猫の王
アイリーンが異変を感じたのはベッドでともに眠ったはずのオスカーがぺろぺろと頬をなめていたことからだった。
「どうしたの、オスカー?」
その時、パリンとどこかでガラスが割られる音が聞こえた。アイリーンは魔導書とペンを持って、ランプを灯した。腕の中のオスカーがフーッと毛を逆立てている。アイリーンは怖じ気づきそうな気持ちを必死に鼓舞して階段を降りた。家族を守れるのは自分しかいないのだとアイリーンは強く念じた。階段の踊り場で階段の下に誰かいることに気付いた。
「……どなたですか?」
「お嬢さん、ケット・シーを持っているな? それはオレらの物だ。返してもらおうか。そうでなければ、命を奪ったりしない」
「フェイスさん!?」
ランプの微かな光に照らされて、ローブを着た男と拳銃をフェイスに突き付けている屈強な男がいた。
「お嬢様、申し訳ありません……」
「さあ、どうする? その腕の中の猫を渡せばこの老いぼれとあんたの命は保証する」
どうしようとアイリーンは思考が停止してしまった。その時、腕の中で猫が呟いた。
「儂を渡すといい。優しき魔女よ」
「オスカー、あなた話せるの?」
「儂はケット・シー。ここに来る前、別の世界では猫の王であった。あの不届き者によって召喚され、無理矢理封印を施される前までな」
「そうだ。呼び出したのはオレだ。契約に従ってもらうぞ」
「笑止。貴様の様な野蛮な者に従う道理はない……しかし、魔女を傷つけられるわけにはいかない」
オスカーはアイリーンの腕を飛び出し、二本足で立ち上がった。一段ずつ階段を降り、オスカーは男たちの元へと下った。男がオスカーを片手で掴む。
「それじゃあ、ババアと娘には死んでもらおうか」
「約束と違うぞ!」
オスカーが声を上げる。
「顔をみられた以上、生かしておく訳にはいかないんでね。悪く思わんでくれよ」
かちりとフェイスの頭の横で拳銃の音が鳴る。アイリーンは悲鳴を上げようとしたが、恐怖で引き攣って声が出なかった。
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次回「真の任務」をどうぞよろしくお願いします。




