お勉強
魔王パンドラと世界を変えると手を組み、メデューサのメディに本がたくさん置いてある部屋で世界を変えるため、今の世界を良くするためにすることを大量の紙に書かれた字と絵を使って詳しく聞かされている私。
しかし「武力行使は極力控えていただきたい」だとか「種族間での差別」だとか難しい単語が出てきて話の内容は全く頭に入ってこない。
「問題なのは魔物は種族間で争うことはありませんが共存関係にあるわけでもなく…聞いてますか?」
「うんきいてるよー。よくわからないけど」
「あー…最初に教育課程を聞いておくべきでしたね…ここまで話しておいて聞くのもなんですが字は読めますか?」
「うん。そうしないと依頼が受けられないからって」
「ということは読み書きはある程度できますね。では言葉はどうですか?」
「挨拶とか依頼に関係にすることなら」
「そうですか…なら勉強を先にしないといけませんね。そういえば年齢を聞いていませんでしたが聞いてもいいですか?」
「それ先生も聞いてきたけど分かんない。何歳なんだろうねー」
太陽が昇って下がってまた昇っていくのを一日というのは知ってる。それが繰り返されると歳が一つ増えるというのも。
最初に拾われた場所で私と同じくらいの男の子が、女の子が「今日は誕生日」と言って「おめでとう」と言われているのを見た。
けど私はいつ誕生日なのか、今何歳なのか教えてくれる人はいなかった。
「そうですね…じゃあこうしましょう。あなたは多分十二歳。そして誕生日は今日です」
「へ?そんな年齢とかどうでもよくない?」
「よくないですよ。私達魔物は数百年と生きられますが人間は百歳まで生きられるかすら怪しいのですからこれからあなたが誕生日を迎えたとき何かをしましょう。そうすれば今何歳か確認できます。決まりですね!」
「あ…うん」
こうしてほぼ無理やり春の最終日である今日が私の誕生日となった。
「さてあなたについて分かったことですが勉強は依頼を受けられる最低限度と仮定しましょう。なので…少々お待ちください」
さっきまで話していたたくさんの紙を別の机に置いてメディは本棚から厚い本をいくつか取り出してきた。
「上から計算の基本、政治の基本、語学辞書となっています。全部一気には無理ですがちょっとずつ頑張っていきましょうね!」
逃げようとゆっくり椅子を引く私。それを読んでいたメディは長い尻尾で椅子を抑えていた。
「魔王様はとても甘い方でしてね。最初は魔王様直々あなたに詳しい話をするつもりだったんです。ですが私が話し相手で正解でしたね」
私にとっては不正解なんだけど。
それから休憩をしつつり足し算から質と数での戦力の有無まで頭に叩き込まれた。
その教え方はとても優しく答えがあっていると「よくできました」とか先生とは違って温かい言葉だった。
その夜。何故かお肉が一つもないご飯を食べさせてもらい「一度町に帰る」と言うと魔王は夜は道が暗くて危ないから今日は泊まっていけと言うのでメディの部屋に泊まることにした。
メディの部屋は一人の部屋とは思えない程広く、ベッドもメディのためと言わんばかりに縦にも横にも大きい。
「着替えはありませんがお風呂に入らないといけませんね」
「うん!じゃあ入ってくる!」
ベッドに掛けてあったタオルを持ってお風呂場へと走っていく私。
メディが何かを言っていた気がするけどきっと大したことではないだろう。
着替え場所で服を脱いで木製の扉を開けると真っ白な浴場が広がっていた。
壁にはパンドラの顔面だけの石像が飾られ、口からお湯が出ている。
お風呂に飛び込み泳いだり浮いたりして遊んでいると扉が開く音が聞こえる。
「明日っからどうするかな~あいつを迎えたはいいけど依頼が配布されてる可能性もなくはないしなー」
「ははは、それなら彼女に任せれば問題はないと思いますよ?彼女が一旦町に帰れば彼女より強い人でもなければここに誰かが来ることはありませんし」
湯気でよく見えないけど入ってきたのはパンドラとパンデモニウムだろうか。
ちょうど聞きたいこともあったしこの場で聞いておこう。
「おーい二人共ー!」
