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魔王と始める世界革命  作者: 茜色蒲公英
8/22

旅立ちは明日

激突した家の中にはブーメランだけで刀を持って近づいてくるジンゼンに勝てるか怪しい。

多少切られるのを覚悟して突撃してもいいけどジンゼンとあの刀にまだ何かある気がしてならない。

しかしここで逃げるという選択肢は私にない。ジンゼンは死ぬ気で来てるんだしここで殺す。

足音のする方向にブーメランを投げるとすぐに切った音がして近くにいるのが分かる。

破った壁から別の方向の壁を蹴り破って破片で目隠しをして頭にかかと落としを叩き込もうとする私。


「甘い!」


振り下ろした足は防がれた刀により綺麗に切れてしまい、片足でギリギリ着地できた私はすかさず距離を取る。


「うーん…強い」


「一本足取られてその反応か。もしかしてお前さん人間じゃないな?」


「人間だよ。こういう能力を持ってるだけでね」


再生する足を見せつけるとジンゼン「ほぅ」と興味深そうに顎鬚をいじる。


「どうやって発現したかは知らんがそんなスキルもあるもんだな。だが心臓はどうかな?」


「どうだろうね。試したことないからわかんない!」


構え方からどう振ってくるのか予測して避けて接近し、殴りかかる瞬間にジンゼンは一歩引いて私の腕を切り落とす。


「戦闘慣れはしてるみたいだが、やはり年数と場数違うな」


余裕の表情を浮かべるジンゼン。


「場数ってこんな村二つしかないところでどうやって踏むのさ」


「お前さんに話しても仕方ない…いやどうせ死ぬのだし話しておくか。ワシは数十年前まで魔王を倒すため兵士をしていてな、使っていたのは刀ではなく消耗品みたいな剣だったが。町の人を守るために重い鎧を着て魔物を倒していたんだがついに魔王のいる城を見つけたという情報が入り、ワシを含めた三十人もの兵士で森へと入って行ったんだが…」


「迷ったの?」


「それもあったがどこからともなく音楽が聞こえると途端に眠気で周りが倒れていって次第にワシも耐え切れずに倒れた。そして目を覚ますとワシは森の外にいた。周りに居た兵士も同じように森の外に出され武器は奪われていた。馬鹿にされたヤケになった一人の兵士が森の中に入っていったあいつがどうなったかはもう誰も知らん」


「…そっか」


「話はここまでだ。お前さんみたいな子供相手が最期の相手とは思わなかったが何もしないでくたばるより数百倍いい!」


「私もここで死ぬ気はない!」


右上から振り下ろしてきたとおもいきや意識のいってなかった左足を蹴って私の体勢を崩し、その隙に刀を突き刺そうとするも私は裸足で凍えている足で地面がめり込みそうなほど踏み込んでジンゼンの腹に向かって頭突きをする。


「ぐっ!」


衝撃で刀を離すことなく力強くジンゼンは刀を握り続ける。

けれど私の頭突きが効いたのかジンゼンの攻撃はだいぶ避けやすくなった。

右振りをしゃがんで避けたら腕を蹴り上げ、それでも刀を離さない。


「かあっ!」


さっきとは違い私の拳が簡単に当たるくらい接近してジンゼンは突きを繰り出す。


「そこだぁ!」


横腹を貫かれる代わりに肘で根元近くから刃を叩き折り、驚いて一歩引いたジンゼンを見逃さずに腹に力を込めた拳を叩き込んだ。


「いったぁ…」


私は刺さったままの刃を抜いて倒れているジンゼンを見る。

もう起き上がっても武器がないならジンゼンに勝機はない。私は黙って立ち去ろうとするとジンゼンは「待て!!」と叫んだ。


「聞かせてくれ、お前さん何者だ」


「元冒険者。今は魔王の仲間で世界を変えようとしてる」


「魔王と世界を変える…か…面白いことしようとしてるな。ワシはそろそろ眠たくなってきたから寝るぞ」


「うん。おやすみ」


何も言わなくなったジンゼンにもう振り返ることなく村を出てバンスのいる村へと戻った。


「おかえりなさいませお嬢さん。このパン君、帰ってきた方からポポア殿が鬼気迫る表情で村へと向かったと聞いたので即全滅させて帰ってくるだろうと演奏を披露していたのですが中々帰ってこなかったので心配していたのですよ」


