白い恐怖
偵察と食材探しのため森の外に行くことになった私とメディ。
メディによると森に張り巡らされた魔法陣で誰かが森に入ってくると分かるらしく、今のところ誰も入ってきていないという。
「この森もあまり広くはないので突破されれば私くらいしか戦えないのであなたがここを突破したとき魔王様はかなり焦っていたんですよ。この森は入る人数が多いほど迷いやすくなりますから手分けで道を探そうとすると道が変わるので永遠にこちらに来ることはできない。しかしポポアさんは一人で来ましたからね。城に来る前もこういったことがあったんですか?」
「うん。迷いの洞窟とか迷いの○○みたいなのは当たるまで当てる!ってやってたよ。穴に落ちても登ればいいし罠でも大きな鉄球が落ちてきたり岩が転がってくるくらいだったからよゆーだったね!」
「ふふ、やっぱり面白い人ですね。そろそろ森を抜けますよ」
木の隙間からは涼しい風が吹き、森を抜ける手前の木には白いものが被さっていた。
そして森を抜けると地面が真っ白に覆われ、空からも白いものが降っていた。
「ここ一帯は雪原でしたか…寒っ」
「雪原?」
「雪原とは雪が降り積もった野原のことです…雪を見るのは初めてでしたか」
「この白いのが雪なんだ…食べれるの?」
「食べちゃダメですよ。それより美味しいものが土に埋まっているので我慢してください」
「なにか埋まってるの!?…というかなんで震えてるの?怖いものでも見たの?」
「寒いからですよ…私寒いのが大の苦手でして…着替えてくるので少し待っててください」
そう言うとメディは凄まじいスピードで森の中に入っていってしまった。
このまま雪が降っている空を見ているのもいいけどメディは土の中に美味しいものが埋まっていると言っていたので持ってきた剣を私が四人分ほどに大きくして地面に深く刺し、剣の持ち手を蹴って土をひっくり返してみた。
すると何かの巣を見つけ、ひっくり返した土にも何かが掘った跡がある。
大きさからしてリスかネズミのどちらかだろうけど捕まえるのに苦労するし身が小さいからお腹にたまらない。
私がひっくり返した土から驚いてリスが出てきたけど追う気にはなれなかった。
しかし私とは別にキツネがリスを狙っていた。
走りにくい雪の中を跳びながらリスを追いかけて雪の中に顔を突っ込むと口にはリスを捕らえていた。
「おぉ…」と思わず感心してしまう私。キツネは私に背を向けてどこかに行こうとするがせっかく見つけた良さそうな食料を見逃すほど私は優しくない。
剣をナイフほどの大きさにして三本の指で持ち、キツネの頭に向けて投げると見事に命中した。
近づいて見ると口まで剣は突き刺さっており、咥えていたリスも貫かれていた。
「でもこれじゃ足りないよね。せめてあと十匹くらいは捕まえないと」
森の木の枝を折り、少し太くしてキツネとリスを吊るし血の匂いで何か来ないか待ってみる。
「お待たせしてごめんなさい。それでは偵察に…おや、私がいない間に二匹も捕まえていましたか」
「土をひっくり返したらリスが出てきてね、小さいし要らないかなーって思ったら狐が出てきたの。これってあれだよね。一匹二匹ってやつだよね」
「それを言うなら一石二鳥です。まだ語学が必要なようですね…ここに吊るしておくと他の動物に食べられてしまいますし雪の中に埋めておきましょう」
「えー。これを使って別の大きい動物が来るかなーって思ったんだけどな」
私が獲った二匹を雪の中に埋めてひと目で分かるよう木の棒を刺し、私とメディは雪で覆われた真っ白な場所を歩くことにした。
私の腰くらいまで積もった雪は私に「進ませない」と言っているように歩きづらい。
どかさないで進もうとすると靴の中に雪が入るし数歩進むたびにメディから借りたスコップで一々雪を掘らなきゃいけないのでとてもつもなく面倒だった。
「雪のある場所ってこんなに面倒なの?」