「ポポア!?何故お前が浴場に!?」
「おやぁ?来ていらっしゃったのですかお嬢さん」
急いで前を隠すパンドラとそのままお風呂に入って私の隣に座るパンデモニウム。
「このお風呂気持ちいいねー」
「分かりますかぁ。この浴場はこの城にいる全員が魔法で水を出し、魔力を少しずつ出して継続できる『フレイム』を使ってちょうどいい温度のお湯を出しているのです。城の屋上に浴場用のタンクがありこのお湯は所々汚れと水だけを流すために空いている穴がありましてそこからまた別のタンクに貯めて定期的に浄化させて再利用するのです」
「へぇーよくわかんない!」
「分かりませんかぁ!」
「お前らなんで普通に話せてるんだ!女が男の入浴時間に入ってるんだぞ!」
「別によくない?ねー」
「ねーでございます。もしかして魔王様はこのお嬢様に欲情しておられるのですか?浴場だけに」
「欲情って何?」
「知らなくていい!とにかくパンデモニウムお前は出ろ!ポポア、お前が出たら俺達が入る。あと今度からは入浴時間をちゃんとに見てだな…」
「こんなに大きいお風呂に一人だと寂しい。そんなに私と一緒に入るのが嫌なの?」
「ぐっ…そういうわけじゃないが…」
「一緒に入ってあげましょうよぉ。この子は女とはいえ子供。人間の父親というのはまだこのくらいの女の子となら一緒にお風呂に入るらしいですよ?」
見た目によらない硬い手で私の頭を撫でながら魔王に話すパンデモニウム。
「し…仕方ない。今日だけだぞ!」
そう言いつつもタオルで前を隠してお風呂に入る魔王。でも距離は遠い。
「遠いですよ魔王様~お風呂の距離は心の距離と言いましょう?」
「言わん。それにそうだったとしても急に距離が近くなっても困るだろう」
「ううん。全然」
「うっ…それはお前が子供だからだろう。大人は色々と難しいんだよ」
「ハハハ、魔王様が人見知りなだけですなぁ。お嬢さん、ちょっとお耳を」
パンデモニウムが小声でとっても分かりやすくパンドラに近づく方法を話す。
「おいお前ら何を話してるんだ?その悪そうな笑顔からしていいことではない気がするが」
「おらぁー!」
床を蹴ってパンドラに向かって飛ぶ私。この場では魔法なんか使えるわけがないしよけられてもまた飛びつくだけ。
しかし意外にもパンドラは避けることもなければ受け止めることもなかった。
ではどうなったのかというと抱きついた私を支えきれずに大量の水しぶきを上げて倒れてしまった。
起き上がったパンドラは髪がぺしゃんこになり、俯いて黙ってしまった。
「あ、あの…怒ってる?」
私が顔を近づけて無理やり顔を上げると…笑っていた。
そして私のほっぺを両手で挟んできた。
「誰がお前みたいな子供に怒るか!…うん?お前一度立ってみろ」
「ふぇ?いいよ」
私が立つとパンドラは私の体を一周させた。そしてまた座らせる。
「傷一つなく綺麗だな。今でも十分小さいが幼い頃とかに怪我とかしなかったのか?お前のスキルである『超頑丈』や『超回復』があるのは知っているが幼い頃の傷まで治せるものではないだろう」
「だって生まれたときからあったから。このスキルの名前をつけたのは私だけどね!」
「生まれた時からだと?通常スキルは何かしら出来事がないと身につかないものだが…俺はとんでもない逸材を仲間にしてしまったんだな」
「いつざいって?」
「とんでもなく頼りになるということだ。こんなところで言うのもあれだが改めてよろしくなポポア」
「うん!」
お風呂から上がり、着替え室を出るとメディが笑顔で待っていた。
「気持ちよかったよー!」
「そうですか。それは良かったです」
「どうしたんだポポア急に立ち止まっ…て…」
「魔王様?これがどういうことか説明してくださいますか?」
「ああ説明しようだから魔眼を発動しようとするんじゃない。ポポア、俺達は普通に風呂に入っていた。そうだよな」
「うん!パンドラが私の体のこと綺麗だって言ってくれたんだよー!」
「ま・お・う・さ・ま?まさかですがそういう趣味があったのですか?」
「違う!断じて違う!とにかく俺は部屋に戻るぞ!」
そう言ってパンドラは走って行ってしまった。