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懸念

 フェイスの夕食は美味だった。和やかな夕食が終わるとギルバードはスタンフォード家を後にした。それから、魔術研究所へと馬車を走らせた。


「ケイト、まだいるか?」


研究室の扉を強くノックすると、中からぼさぼさのブロンドに眼鏡の青年が一人出てきた。


「なんだよ、ギルバード。二徹目で眠いんだけど。って、何だ、その恰好。ハンチング帽にステッキって似合わねぇ。騎士になったんじゃないのか?」

「いろいろあるんだよ。それより、これ! 解析してくれ」

それは猫に嵌っていたと言われる鉄片だった。

「何らかの強力な魔法の気配は感じたんだが、よくわからなくて」

「ふーん、つまんないことで僕を起こしたなら追い返そうと思ったけど、なかなか面白そうなもの持って来たね。ま、入りなよ」


ギルバードはケイトの研究室へと入ることを許された。アイリーンの部屋と違って書類と得体の知れない液体が机を占領し、ソファーは寝床と化している。


「これは異世界の魔法だね。強力な魔獣を封印していたんだろう」

「なんだって?! それはどんな魔獣なんだ?」

「最近、国家召喚士が召喚したって話は聞かないから、密輸入だろうね。さすがの僕でもこんな欠片だけじゃ解析なんて無理。悔しいけどフローレンスのアイザック氏には敵わないんだよなぁ」

「だから、どんな性質の魔獣なんだ?!」

「わっかんないよー。サイズからして小動物だけど、本性がどんなものかはわからない。だってリストにないんだもん。それにしても、この強力な異世界の封印をこんなにバラバラにするなんて、どんな魔術師?」

「それは……わからん。だが姿は子猫の姿だった」

「そっかー。それで、最近猫がいなくなる事件が頻発してたんだね。ところで解除魔法も解析せずあっさり壊すなんて一度会ってみたかったなぁ。でも、その小動物、封印が解けたらヤバいかもねー」

「何が?」

「本性に変身できるのと、多分密輸業者は封印されて魔力を感知できなかったと思うけど、もうダダ洩れだからねー。この世界とは違う魔力で探索したらあっさり見つかると思うよ」


その言葉を聞くとギルバードは火が付いたように走り出した。


 ギルバードはじっとスタンフォード家を物陰から見張った。北国であるエイブリー帝国は春でも夜は冷える。

ギルバードは両手をポケットにしまいながら、

(自分は何をやっているんだろう)

と頭の片隅で考えた。これは任務であると言い聞かすと同時にアイリーンの雪の中で一輪咲く花の様な笑顔を思い出す。それから三時間経った。いくらなんでもこんな真夜中に来るわけがないと帰ろうとした矢先、一台の車がスタンフォード家の前に停車した。ギルバードはスタンフォード家へと踵を返した。


お読みいただきありがとうございます。


次回「猫の王」をどうぞよろしくお願いします。

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