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序章

「ギルバード・キャンベル、汝に辞令を下す」

「ハッ」


 エイブリー帝国ミスリル騎士団、ギルバードは心躍らせていた。士官学校を首席で卒業し、皇帝の側仕えとしてエリート街道を爆進する。子爵家の次男として生まれたギルバードにはそれしか立身出世の道は無かった。そしていよいよ、その時がやって来た。胸を高鳴らせながら、屈強な騎士団長の言葉を待った。


「アイリーン・スタンフォードの護衛を命ずる」

「はぁ?」


ギルバードは思わず気の抜けた声が出してしまった。王室どころか聞いたこともない名前だった。


「あの、アイリーン・スタンフォードとは如何なる人物なのですか?」

「帝国にとって極めて重要な存在だ。王家の方々と同等に扱われるべきお方である。しかし、その存在は厳重に秘匿されている。この重要な任務を任せられるのはギルバード・キャンベル、貴殿しかいない。学問、魔術、武術、社交術どれをとっても抜きんでている」

「光栄であります!」

「そこで、だ。貴殿はこの書面に従い、出向したまえ」


ギルバードは団長から手渡された書類に目を通すと血の気が下がっていった。


「団長、ご冗談ですよね?! 伝統ある騎士団員が一市民として城下に下り、出版社に入社して中流家庭の少女を護衛するなんて……?」

「これは決定事項である。皇帝陛下直々の勅命だ。不服かね?」


団長の目は本気だった。ギルバードは気圧されながらも声を張り上げた。


「いいえッ、ギルバード・キャンベル、確かに拝命いたしました!」


こうしてエリート騎士、ギルバードは名も知らない少女の護衛任務に就くことになった。



その辞令が下された夜、ギルバードはレストランで恋人のエリーゼとディナーをしていた。エリーゼは巻き毛の黒髪を結い上げて、ドレスから魅惑的なうなじからデコルテのラインが露わになっている。


「ギルバード、あなた、今日配属が決まるって言ってたけど、どこになったの?」

「……実は騎士を辞めることになったんだ」

「嘘でしょ?」


エリーゼは驚いて手の中のワインがグラスの縁までゆらりと揺らめいた。


「詳しいことは、君にも話せないんだ」

「どうにもならないの?」


不安そうなエリーゼの問いかけに、ああとギルバードが眉間に皺を寄せながら、苦渋の表情を浮かべて答えた。


「すまない。君には迷惑をかけるけど、これからも俺と君との関係は……」

「わかったわ。それじゃあ、わたしたちこれで終わりね」


「え?」


ギルバードは一瞬エリーゼの言葉が分からず茫然とした。


「だって、子爵の次男で家督も継げなくて騎士でもないあなたに何の価値があるの?」

「いや、これには事情が……」

「バイバイ、ギルバード。あなたのその顔好きだったわ」


本来なら今日、華々しい未来を指し示す辞令を受け取り、エリーゼに婚約を申し込むつもりだった。どうしてこうなったんだとギルバードは頭を抱える。自分の思い描いていた未来像がガラガラと崩れていく音がした。



お読みいただきありがとうございます。


次回「魔女の悲劇」をどうぞよろしくお願いいたします。

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