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苦難の始まり

「なんで俺が……こんなことに……」


ギルバードは出版社の新入社員としてスタンフォード家の門の前に立っていた。約一時間前、ギルバードはマクラグレン出版社にいた。そこにはやたらとガタイの良いひげ面の編集長と前任者である担当編集者が待っていた。


「アイリス・グリーンは我が社にとっても非常に重要な作家だ。それを全く経験の無い新人に任せるのは遺憾だが、アイリス・グリーン本人とミスリル騎士団直々の要請ならば仕方ない」


ギルバードはまず二つのことに驚いた。アイリーンがアイリス・グリーンであること、そしてアイリーンが自分を護衛として了承したことだった。すると編集長に電話がかかってきて、編集長は席を立った。


「それじゃあ、引継ぎは任せたぞ」


熊のような編集長は地味顔の前任者に告げた。ありふれたブラウンの髪に灰色の瞳のぱっとしない男だった。出版社に勤めていると言われればそうかと納得するが、どんな職に就いていても違和感がない不思議な雰囲気があった。


「ギルバード・キャンベルくんだね。優秀な騎士団員である君のうわさはよく聞いているよ。さて直々のご指名だ。しっかりアイリーン・スタンフォードを守ってくれ。この出版社でもアイリス・グリーンがわずか十六歳の少女だということを知っているのは編集長とオレしかいない。君の任務は彼女の護衛だ。彼女は二重に秘匿され同時に保護されるべき存在である」

「どういう人物なんですか? そんなに危険に晒されているなら、しかるべき処置を取らねばならないと思うのですが」

「本人が一市民として暮らしたいと言っている以上、帝国としては出来る範囲で彼女を守るしかない。大丈夫、彼女はちょっと人見知りで口下手だが可愛らしい普通の少女だ」

「その普通の少女を守るっていうことがよくわからないのですが?」

「あ、あー、そうだな。普通の少女という部分は撤回する。士官学校では首席だったんだろう? その能力を発揮して思う存分、作家アイリス・グリーンの担当編集として手腕を振るってくれ。これが、アイリス・グリーンの住所だ。君の名前は伝えてある。それでは、オレは次の任務に行く。魔獣や魔物なんかの異世界の生物の密輸が増えていてね。それと街でオレと出会っても挨拶なんてしないでくれ。幸運を」


前任者はぽんとギルバードの肩を叩くとカバンを抱えて消えていった。そこに編集長が戻って来た。


「あいつ、もう行っちまったか。なかなか優秀な奴だったから惜しいな。引継ぎは済んだか?」

「アイリス・グリーンについて話しましたが、仕事内容については特には」

「あー、そうか。まぁ、慣れだ。お前の仕事はアイリス・グリーンのサポートと原稿を無事に社に持ち帰ってくることだ。わかったら、さっさとアイリス・グリーンの家に行け」


お読みいただきありがとうございます。


次回「メイドと兄弟」をどうぞよろしくお願いします。

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