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魔王と始める世界革命  作者: 茜色蒲公英
6/22

二つの村

大きな魔物の言っていた村を目指し、私とパンパンデモニウムは積もった雪を掘り進めていた。


朝に城を出てまだお昼くらいで急ぐ必要はそこまでないけれど、足が疲れた。


かといって冷たい雪にお尻を付きたくないし、椅子を持ってきてるわけでもないのでどうしようか困っていた。


「立って休憩というのも休憩をした気がしませんからねぇ。持ってきたもので椅子の代わりになりそうなものはありませんか?」


バッグを中を見るとナイフや斧、剣といった武器や干し肉などの食料は入れてきているものの代わりになりそうなものは見当たらない。


「おぉ、斧があるではありませんか。それを大きくし、持ち手に座れば立つよりはいいでしょうな」


言われたとおり全体的に大きくし、それからパン君は持ち手を大きくしてくれというのでやってみると刃は小さく、持ち手が異様に大きい斧が出来上がった。


これを持ち手が少し浮くように地面に刺して私とパン君はそこに座った。


「やはりお嬢さんの能力は便利なものですなぁ。もしかして干し肉を大きくさせることも可能なのですか?」


「それができないんだよね。生きているものの大きさを変えることができないっていうのは自分とか動物で何度も試してるからよく分かってるんだけど、もう生きてないはずの干し肉とか握り飯とか、そういう食べ物の大きさも仕組みはよくわかってないんだけど変えられないみたいなんだ」


「ふむ、今こうして大きくした持ち手も元は生きていた木ですし、その理屈だと大きくならないはずですなぁ」


「メディにも相談したんだけど『魔法の類ではないですし個人が使える能力に関してはまだまだ不思議で解明できないことはあまりにも多いので深く考えないほうがいいですよ』って言われた」


「ならパン君にはもっと分かりそうにないですなぁ!」


空に響き渡るほど豪快に笑うパン君。


休憩を終え、しばらくまた掘り進めていくとパン君は私の前に遮るように手を伸ばし、耳を澄ませる。


「何か聞こえますねぇ。まだ遠いですがパン君達と同じようなことをしているみたいです…が、ここから遠くゆっくりと聞こえるので遠のいているのか近づいているのか分かりませんね」


「じゃあ話を聞くため近づいてみよっか」


「それでは少しお待ちを。人間だった場合パン君の角を見られると魔物だと恐れられてしまいますので隠しますよ」


パン君は自分の角を両手で頭に押し付けると角はゆっくりと頭の中に入っていく。


「それどうなってるの!?」


「私は頭が凹んでいましてねぇ…というのは冗談で魔法で見えなくしているだけですよ」


どこからどうみても押し込んでいるようにしか見えなかったのだけれどパン君がそう言うならそうなのだろう。


パン君の言う音の聞こえた方へと掘り進めていき、次第に私の視界にも人の姿が見えてきた。


「こんにちはー!」


大きな声で挨拶をして手を振ると遠くにいた人はこちらに気づきはしたけど手を振ってくれなかった。


「おや、不審者だと思われているのですかねぇ?」


「そうじゃないといいな…」


こちらから近づいていくと真っ直ぐに掘り進めていた人は手を止めてこちらが来るのを待ち、男の人の顔がはっきり見えるほど近くに行くとスコップを投げてきた。


「危なぁっ!」


拳で弾き返すとスコップは割れてしまい、それを見た男の人は逃げてしまった。


盗賊だったらここで「わざわざ村まで案内してくれるのか」みたいなことを言ったりするのだろうなぁと思いつつ転ばないように急ぎ足で男の人を追いかけるけれど慣れている男の人との距離はあっという間に離れてしまう。


