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海棺

作者: 鴇月



画家 気を病んで、港町へとやって来た。

作家 海棺の話を友人の画家に教える。







青空ではカモメが泳ぎ、鮮やかな海では魚が泳いでいる。

数年前に私は、事故で恋人を失い気を病んでしまった。それまでいたチカチカするような色の散乱した町から遠く離れた、この静かな港町へとかねてより仲の良い友人であるとある作家から誘われてやって来た。

「久しぶりに会っても、ちっとも変わってなんかないものだね。ようこそ、お前を歓迎するよ。」

ワイングラスを片手に笑顔で彼は私に言った。

潮風と汽笛の聞こえるカフェの一角で、悠々と話すのもとても心地よい。私は彼に、今はどんな話を書いているのかと尋ねた。

「海棺だよ。ここらの人間は、死んだ人を海に流すのさ。」

「どうしてだい?」

「今まで、魚を採らせてもらったからっていう敬意だよ。」

私は棺がゆらゆらと海に沈んでいくのを想像した。

「それは見てみたいね。」

すると彼ははぁと、ため息をついた。

「昔から変わったやつだよなぁ、お前は。」

「変わってるとも。君の話を聞いてるんだからね。」

しかし実際、あの綺麗な青色に沈み込んでいく姿を画家としては見てみたいものだと思った。深い暗い…冷たい海の底にまで落ちていくと、貝や魚はもちろんのこと朽ちた難破船だってあるだろう。ここは、昔からの船着き場だったから積み荷の荷物もあるかもしれない。そんななかにゆらゆらと沈み込んでいくのは、美しいとも言えるだろう!

そう考えれば考えるほど、私は海棺を見たくなった。


…それからすぐに、私は海棺を見る機会に恵まれた。

けれど心は晴れることなどなかった。美しいと思っていたのに、私は涙をこぼすしかなかった。海にちゃぷんと、棺が流れていく。指を伸ばせども、棺が二度と開かないことは分かっていた。

「友達思いにも程があるじゃないか、でも君は間違ってるよ。大馬鹿者だ!…私は君と見たかったんだ。海棺は絶対に美しいと思っていたのに、君が棺の中になんかいたら、誰に感想を言えば良い?」

友人は、何も言わず海へと消えていった。

ザザンと、波が棺を呑み込んでいった。






青空の下の青い海に、棺がゆらゆらと漂っていたらそれは最期まで芸術を愛した画家の海棺かもしれません。

あの青さに取りつかれ、友の元へと逝った男の見せる幻なのです。


追伸、これは私の遺書になるでしょう。これを書き終えたら、私は友人の元へと行きます。名も知らぬこれを見た貴方。私は最後まで芸術を愛しています。ですから、最期には美しいところで死にたいのです。


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