「まぁ…普通は大人数で協力して作業しますからね。火炎系の魔法で溶かそうとしてもその場に炎を留めて溶かすのには魔力も集中力もいるのでやりたくないですね」
メディが手のひらほどの火球を雪に向かって放つと雪は溶けず、火球はすぐに消えてしまった。
「水の精霊であるウンディーネでしたら雪を一瞬にして水に変えることも可能でしょうがこんなところにはいるはずがありませんからね…」
メディと交代しながらいくら雪を掘り進めても人一人いない道を進むことどれくらいたったのだろう、空は雲に覆われて太陽が見えないので夜じゃないということくらいしか分からず、木はあっても葉っぱ一つない。
体力には自信があるのだけれど、積もった雪が地味に重く今すぐにでも寝たいくらいの眠気に襲われた。
「もうダメ…おやすみ」
「ポポアさん!?ここで寝たらダメですよ!…くっ、一度森まで引き返さないと」
私を背負って森まで帰ろうとするメディ。
しかし雪はメディを帰そうとしなかった。私達を見ていたように突然勢いを増して道を雪で埋めていき、私を背負っている分移動が遅くなっているメディの体力と視界を奪う。
「このままでは道が埋もれて本当に帰れなくなる…!ポポアさん起きてください!」
凍ったように眠っている私はメディの呼びかけに応えることはできない。
「せめて…ポポアさんだけでもっ!」
メディは力を振り絞り、私を宙に投げて尻尾で森まで叩き飛ばした。
「あとは…よろしくおねがいします…」
それからどれくらいの時間が経ったのだろうか、私が目を覚ますと森の中にいた。
周りには誰もおらず、一緒にいたメディに連絡をしようとしてもプツンという糸が切れたような音しかしない。
まさかとは思い森の向こうの雪原に出ると雪はもう降っていなかったが道は全て雪で埋まり、立てた木の枝も半分以上が埋もれてしまっていた。
「メディー!いるんでしょー!メディー!」
私がここにいるのだからメディも近くにいるはず。
でも叫んでも叫んでもメディーの返事はない。
「私の…私のせいだ…あんなところで寝なきゃ…」
「騒がしいな、さっきから騒いでるのお前か…ってなんだこの雪!?」
森から出てきたのはパンドラだった。
森から出てくるなりびっくりして体を震わせた。
「そんなにベソかいてどうした?というかメディはどうしたんだ?」
「メディが…メディがぁ…」
「熊に食われたのか?いやあいつに限ってそんなことはないよな…まさか連れ去られたのか?」
「ううん、違う…私が進んでる途中で寝ちゃってメディは多分…」
「そういうことか…寒いがんなこと言ってる場合じゃないな。どこまで進んだか覚えてるか?」
ううん、と首を振る私。
「だとしたら魔力感知を使うか。雪で俺の魔力だと邪魔されるかもしれんからお前はパンデモニウムとじじい…とデスは来るかわからんが呼んできてくれ!」
「デス…?う、うん!」
急いで森に入りパンデモニウム達にパンドラがメディを探していることを伝えるとすぐに駆けつけてくれた。
三人とも焦っているようでその中で一番慌てていたのは意外にも私を刺したデスという黒づくめの女の子だった。
「おい…!何故お前がいながらメディ様を一人にさせた!?」
「それは…」
「やめてやれ、デス。今はメディを探してくれ」
「ちっ…こんなやつをメディ様は助けたのか」
四人が魔力感知をしている間、私はうずくまるだけで何もできなかった。
デスの言うとおり、私がメディを守るはずだったのに今どうだろう。
助けられて、泣いて、慰められて、今何もできずにいる。
四人が探して「いた!」と声を上げたのはデスだった。
「どこだ!?」
「まっすぐ前、少し遠くに木が見えるだろ?あそこより二十メートル手前、深さは俺の身長くらいだ!まだ死んではないが魔力が枯渇しそうになってて危険な状態にある!」
「そうか。ポポア、お前の番だぞ」
「え?私?」
「ポポアという名前はお前しかいないだろ。俺が指示を出すからその通りにやってくれ」
こうして、メディ救出作戦が始まった。