救いの手
それから間もなく本屋の店主の家に引き取られることが決まった。孤児院の先生たちも文字を書かないアイリーンを奇妙な子だと思っていたらしく、厄介払いできて安心した顔をしていた。アイリーンは大した量もない荷物を抱え、馬車に乗り込んだ。
「待たせたね、アイリーン。今日から君は我が家の一員だ。僕はトーマス・スタンフォード」
「はい。よろしくお願いします」
「家には妻と二人の息子がいる。手狭な家だが、自由にしてくれていいよ」
トーマスはそう語ると小さな屋敷に馬車が停まった。小さいがよく手入れされた感じの良い家だった。トーマスとアイリーンが馬車を降りて、中に入った。
「お帰りなさい、旦那様」
老年の女中が迎いに出てきた。目つきが悪く怖い顔をしたメイドだった。
「フェイス、前に伝えたと思うが今日から家で暮らすアイリーンだ。よろしく頼む」
「かしこまりました」
フェイスはちらりとアイリーンを見ると、荷物をひったくり、腕を掴んでそのままどこかへ連れて行った。
連れて行かれた先は風呂場だった。
「全く孤児院というところは女の子をまともに風呂にも入れないなんて! こういった身なりの整え方もきちんと指導すべきです」
フェイスは香りのよい石鹸を使ってアイリーンの身体を隅々まで磨いていった。風呂場から出されたアイリーンの髪はさらさらで桃のような香りが漂っていた。
「まぁ、なんて綺麗な若草色の髪なんでしょう。きちんと梳いておきますからね」
そういうとフェイスは丁寧にアイリーンの髪をとかした。孤児院では馬鹿にされてばかりいた髪の色を褒められてアイリーンは少し頬が赤くなった。真新しいワンピースを着るとフェイスが満足そうに溜息を吐いた。
「それでは夕食にしましょう。食堂はこちらです」
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次回「スタンフォード家の人々」をどうぞよろしくお願いします。