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帝国の吉凶

アイリーンが謁見の間から下がった後、皇帝に対して宰相が尋ねた。


「よろしかったのですか、陛下。魔女の力は多様な応用が可能な上、非常に強力です。軍事運用すれば一個師団と同等程度の強力な人間兵器となったでしょう。他にもいくらでも利用する術があります。それをみすみすあの様な約定を結ばせてしまって……」

「それで年端もいかぬ娘を使って、大量殺人をさせるのか? それとも、外交の際に我が国を有利にするために心を弄ぶか?」

「それは……」

「あの娘の力は確かに強大だが、諸刃の剣だよ。しかし、今日見たところでは心根の清いあどけない少女のようだ。魔女は保護されるべき稀少な存在ある。どのような強力な魔女でも身体は非力な少女だ。その身を守りつつ、心身が健やかであるよう魔女の動向には目を光らせておけ。できたら城で政務に就くように伝えてくれ」

「わかりました」


うやうやしく宰相が下がると皇帝は再び花盛りの庭園を見つめた。


「果たして約束の魔女の誕生は世界にとって吉と出るか凶と出るか……」


皇帝と謁見を果たした後、帝都では密やかに言葉を操る魔女の存在が囁かれることになった。


 結果として、アイリーンは王宮へと居を移すことを断った。今まで通りスタンフォード家で静かに暮らしていくことを選んだ。読書と執筆の日々を送り、それからもベストセラーを生み出した。約束の魔女と名付けられてから更に二年の時が経った。


お読みいただきありがとうございます。


次回「苦難の始まり」をどうぞよろしくお願いします。

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