奇妙な儀式
「すっごかったなぁ、キャンベル先生。あたしも手合わせしたかったなぁ」
制服に着替えたマチルダが興奮した様子でアイリーンに話してきた。
「アイリーンはキャンベル先生があんなに強いって知ってたの? あたしの目から見ても
あれは相当の腕前だよ」
「そうなんですね。私もはっきりと見たのはこれが初めてでしたので」
以前、強盗を退治した時は薄暗くて一瞬で分からなかった。
「それにしても、ローガンの顔、笑えた。いつも威張り散らして、井の中の蛙だったから良い薬だよ。貴族ってどうしてああなんだろう。生まれなんて実力じゃないのにね」
カラカラとマチルダが笑った。言葉の内容とは裏腹にそこには負の感情がまるでなかった。
「……マチルダさんが人気があるのがわかる気がします」
「そう? 別にあたし自然体で振舞ってるだけなんだけど」
アイリーンは勇気を出して、マチルダに尋ねてみることにした。
「マチルダさんは、リディア合唱団についてご存知ですか?」
「ああ、みんな声が出なくなっちゃったっていうアレね。女子たちの間じゃ『ブラッディ・マリー』の仕業って言われてる」
「『ブラッディ・マリー』?」
「この学校に伝わる怪談。夜中にろうそくと鏡を持って階段を後ろ向きに上ると未来の伴侶が見える。けれど、代わりにブラッディ・マリーが現れると悪いことが起きるんだって。女の子が好きそうな儀式でしょ?」
「そうですね。マチルダさんは試したことは?」
「あると思う? あたしはそんな鏡が選んだ相手より、自分の目で剣も心もタフな人間を選ぶよ……あ、そう考えるとキャンベル先生は案外理想に近いかも」
「だ、ダメです! マチルダさんだったら私、敵いません」
「おやぁ? アイリーン、必死だね。顔、真っ赤だよ? なんだ、やっぱり、そうなのか」
「えっと、これは、その……」
「良いって、皆まで言うな。あの顔に剣術、騎士とくれば憧れちゃうよね。あたし、応援するからさ」
「あ、ありがとうございます」
そこに前方からギルバードが歩いてくるのが見えた。
「お疲れ様です、キャンベル先生。素晴らしい腕前でした」
「ああ、マチルダ・ディアスさん。ざっと見させてもらったけれど、君の太刀筋が一番綺麗だったよ。随分、努力しているね」
「ありがとうございます!」
「筋肉痛になるかもしれないから、しっかりストレッチをするように。アイリーン・スタンフォードさん、良いかな?」
「はい」
「それじゃあ、あたしはこれで失礼します。アイリーン、また明日ね!」
マチルダはキビキビとした足取りで立ち去った。ギルバードが一つ息を吐く。
「やれやれ、指南役なんて柄にもないことをしました」
「ぎ、ギルさん、とってもお強かったです!」
「あれくらい大したことではありませんよ。少々大人げなかったです。それで、これから姪に会おうと思うのですが、アイリーンさんはお疲れじゃないですか?」
「平気です。ご心配して頂きありがとうございます」
「姪とはあずまやで会う約束をしていますので、行きましょう」
お読みいただきありがとうございます。
次回「合唱団」をどうぞよろしくお願いします。




