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裏切り?

「ローガン・ラッセルくん、マチルダ・ディアスさんは今日の授業に参加しないのか?」

「いえ、ディアスはああ見えて真面目な生徒です。座学では居眠りしていますが、学業でも優秀です。あの編入生の名前を呼んでいました」

「アイリーン・スタンフォードさんもこの授業に参加すると言っていたのか?」

「はい。ディアスがそのようなことを尋ねてきたので、そうかと」

「全員、傾注! これより自習とする。真剣の持ち出しは禁止。模擬剣のみを使って素振り、型の稽古を続けろ」


ギルバードが武道場を飛び出した。


「アイリーン! アイリーン!」


構内を叫びながらギルバードが走っていく。その目の前に黒い子猫が現れた。


「慌てるな、ナイト殿。こっちだ」


オスカーは俊敏に小道の方へと駆け出した。


 小道の先にあったのは美しい蓮池だった。その池の中にはいくつもの筆記用具や教科書が浮かんでいた。

アイリーンさん! 大丈夫ですか?!」


ギルバードが蓮池に駆け寄ると、そこには泥だらけになったアイリーンとマチルダがいた。アイリーンが魔導書を抱き、マチルダが両目に涙を浮かべて頭を垂れている。


「ごめん、アイリーン! あたしが軽々しくあの子たちに『キャンベル先生とアイリーンは元々知り合いで仲が良い』なんて言ったせいで、こんなことに……!」

「大丈夫ですよ、マチルダさん。助けに来てくれたじゃないですか。マチルダさんが来てくれなかったら、私、溺死するところでした」


蓮池は沼になっていて、足を取られたアイリーンは動けなくなっていた。それを助けたのはマチルダだった。


「二人とも怪我は無いんだね? 何が起きたんだい?」


二人は揃って頷いた。ギルバードはほっと息をついた。アイリーンがゆっくりと自分の身に起きたことを説明した。


「助けてくれてありがとう、マチルダ・ディアスさん。どうやら人気のある君の関心をアイリーンさんが引いてしまったようだ。君は自分の周囲への影響力を理解していないみたいだね」

「……どちらにせよ、あたしのせいですね。ごめんなさい、アイリーン……」

「この本さえ無事であれば平気です。ありがとう、マチルダさん」


二人は泥だらけになりながら、抱き合った。


「感動のシーンを邪魔して悪いが、この構内から不思議な魔力の流れを感じるぞ」

「えっ、何?! 猫が喋った!」


オスカーの言葉にマチルダが過敏に反応する。まあ、それが正常の反応だろうなとギルバードはやっと落ち着きだした頭で考える。


「オスカー、勝手に喋るんじゃない」

「いやな、どうやら夜にならないと気配が希薄なようなのだ」


アイリーンとギルバードはお互いに顔を見合わせた。


「え、何? アイリーンとキャンベル先生は合唱団の声が出なくなった件を調査するためにウィックローに来てて、この猫は魔獣なの? ごめん、新情報が多すぎて頭パンクしそう……」


中庭の噴水で顔と手の泥を落とした後、マチルダが頭に手を当てて抱え込んだ。


「こんなことに巻き込んでごめんなさい、マチルダさん」

「いいの、アイリーン……よし、わかった。要するにこの黒猫はあたしの部屋に来てこの学校に存在している魔力の元を探りたいってことだよね?」

「なかなか察しが良いな。今夜一晩、宿を借りたい」

「一人部屋だし、それは構わないけど……アイリーンも来るってことだよね?」

「え、あ、うん。お願いします!」

「うん。それじゃあ、こんな格好だし、お風呂に行こう。キャンベル先生、今更ですが授業お休みします」

「それは構わないが……アイリーンさん、外泊できるんですか?」

「ああ、えっと、電話してみます……上手くいくかわかりませんが……」


自信無さそうにアイリーンは答えた。


お読みいただきありがとうございます。


次回「方便」をどうぞよろしくお願いします。

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