「待ってー!私達怪しい人じゃないからー!」


聞こえているはずなのに無視して逃げていく男の人。


こうなったら村まで追いかけて話をするしかなさそうだった。


無理やり捕まえても何も話してくれなさそうだし、気も進まない。


「このまま村に行くけど、いいよね?」


「お嬢さんにおまかせしますよ」


ゆっくり行くと村に行った時に待ち構えられそうなので急いで男の人を追いかけると村が見えてきた。


「あくまで情報収集…あくまで情報収集…」


「緊張なさっていますねぇ。相手はお嬢さんと同じ人間ですよ?」


「だから緊張するの。パン君だって初めて会う人とか魔物には緊張するでしょ?」


「いえ全然。偉い人らしきオーラでもない限り人はただの人であり魔物はただの魔物ですから」


なんという考え方。真似しようとは思わないけれど感心する。


村へ入っていくとやけに静かだった。


寒いので窓や扉が閉まっているのは当たり前だけれど人が一人もいない。


「対応があまりにも早いですねぇ。それほど小さな村なのかあるいはあの男の人が信頼されている人なのか…」


「来やがったな!野郎共囲め!」


さっきの男の人が現れると家の裏から武装をした二十人くらいの男の人達が走って私とパンくんを囲む。


「えっと…情報収集しに来たんだけど…」


「プフッ…単刀直入すぎてこのパン君笑いを抑えきれそうにありませんなぁ!」


平手でパン君の頭を頭を叩くと「暴力はいけません!」といいつつお腹を抱えて笑っているパン君。


「情報収集だと…?それよりてめぇら一体どこから来やがった。あっちはイエティの縄張りがあっただろ」


どう説明すればいいのだろうとパン君に視線を送ってもまだ笑っている。


「イ、イエティー!?そんなのいたんだー!襲われなくてよかったー!」


か弱い女の子っぽく振舞ってみたけれど男の人の見る目は変わらない。


そりゃあ拳でスコップ壊しちゃったんだし今更こんなこと言っても「じゃあ仕方ない」とはならないか。


「本当の目的を言え。場合によっては逃がしてやらなくもないぞ」


男の人がこっちに刃物を向けると周りの人たちも一斉に構える。


「本当の目的って言われても…私は本当に戦う気はないし盗賊みたいに何かしらを奪う気もないよ」


いくら私達が怪しいからってここまで警戒されているのには理由があるのだと思う。


けれど理由が聞けるような雰囲気じゃないし今はとりあえず信じて欲しい。


「パン君もただの音楽家で戦闘は一切できませんからねぇ。それと…音がしませんがこの村にはここいる人しかいないのですか?」


パン君が男性に聞くと驚いた顔をし、俯いた。


「攫ってきやがったんだよ…数日前にここから少し離れた村の連中がな…」


「それで私達のいる方向に掘り進めてたの?」


「ああ。てめぇらのいる方向とはまた少し違うがここから近いところに村があるんだ。俺らと同じで貧しいくせに無駄にプライドだけ高くってな…男が偉いって思っているから女は出て行って男しかいなくなる。そうするとどうなるかわかるだろ?」


「どうなるの?」


首を傾げる私にパン君は手招きをして耳に顔を近づける。


「お嬢さん。メディに人体の仕組みをまだ習っていないんですか?」


「メディにまだ早いって言われた」


あの本を開こうとした時のメディの止める手は早かった。


「いずれ勉強しなければならない時がやってきます。ですがまだポポアさんには早いのです。もう少し人を知ってから…」と真剣な表情で言われたのでそんなに大事なことなのかとその後は触れずにいた。


「要するにですねぇ、子供が産めなくなってしまうんですよ。ポポアさんにもお父さんとお母さんがいたように子供を作るには男と女、オスとメスが必要なんですよ」


半分分かったけど半分分からない。


けれどここで詳しく聞くような時間もなさそうなので話を進めることにした。


「つまり、子供がいなくなるから…人がいなくなっちゃうんだ」


「そういうことだ。だから何としてでも女共を取り返さなくちゃいけねぇんだ」


「なるほどぉ。しかししかし、襲われて返り討ちにできなかったのでしょう?こちらから挑んで勝機はあるのですか?」


パン君が首を捻ると男の人は「それは…」と言って黙ってしまう。


襲われた時にここにいなかったし相手の人数だとか持っていた武器だとか私には分からない。けれどこの反応ということは相手の人数はここにいる男の人達よりも多いのだろう。


こんな所で作られる武器なんて限られるし作る技術もあるとは考えにくい。


「なら私が行ってくるよ」


「なんだと?」


「強さには自信があるんだよ。例えばって何するのパン君!」


私がカバンから武器を取り出そうとするとカバンを横取りして首を振るパン君。


「ここで能力を使えば町にいた時の二の舞になるだけですよ」


「でもこのままだと私達殺されるか強引に出るしかないよ?それにせっかく村を見つけたんだし、ここで住む知識も教えて貰えるかも」


「ふむぅ、しかし段階的には魔物との交流、そして人間との共存ですが…そんな硬いことは言っていられませんか」


パン君はカバンを渡してくれて、私がカバンから手のひらほどの剣を取り出して私の身長くらいに大きくした。


「なっ!?」


「私の能力でこうやって武器を大きくすることができるんだよ。あと力もあるし体力にだって自信がある。…これでも信じてくれない?」


「…信じよう。だが逃げないようについて行くぞ」


「うん!」


こうして私はパン君を村に残して最初に出会った男の人と一緒に敵対しているという村に行くことにした。


「お前とかじゃ他の人と被っちゃうから名前言っておくね。私はポポアっていうんだ」


「俺はハンズだ。少しの間の付き合いだから覚えなくてもいいぞ」


「えぇ〜色んなこと教えてもらいたいし長くなると思うよ〜」


ハンズについて行くこと十数分、いくつかの家が見えてきた。


「地面見えないね」


「雪が降らない季節に大量に収穫して冬はほとんど外に出ないのがこの村のやり方だ。そんなやつらが今の季節にこっちの村を襲ってきたのは意外だったな」


一つの家の近くまで行くとハンズは立ち止まり、私に指で「行ってこい」というサインを送る。


私は頷いて家の前に立つと一呼吸してノックをした。


すると出てきたのは女の人だった。


「こんにちはー」


「こ…こんにちは…」


元気がなさそうに挨拶をする女の人。奥の方からは「誰だ!?」という男の人の声が聞こえる。


「とりあえず入らせてもらうね」


止める女の人を無視して声のした方に向かう私。


雑に扉を開けると男の人がこちらを向いて寝転がっていた。


「誰だ」


「教えない」


私は近づくと岩を砕く気持ちで男の腹を蹴り、男は勢いよく壁に背中をぶつけた。


「いってぇ…何しやがる!」


「何って、自覚ないの?」


大きくした斧で足を切断して立てなくすると女の人を家から連れ出してバンスの所に連れていく。


「聞くの忘れちゃったけど、あと何人いるの?」



「あと十人だ。頼んだぞ」


人に直接頼まれることは初めてで、私は心を躍らせて次の家に向かった。

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