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憧れのお姉さま

『マチルダ様?!』


授業が終わるのを待って、ジェシカをあずまやに呼び出した。マチルダを見たジェシカは声が出ないにもかかわらず、口に手を当てて叫び声を抑えた。


「初めまして、ジェシカ・キャンベルさん。マチルダ・ディアスです。よろしくね」

『はい! こんな形でマチルダ様とお近づきになれるなんて……よろしくお願いいたします!』


ジェシカは感極まった様にマチルダを見つめた。マチルダの下級生からの人気は本物のようだ。


「ジェシカ、改めて『ブラッディ・マリー』について聞きたいんだが、具体的にはどんな手順で行うんだ?」


ギルバードの問いにジェシカは石板に細かく手順を書き込んでいく。


『階段をろうそくを持って後ろ向きに上ります。夜中の十二時に踊り場にある大鏡の前で三回周り、マリーの名を呼ぶと未来の旦那様の姿が浮かび上がると言われてます。しかし、代わりに失敗すると非業の死を遂げたという髪の長い血まみれの女性が映って害するっていうおまじないです』

「鏡って持って上がるんじゃなくて大鏡を使うのか?」

『そうよ、ギルバードお兄さま』

「へぇ、それは知らなかった。その大鏡って北塔の三階にあるものかな?」

『その通りですわ、マチルダ様』


ジェシカは大好きなギルバードと憧れのマチルダに囲まれてご機嫌である。その時、バスケットからオスカーが出てきて、ジェシカの膝に乗った。


『可愛い! この猫どうしたんですか、ギルバードお兄さま? くすぐったい!』


ジェシカはオスカーを抱き上げながら、器用に石板に書き込んだ。オスカーはジェシカの喉をぺろぺろと舐めだした。しばらくオスカーがじゃれると満足した様にバスケットに戻っていった。


「よし、概ねわかった。また連絡する」

『わかりましたわ、ギルバードお兄さま』

「それじゃあ、お大事に。ジェシカさん」

『ありがとうございます、マチルダ様……!』


ジェシカは両手を握りしめてマチルダに蕩ける様な視線を向けた。自分に素直な子だなとアイリーンは感心した。正直なだけにジェシカの行動には不快感は無い。しかし元よりアイリーンは他人の悪意に疎い方であることに無自覚なのであった。


 ジェシカと別れた三人はあずまやに残った。


「オスカー、何かわかりましたか?」

「そうだな……確かに喉に魔力が残留しているのが感じられた。だが、ごく微量だ。なんというか、悪意が無い、敵意もない、そんな意思の無いものだった。個人的に呪われたものではなさそうだな」

「呪いではない……しかし、現に声を失うという身体症状が出ています」


アイリーンが考え込みながら呟いた。


「そうだな。どうやら、何かの現象に偶発的に巻き込まれた……そんな気がする。それから、やはり言っていた通り魔術ではない」

「あまり要領を得ないな、オスカー」

「不服かね、ナイト殿? 貴殿が本件でどれほど役に立っているか考えてみたらどうだ? 本性を現せばもっと詳細なことがわかるのだが、生憎仮の姿ではな。夜に期待しよう」


オスカーが皮肉気に答えると、顔をぺろりと舐めた。


お読みいただきありがとうございます。


次回「暗闇の中で」をどうぞよろしくお願いします。

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