嘘は嫌いだから
十一人いる中の一人目の女の人を助けて次の家に向かう私。
わざわざ他の人を外に出すため大きな音を出したというのに家から人が出てくる様子はなかった。
一々扉から入るのも面倒だし壁を壊して入りたいけれどそこに女の人がいたら嫌だし、耳のいいパン君は置いてきてしまった。
そこで私はさっき入った家に戻り、足を切断した男の人の服を後ろから握って外に放り出した。
こうすれば仲間を呼ぶはず。動物だって仲間を呼ぶし人間も多分こうする。
「私が大きな声で呼んでもいいんだけど、それじゃちょっと足りないから助けを呼んで」
「だ…誰がお前みたいなガキのいいなりに…」
「だって一つ一つ周るのだって時間かかるし、中に女の人いるから下手に壁を壊すわけにもいかないじゃん。一人対一人だったら私が勝てるけど集まればもしかしたら私を殺せるかもよ?そうしたらあなたも助かるかも」
それでも助けを呼ばない男の人。
これ以上話しても何も言わなさそうだし私は男の人を頭から地面に突き刺して次の家に向かった。
「こんにちはー!誰かいませんかー!」
扉を何度か叩くと中から顔に傷を負った男の人が頭を掻きながらいかにも「面倒くさい」といった顔で出てきた。
「見ない顔だな。どこかの町から迷い込んできたのか?」
「ううん。ここからちょっと行った村の人から女の人を取り返してこいって言われたの。それで、一つ一つ周るのも時間がかかるし一度に集まってくれないかなーって」
「女で、しかも子供一人でか。はっ、笑わせてくれるじゃねぇか。どこのガキだか知らねぇが怪我したくなきゃ今すぐに出て行くんだな」
「どこかにいけ」と手で払う仕草をして扉を閉めた男の人。
その直後に私が扉を蹴破ると扉は男の人の後頭部にあたってうつ伏せに倒れた。
私は足を持つと雪の積もった外に放り投げて家の中に入って女の人を探す。
「近くの村から助けに来たよー!怖くないから出てきてー!」
「ほ、ほんとう?」
小動物みたいに熊の木像から震えて出てきたのは私より小さい女の子。
「本当!ここを出てハンズの所に行けば安全だよ!」
「うん!ありがとうお姉ちゃん!」
お姉ちゃん。言われたことのない言葉の響きに顔が綻んでしまう。
女の子をおんぶして外を出て、ハンズの元に届けると放り投げた男の所に戻る。
すると男はそこにはいなくなっており、私がつけた足跡の上を少しはみ出して家に戻っていた。
私が不思議に思っていると男が帰ったであろう家の窓が割れる音と爆発音がして私の頭に痛みが走った。
「いったぁ…何これ」
私の頭から落ちてきたのは人差し指ほどの鉄の塊。
投げてきたのか指で飛ばしてきたのかあるいは魔法で飛ばしてきたのかは分からないけれど私じゃなかったら大怪我してただろう。
その音を聞いたのか他の家から続々とバンスの村を襲った男の人達が現れてこっちに近づいてきた。
「おいおい、ドドのやつガキに向かって発砲したのか?」
「だが生きてるぞこいつ。あいつが外すなんてヘマするか?」
さすがに警戒されていて男の人達は斧や剣といった見たことのある武器や矢を固定してある道具など見たことのない武器も持っていた。
てっきり斧か鍬くらいしか持っていないと思っていたけれど、これには驚いた。
知らない武器の対策なんてできているはずもなく、私は飛び道具を弾きやすい槍とブーメランを取り出して槍を片手に持ち、ブーメランは首にかける。
ブーメランはドラゴンの骨を加工して作ってるからそう壊れないし壊れてもまた取ってくればいいので飛び道具を弾くのにはぴったり。
「何をしに来た!」
「近くの村の男の人達から女の人を奪ったって聞いたから取り返しに来たの!ここにいるので男の人は全員?」
「大人はな。だがガキ一人で俺らを倒せるっていうのか?」
「お前ら!油断すんじゃねぇぞ!そいつは俺の一撃を脳天に食らっても死ぬどころかた俺すらしなかったやつだ!人間に擬態した魔物の可能性がある!」
窓の割れた方から声がしてまた爆発の音がすると今度は槍で弾いた。
「来ないならこっちから行くよ!」
積もった雪の上を走るのはまだ慣れていなくて普通に走るよりだいぶ遅い。
「撃て!」
斧を持った男の人が合図すると弓を放つ。
慌ててジャンプして次の弓を準備しようとする男の人の顔に体重を乗せて槍を突き刺す。
続けて素人みたいな動きで剣を振りかぶって来た男に槍で刺した体を盾にして槍を引き抜くと盾ごと剣を持った男を貫く。
「剣貰うね」
手から落とした剣を拾うとさっきから割れた窓から鉄の塊を飛ばしてくる男の人を目掛け、指に力を込めて剣を飛ばすと「うがっ」という悲鳴が聞こえた。
「これであとは見たことのある武器を持った人だけかな」
「この化物が…子供のくせに戦い慣れてやがる」
「化物って言われるのあんまり好きじゃないんだけど…色んな魔物と戦ってきたからね。あと人間も」
「ちっ…ならこれ以上やっても全員死んで終わりだな」
「じゃあ、女の人たちを返してくれる?」
「…ああ」
「にへぇ~これがメディが言ってた極力暴力的なことは避けるってやつだね!」
生きている男の人には窓が割れている家に集まってもらい、ハンズには女の人を呼んでもらって無事全員助かった…と思っていた。
