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暗闇の中で

 消灯の時間が過ぎて、時刻は十一時となった。


「行くよ、アイリーン。あたしの後ろからついてきて」


アイリーンは静かに頷いた。二人は静かに寮母室の前を通り過ぎる。


「うちの寮母さん、一度寝たらなかなか起きないから。裏口から出れば大丈夫」

「手慣れてますね、マチルダさん」

「何年この学校にいると思ってるの? この位当然でしょう」


外に出て見ると月もなく、真っ暗だった。ランプを灯してマチルダの案内で北塔へと向かう。


「夜の学校ってやっぱり不気味ですね……」

「何言ってるの、アイリーン。これから幽霊退治に行こうとしているのに」


恐る恐る小さな歩幅で歩くアイリーンと反対にマチルダの足取りは軽い。北塔の近くに小さな明かりが見えた。


「アイリーンさん、マチルダさん、問題ありませんでしたか?」

「抜かりはありませんよ、キャンベル先生」


マチルダがランプを掲げて答える。その明かりの向こう側でアイリーンがひょっこり現れた。


「今のところ誰も来ていません。それでは問題の鏡の近くで待ちましょうか。カギは開けてあります」


三人と一匹は階段を昇っていった。足音が無人の塔の中に反響する。時折、アイリーンから怯えたような声が聞こえる。


「大丈夫ですか、アイリーンさん?」

「すみません、この前の事件を思い出してしまって……」


ああとギルバードが納得した。確かに暗闇で悪漢に襲われた経験はトラウマになるだろうとギルバードも思う。


「アイリーンさん、ランプを持ってもらえますか?」

「はい?」


アイリーンが受け取るとギルバードがアイリーンの右手を握った。ひゃっとアイリーンが驚いた声を上げる。


「利き手は剣をのためにあけておきたいので、ランプをお願いします」

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします……」


アイリーンは辺りが暗くて本当に良かったと思った。しかし、その後ろでマチルダがニヤニヤ笑っていることには二人とも気が付かなかった。


「これが例の大鏡ですか?」


三階の踊り場にかけられた鏡は長身のギルバードよりもなお高く、手を伸ばしてやっと先端に手が届くほど立派だった。


「この鏡です。どうですか、キャンベル先生。儀式を試してみる気はありますか?」

「あるわけないよ、マチルダさん。それで、オスカー、気配はどうだ?」


うろうろと歩き回っていた黒猫がくるりと身を翻した。


「ここが原点で間違いないだろう。だが、ジェシカ嬢にかかっていた魔力と同じかまではわからん。まだ、香りが薄い」

「そうか。さて、どうするか……」

「キャンベル先生、あそこの物陰に隠れているっていうのはどうですか?」


マチルダが鏡が見えつつ、死角となる位置を示した。


「それがよさそうだ。行きますよ、アイリーンさん」

「はい!」


アイリーンは手を引かれて物陰に連れ込まれる。


「ランプを消しますよ」


光が消えると暗闇と静寂が辺りを支配した。


「なかなか雰囲気がありますね……」

「アイリーンさん、本とペンは持ってきてますか? この暗さでも書けますか?」

「ええ、大丈夫です。今度はしくじりません」

「何々、アイリーン。本とペンで何をするの?」

「それは……」

「シッ。来るぞ」


マチルダがアイリーンを追及しようとした時に、オスカーが押し留めた。扉が開かれ、少女たちの嬌声が聞こえてくる。


「本当に来ましたね……」


アイリーンの呟きにギルバードが答える。


「問題はこの儀式がどうなるかにかかっています。気を抜かないで下さい」


お読みいただきありがとうございます。


次回「ブラッディ・マリー」をどうぞよろしくお願いします。

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