に行くなんて反対です!」

「残念ながらそれを決めるのはアイリーンさんではなく俺です。大丈夫、アイリーンさんが生きていれば俺も大丈夫ってことでしょう。それに未来は決定づけられてしまった。けれど、もちろん抗ってみましょう、運命ってやつに」

「そんな……ギルさん……」

「『未来は選べる』んでしょう? 行きましょう、アイリーンさん。俺は絶対あなたを守ります」

「お熱いのう、お二人さん」


そこにどこか部屋に潜んでいたオスカーが姿を見せた。


「森に行くからには儂も連れて行ってくれるんだろうな?」

「ああ、万が一俺に何かあったら、オスカー頼むよ」

「縁起でもない……と儂がいうのもおかしいが、まあ承知したよ、ナイト殿」


お読みいただきありがとうございます。


次回「ハリエットの森」をどうぞよろしくお願いします。

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