用のなくなった村を出て楽しく会話をしていると遠くの方からあの爆発音がした。
誰に当たったのか確認しようとしたけどその必要はなかった。
一番後ろを歩いていた、ハンズの背中、心臓の近くを貫通していた。
「ハンズ!」
「俺のことは気にするな!走れ!」
そう言うと数人の女の子は走って逃げていったけれど他の人はハンズのことを心配して逃げない。
「ハンズのこと、任せていい?」
「いいけど…ポポアちゃんは?」
「終わらせてくる」
私が悪かった。嘘をつくような人を見抜けなかった私が悪かった。
あの時点で全員殺しておけばこんなことにはならなかった。
村に戻るとあの男達は笑ってた。
家一つ分ほどのブーメランを投げても避けもせずに崩れた家の下敷きになった。
「化物は化物でも所詮は子供だったな!いいこと教えてやるよ!あの村の奴らも俺らと同じで悪いやつなんだぞ!」
隠れて矢を撃ってきた男も笑っている。体に矢が刺さっているけれどどうせ治るし今はどうだっていい。
「うるさい」
死ぬことが分かっているのだろう。次の矢を準備せずにこちらに指を向けていた。
「嘘つかれたのがそんなにショックなのか!?」
「聞こえない」
「あの男も馬鹿だよなぁ!普通は疑うだろうによぉ!」
「黙れ」
髪を掴んで力の限り口を蹴る。
痛みで悶絶する男の両手両足を矢を使って地面に突き刺して動かなくさせ、息が聞こえなくなるまでひたすら殴った。
「まだいるんでしょ?」
最初に見たのは十三人。
そのうち嘘をつかれる前に殺したのは三人。
家の下敷きになったのは五人で今一人殺したからまだ二人いる。
人の気配だとか殺気とかはまだ感じ取れなかったはずの私だったがこの時だけは妙にそういうものが分かった。
どの家に何人生きている、死んでいる人が居るのかがはっきりと。
あと二人は別々の家にいて一人目のいる家の壁を壊すと音に驚いた男がこちらに斧を持ってきて構えた。
「う…撃ったのはあいつらだろ!俺は関係ないだろ!」
斧を横から殴ると簡単に金属の部分は破壊できて、残った木の棒を押し付けると男は壁につくまで後ろに下がる。
「何とか言えよ!そんなにあの男が撃たれたのが嫌だったのか!?」
違う。たとえ他の女の人が撃たれようが私が撃たれようが私はこうした。
「私は嘘が一番嫌いなの」
木の棒を腹に押し込んでひるませると木の棒を奪って顔面を殴打した。
「ゆるひへ…おへがいひまふ…」
「嫌だ」
大きくした木の棒で顔を潰して外に出ると最後の一人である老人が綺麗な曲がり方をしている剣を持って立っていた。
「わしが最後か…見ての通りただのヨボヨボだが見逃してくれは…してくれそうにはないな」
「許せない相手はとことん潰すのが私のやり方だから」
「はっはっはっ。血の気の多い娘だ。他の男どもを殺している所を見たがまさに獣のような戦い方だったな」
他の男たちとは何か違う。
あの曲がった剣のせいなのだろうか、力を入れてないように下げているのに不気味な何かを感じる。
「この刀が気になるのか?」
「刀?」
「そう、刀だ。死んだ妻が教えてくれるまで知らなかったものだがこの刀というものは二年半かけて作られたもので大抵のものなら切れる恐ろしいものだ。さっきお前さんが乗り込んで来た時には他の連中でもなんとかできると思って出さなかったが今はそうも言っていられんだろう?ここでお前さんに勝っても一人じゃ生きていけんし負ければ死ぬ。ここで使わなければもう使う機会などないだろうな」
老人は腕を交差させて顔の横あたりに刀を構える。
「お前さん、名は?」
「ポポア」
「ポポアか。わしはジンゼンだ、勝った方の記憶に残るような殺し合いをしようか!」
「ジンゼン、参る!」とジンゼンは叫ぶとこちらに走り、目を狙ってきた。
これをかわして取り出した剣で反撃しようと飛びかかるけれど弾き返されるどころか簡単に切られてしまった。
「世の中には見えない速度で相手を切るっていうやつもいるみたいだが、そうもいかんな」
ここまで次に何をするかわからない人は初めてだった。
武器を初めて見たというのもあるけれどこの人自体が強い。
「どうしたポポア?お前さんの能力はもう終わりか?」
「残念だけど派手な能力は持ってないからね…でもどんなものでもやり方次第だよ!」
一旦後ろに下がり、スコップを取り出して主に持ち手の部分を大きくしていく。
私の三倍くらいの大きさになると持ち手を直角に曲げてそれを縦に回転させてその勢いを殺さないように私も一緒に回転する。
「名づけて大車輪!」
「見たまんまだな。当たらないように避けようとしても巨大化すりゃ潰されるだろうな。なら切る!」
ジンゼンは刀を一度しまうと深呼吸をして、私とぶつかる瞬間に刀を抜いて何かを切った。
「あれ?なんだか軽い…」
よく見ると私が持っているのは持ち手の部分だけであり、そこから下はあらぬ方向へと飛んでいってしまっていた。
足で自分の回転を止めようとするけれど少しずつしか速度は下がらず、私はそのまま家に激突してしまった。
「いったた…やっぱりあの人強いな…カバンの中まだ何かあったっけ…」
あったのはブーメランのみ。
「これでどうやって戦えばいいんだろう」
他に何かないか考えている私。
しかし老人の足音はすぐそこまで来ていた。