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一時の休息

既に夜は明けていた。マチルダは寮へと帰り、アイリーンとギルバード、オスカーは馬車に乗って帰宅することになった。早朝、ノッカーを鳴らすとフェイスが扉を開けた。


「お嬢様、おはようございます。試験勉強というのは終わりましたか?」

「あ、おはようございます、フェイスさん。ええ、とても良い勉強になりました」

「お坊ちゃまたちが応接室でお待ちです。お顔を見せてあげて下さいまし。わたくしは朝食をご用意いたします」

アイリーンとギルバードが応接室に行くと毛布を被ったエドワードとユージーンがソファーで眠っていた。

「エド兄さま、ジーン兄さま、ただいま戻りました」

「アイリーン! 急に外泊なんてするから驚いたぞ。ギルバードくんに何かされたわけじゃないだろうな?」


エドワードが厳しい視線でギルバードを見据える。


「いえ、決して、何もありません!」

「大丈夫ですわ、エド兄さま。それより、聞いて下さい。私、友人が出来ました。お電話かけて下さったマチルダ・ディアスさんというんです」

「そうか。確かディアスというと有名な軍人の家系だね。どんな人かな?」

「家名を鼻にかけたりしない、強くて真っ直ぐな方でした」


ユージーンが優しい瞳でアイリーンに語りかける。そこにトーマスとジェイダが応接室にやって来た。おはようとそれぞれが挨拶を交わすと、トーマスが切り出してきた。


「それで、ウィックローに入って合唱団の謎は解けたのかな?」

「いえ。学校内で流行していたおまじないを調査したところ、死後の魔女の能力が鏡を媒介にして発動していただけでした。どうやら……合唱団が慰問に出かけていたハリエットの森に原因があるようです」

「二日間でよくそこまで調べたね。アイリーン、学校はどうするつもりだい? 休学という手もあるんだよ?」

「勉強は家でもできますし、父さまと兄さま方が言っていた通り人間関係は難しくて。やっぱり、私にとってはこの家で執筆したり読書している方が性に合っているみたいです。ですが、とても貴重な経験をさせていただきました」

「そうか。それではギルバードくん、後のことは任せたよ」

「承知しました」


ギルバードが軽く頭を下げたところでフェイスがやってきた。


「皆さま、お食事の用意が出来ました」


 食事を摂った後、ギルバードはまず騎士団に赴き、団長と面会を願った。そこで、現在までの進捗を報告し、ウィックロー高等学校での調査が終了したことを告げた。


「それで魔女は次はハリエットの森に行くと言ってるんだな?」

「はい。そちらの調査を開始したいと考えております」

「よかろう。それでは、学校には私の方で話をつけておこう。代わりの臨時講師も派遣する。いいか、魔女の御身を守れ。それからギルバード、お前自身の身もしっかりな」

「ハッ!」


ギルバードは敬礼して答えつつ、団長が何故自分の身を案じるのだろうと疑問に思った。ともかく、舞台はウィックロー高等学校からハリエットの森へと移ることになった。


 ギルバードは徹夜などなんともなかったが、アイリーンにとってはそうではなかった。慣れない環境で過ごした疲れから三日ほど寝込んでしまった。その間、ギルバードはハリエットの森について調査しておくことにした。皇都から南に二十キロほど行ったハリエットの森は湖と老人施設以外これと言って何もない保養地である。


「一体、ここに何があるんだ?」


ギルバードが呟くと頭を丸めた新聞で軽く叩かれた。


「働いているか、新米?」

「編集長、おはようございます」


そこには髭面の編集長が立っていた。立ち姿まで熊に似ている。


「ハリエットの森ぃ? なんだってこんな田舎のぱっとしない所を調べているんだ」

「アイリス先生たっての希望でして。次回作の資料を集めていたんです」

「ああ、アイリス・グリーンはいつもよくわからんネタに興味を持つからな。だが、なぜか作品は面白い。しっかりお守りするんだぞ」


天は二物を与えずというが、アイリーンの場合は少々ギフトを貰い過ぎたようだ。それが本人の幸せだとは限らないがとギルバードはそこまで考えたところでそっと資料をしまった。




お読みいただきありがとうございます。追記しました。


次回「鏡の中で」をどうぞよろしくお願いします。

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