表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/47

黒猫と鉄の輪

「大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です。物と人に慣れていなくて」


その時ギルバードの腹が小さく鳴った。


「いや、これは失礼。俺、よく腹がすくんです。すみませんが、そこの露店で何か買ってきてもいいでしょうか?」


アイリーンが小さく笑った。


「ええ、どうぞ。私にも何か飲み物をお願いします」

「わかりました!」


ギルバードが露店に駆けて行くのをアイリーンは懐かしい気持ちで見送った。その足元に柔らかな感触がしてベンチの下を見た。すると、そこには埃だらけの黒い子猫がいた。


「あら、ここ、あなたのお家だったの?」


猫は小さくにゃあと鳴いた。アイリーンが手を伸ばすと猫はそっと身を寄せてきた。


「人馴れしているのね。誰かに飼われていたのかしら? あら、鉄の輪?」


子猫の首は窮屈そうな鉄の輪がつけられていた。猫はしきりに輪を外してほしそうにアイリーンにこすりつけてきた。


「何か刻まれてるわね。 でも首輪には見えないし、サイズが合わなくて苦しそう。それにこの国の言葉じゃないみたい……」


アイリーンはちらりとギルバードを見た。まだ時間がかかりそうである。そこで魔導書とペンを取り出し、『鉄の輪よ、外れろ』と素早く書いた。するとぱきりと脆い音を立てて、猫の首輪が壊れた。猫は嬉しそうにアイリーンの膝の上で丸まった。アイリーンが鉄の輪を見てみると不思議な文様が刻まれていた。


「名前とかじゃなさそう。東大陸のもの? それとも……」

「アイリーンさん、お待たせしました!」


サンドウィッチとコーヒーを二つ持ったギルバードが戻って来た。


「コーヒー飲めますか? あれ、その猫どうしたんですか?」

「あ、さっき、このベンチの下で見つけたんです。この鉄の輪が付いていたんですけど、苦しそうだったので外してしまいました。けれど、名前ではなくって」

「そうですか……」


ギルバードは手の中の小さな鉄片を手の中で転がした。その後、子猫に向き合った。


「ん、どうやら俺と同じく腹が空いてるらしいですね。ハムなら食べれるかな?」


そう言ってギルバードがサンドウィッチからハムを一枚引っ張り出すと、猫はふんふんと匂いを嗅いで食べ始めた。


「この子、痩せっぽちですね。こんなに小さいのに親とはぐれたのでしょうか?」

「どうでしょうね。スタンフォード家は家族仲が良いんですね」

「そうですね。良くしてもらっています。私には身に余る幸せです」

「……? それって、もしかして……」

「ええ、養子なんです。両親は事故で五歳の時に亡くなりました。それから、孤児院にいた私をトーマス父さまが引き取って下さったんです」

「それは……寂しかったでしょう」

「私は、実は狡い人間なんです。父さまもママもエド兄さまもジーン兄さまも良い人過ぎて未だに打ち明けられずにいます」

「言えないことがあっても、いいじゃないですか。大丈夫です。血が繋がってなくても、家族なら受け入れてくれます……俺の母も流行り病で死にました。貴族の妾で、本家に身の置き所が無くて、こうして暮らしています。父とも異母兄とも疎遠なままです。だから、思います。あんなに大切に想ってくれるご兄妹がいるなら大丈夫です」

「……ありがとうございます。ギルバードさん」

「そろそろ行きましょうか」

「そうですね、あら?」


立ち上がり、歩き出したアイリーンの後ろを猫が付いて来た。


「何? 私と一緒に来たいの?」

「飼ってやったらどうですか? どうやら野良猫みたいだし」

「そうですね。ギルバードさんとお出かけしたおかげで、素敵な出会いがありました。プレゼントをありがとうございます」

「いやいや、今度改めてプレゼントを贈らせていただきます。今日のところは帰りましょう」


アイリーンは腕の中の小さな生き物を優しく抱きしめた。


お読みいただきありがとうございます。


次回「和やかな夕餉」をどうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