「ごめん、向こうの村にやたらと強い爺さんがいたから時間かかっちゃった。それで帰ってきて早々悪いんだけど靴ない?片足切られちゃった」


「なんとぉ!?まさか裸足のまま雪の上を歩いてきたのですか!?」


「うん。だって片足だけじゃ歩きにくいし」


「お嬢さんには痛覚がないようですなぁ…あるかは分かりませんが見ているだけで痛いので見つかるまでパン君がおんぶしましょう」


「いいよ、恥ずかしいし」


「その青くなった足を見せつけているほうがよっぽど恥ずかしいですよぉ」


「むー…じゃあさせてもらう」


パン君の背中に飛び乗ると「うおっ」とよろけた。


「重い?」


「赤子を背負っている訳ではありませんからなぁ…メディのように肉体派でもありませんし」


「そういえば助けた人達の中に私と同じくらいの女の子がいた気がするけどどこの家かな?」


「そういえばいましたなぁ。あちらの家に入っていった気がするので行ってみましょうか」


手がふさがっているパン君の代わりに私がドアをノックすると目的の女の子とそのお母さんが出てくれた。


「あ!助けてくれたお姉ちゃんだ!」


「助けてくれて本当にありがとうございます…その様子だと怪我をされたのですか?」


「ううん、戦ってる時に片足の靴がどこか行っちゃったから余ってた欲しいなぁと思って来た」


「靴ですか…山を降りて靴を買うのは一年に一度くらいなので去年買った物しかありませんが…」


「履ければいいよ!それと今の聞いたパン君?」


「ええ聞きましたとも!山を降りれば町があるのですなぁ!」


「お姉ちゃん達町から来たんじゃないの?」


女の子の質問にどう答えていいか分からず黙る私とパン君。

「森から来た」と答えても私はともかくパン君が疑われるのは間違いないし相手は人間なので魔王の城からなんてもっと言えない。

パン君にうまく説明してもらおうと視線を送っても首を横に振るだけだし女の子は首を傾げている。

こんな時にメディがいればうまい言い訳を言ってくれるのだろうけどこの場にはいない。


「あの、もしかしてですけど王家の方では?」


王家とは文字の通り人間の中で一番偉い人達の家族。

詳しくは知らないんだけどとても大きな城で生活してるらしく、政治のやり方はお世辞にもいいと言えないけれど兵力とお金があるから近辺だけは守れているらしい。


「王家…の兵士みたいなものだよ。訓練で山に来てたんだけど…ね?」


「まぁそんなところでございますな!ではこれにて失礼!」


手を振ってドアを閉めると私は急いで靴を履いて追われないうちに村を出た。


「いや危なかったですなぁ。あのまま沈黙を続けていればパン君かお嬢さんが近くにある森から来たと言っていましたな」


「そうだね…あ、メディにスコップ壊しちゃったの謝らないと」


森の中に入り、木の枝の手入れをしていたラプラスおじいちゃんに「ただいま」と言って森を抜け、城へと帰ってきた。


「ただいまー!」


一日も経っていないけれどなんだか久々に帰ってきた気がした私は廊下で大きな声を出すと髪が寝癖で爆発したパンドラが頭を掻きながら眠そうにやってきた。


「おかえり…ふわぁ…寒い中二人で散歩にでも行ってたのか?」


「違うよ、メディに頼まれてあっちの方の調査に行ってた」


「へぇ、それで何かあったのか?」


「村が二つあったよ。片方はトラブルがあって皆殺しにしたけど」


「おいおい…まさかパンデモニウムは関わっていないだろうな?」


「話せば少し長くなりますが私は人間の姿でいたので怪しまれませんでしたし、人質でしたので演奏くらいしかしていませんよぉ。村を壊滅させたのはお嬢さん一人でしたから」


「ねぇねぇ!そんなことよりここが山で下の方に町があるんだって!」


「町か。そしてここが山の中ということは…よし、昼飯の時に会議するぞ」


町の場所、あるいはここがどこか分かったのだろうか、私はお昼ご飯を作ってもらうためにメディに通信をするとメディは小さな本を片手に外から戻ってきて調理室に向かう。


「私も手伝っていい?」


「もちろんです。向こうで何があったか聞かせてくださいね」


芋の皮を剥いたりしている間、私は二つの村で起こったことを話した。

刀を持ったおじいさんがやたらと強かったこと、そしてそのおじいさんが一度この城の森に入ってきたことがあることも。


「ジンゼンという方ですか…そういえば数十年前に多くの兵士が森に入ってきたことがありましたね。私は魔王さまの近くで待機していたので詳しくは存じませんがあの時はパンデモニウムとデスが動いていたので二人に聞いてみてください」


食事を終え、お皿を片付け終わるとパンドラは広いテーブルの上に私の身長の三倍はありそうな地図を広げた。

地図を見るのは初めてでどこに何があるのかさっぱりわからない。


「ポポア、村の人はここが山で山を降りれば町があると言っていたんだろ?」


「うん。年に一回降りるとも言ってた」


「だとするとここから町まで大分遠いな。魔力も溜まってないから前みたいに移動もできん」


「じゃあ次は私一人で行く?」


「却下だ。…と言いたいところだが山を降りてまた登ってこられる体力があるのはお前かデスくらいしかいないだろうな」


「俺がいない間この森に敵が入り込まない保証はあるのか?」


「ないから困ってるんですよ。ポポアさんを一人で行かせるのは何かあった時に助けられませんし、かといって数少ない戦力を離れさせるわけにもいきません」


そもそもこんな山の中の森の中にある魔王の城はそうそう見つからないと思うのだけどみんな真剣な表情をしているので言えない。

私自身を過剰評価しているかもしれないけれどドラゴン三匹まとめて襲ってくるということでもないと負ける気がしないし雪の怖さは知ったばかりだからいざとなったら動物の寝床を奪ってやり過ごすこともできる。


「このパン君、お嬢さんの戦いぶりは見ていませんが我々の思っている以上にタフなのは存じていますよぉ」


「つまりポポア一人で町に行っても問題ないと?」


「私とメディ二人で行くより信頼はできるでしょうねぇ」


「…だそうだが、ポポア、お前は一人で行けるか?」


「問題ない!」


「そう言うだろうな。よし、明日早朝天気を確認して晴れていたら出発だ。今日は地図の見方と方角についてメディから教わってくれ。デスは周辺に動物がいたら狩って、それ以外の何かがいたら報告を頼む」


「パン君はいかがいたしましょう?」


「パンデモニウムとジジイは移動用魔力貯蔵に今ある半分位の魔力を入れたあと自由にしてくれていい」


「つまりいつも通りですなぁ!」


明日に向けメディの気合は高まり地図と実際の距離とか住んでいる動物の種類を頭にたたき込めるだけ叩き込まれた。

勉強が終わるまで「雪を舐めているのですか」と何度言われてのかはもう覚えてない。

メディによると「人間が歩けばここから町まで寝ずに歩き続けても丸二日はかかります。ですがそれは雪が全くない場合の話なので早くても三日かかると思っていてくださいね」だそう。

教われば教わるほど今までいた環境とは違う場所にいるのだということに心配になってきた私

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