プロローグ
ついに魔王がいると思わし城の扉の前まで来てしまった。
つい先日依頼屋に王から「悪の根源である魔王を討伐せよ」という最高難度である依頼を引き受け私「ポポア」は指定された場所に二日かけて向かうと森があり、そこを抜けると分かりやすいほどそれらしき見た目をしている城を見つけた。
最近出された依頼なのに私以外誰も来ておらず、途中魔物に出くわすということすらなかった。
これはきっと魔物達のお昼寝タイムなのだろう。私も昼寝するし。
私が十人分くらいの大きさはある大きな扉を魔物たちが起きないようにゆっくりと押すとバイオリンの綺麗な音色が聞こえてきた。
思わず寝そうになってしまう演奏で目を擦る。
「おやおやぁ?やたらと武器を持ったお客さんがきましたねぇ?その様子ですと魔力で扉を開けた様子でもなさそうですし怪力なお子様なのですねぇ」
暗く大きな部屋にいる紳士っぽい帽子を被りいかにもお金持ちそうな服を着た音楽家の人は演奏をしたまま私を褒める。
しかしよく見るとコウモリの羽が生えてるので魔物だ。
「うぇへへ…じゃなくて魔王ってここにいるの?」
「いますよ。何か御用ですか?」
「え~っと…依頼屋から魔王の…討伐めいれぇが…でれれぇ…」
あまりの睡魔に耐えられなかった私は倒れるように眠ってしまった。
そして眠りから覚めると私はベッドの上で寝転んでいた。
装備していた武器は全て外され服も可愛い服に着替えさせられていた。
周りを見ると眠る前の場所でバイオリンを演奏していた音楽家はいなくなっていた。
武器はなくとも戦えるので私のスキルである『 超変化』でベッドのサイズを手のひら程度の大きさにしてズボンに挟んだ。
いざとなったらこのベッドを大きくして投げつけてやろう。
私が入ってきた時とは違って全開になっている部屋を出ると目の前の窓に「こちらへどうぞ」と矢印が書かれた紙が貼られていた。
きっとこの通りに進めば魔王がいるのだろう。そう思い私は矢印に従い進んでいく。
長い長い廊下を歩き、「ここだよ」と矢印で指された扉はさっきの大きな扉と比べると小さく魔王がいるような雰囲気はしない。
扉を開くと激しいピアノの演奏が聞こえ、中に入ると豪華な装飾がされており赤い絨毯がまっすぐに敷かれ、その先には黒いオーラを纏っている男の人が立っていた。
「よくぞここまで来たな。危ないから武器は没収しておいたぞ」
「ふん!武器がなくても戦えるもんね。その黒い感じ、あんたが魔王なんでしょ!」
「いかにも!我こそがこの城の持ち主であり魔物の長である魔王『パンドラ』だ!勇気ある少女よ、そこで雰囲気を出すために演奏をしている『パンデモニウム』から話は聞いているぞ。なんでもこの我を討伐しに来たそうだな」
「そうだよ。先生から『魔王っていうやつを倒すと世界が平和になる』って聞いたよ」
「ほう…?メディ!例の物を!」
魔王が手を何度か叩くと下半身が蛇の女の魔物が台車に台座に載せた大きな水晶玉を運んできた。
「魔王様。呼ぶ際は二回でいいとリハーサルで言ったはずです。えーっとポポアさんでしたっけ?この水晶玉はあなたの未来を映し出すものなのでよく見てください」
こんな時に占いでもしようとしているのかこの人は。
でも私も女の子なので興味がないと言ったら嘘になる。
水晶玉を見つめ続けると私が町に帰る姿が映し出された。
音や声は聞こえないが私は喜んでおり、切った魔王の首を依頼屋に引き渡していた。
一度途切れると次に写ったのは町に大量の兵士が現れて私の家に入っていき、刺したり殴ったりして私を殺そうとしていた。
「…何これ」
「申し上げたとおりあなたの未来です」
「嘘!だって一番悪い奴倒したのになんで私が殺されなくちゃいけないの!?いままでだって色んな魔物をやっつけてきて色んな人から『英雄』とか『勇者』だって呼ばれてたんだよ!そりゃあ先生が来るまでは悪いことしてたけど…」
「行き過ぎた強さというのは頼もしい反面恐ろしいものだ。一つ聞くが何故貴様は単身でここに来た?」
「たんしん?」
「一人でという意味だ」
「だって友達がいないんだもん…文字とか先生に教わってたときは『化物』だって皆友達になってくれないし、冒険者になってから誰かと一緒に魔物を倒そうとしても他の人と組んでるからって入れてくれないし」
「その時点で自分が恐れられていると気がつかないのか」
「最初の頃の話!それでもあとはどんな魔物でも私一人で倒せちゃうからいらなくなっちゃった」
瞬間、私の背中に刃物が刺さった。
刃物は私のお腹の部分まで貫通していた。
「傲慢だな」
声がした後ろを向くと誰もいない。
刺さった小刀を手探りで引き抜くとお腹と背中がまだ少し熱く感じる。
「大丈夫なのか…?」
「ちょっと痛いけどね。私のスキルの一つである『超頑丈』で傷は見た目ほど無いし『超回復』で直ぐに治っちゃうから」
「ちっ、心臓を狙えば良かった…」
魔王でもなく水晶玉を持ってきたメディという人の声でもない声。
この声の人が私を刺したのだろうが魔王が驚いているので魔王が命令したわけではなさそうだ。
「と、とにかくだ。このまま我を倒しても貴様は殺されるだけだ。それでも我を殺すのか?」
水晶玉をもう一度見ると再生した私が身動きがとれないように磔にされて大きな町の処刑台で晒し者にされている姿が映し出されていた。
もしも。もしも魔王を殺さなければ私はどうなるんだろう。悪い魔物のはずなのに悪そうには見えないし何より強そうなのはオーラだけで手と足が震えている気がする。
「私は何をすればいいの?皆に認めてもらおうとして依頼をたくさんしてきて、それは結局私が化物だったっていう証明にしかならなくて、これが皆に褒めて貰えるかもしれない依頼だったのに…」
「なら世界を変えればいい」
「世界を変える?」
「ああ。貴様が恐れられない、殺されない世界に変えてしまえばいいのだ。そうすれば貴様が化物などと呼ばれることはない、一人の子供として可愛がってもらえるのだぞ?勿論そこまでの道は遠いが…やる気はないか?」
捨てられて、一人になった私を先生みたいに手を差し伸べてくれる。
「そうだ…先生は裏切れない!だって先生は…!」
「こやつのことか?」
突然現れた杖をついたおじいちゃんが水晶玉に触れると焼き殺される私を見て布で顔を覆っていた。
その顔は笑いを堪えているように見えた。
「決心がついたか?」
森で暴れていた私を拾ってくれた先生。文字や言葉を教えてくれた先生。「あなたはただの強い女の子」と言ってくれた先生。冒険者になった時誰よりも喜んでくれた先生。私の家を建てたとき本をくれた先生。
そんな先生が私が死んで喜んでいる。
「あは…あはは…あはははは!利用されてただけなんだ!そしてあんたたちも私を利用して最後には捨てるんでしょ!私を化物だって言ってね!」
「利用はするだろうな。貴様の力が必要だからな。そして化物は貴様ではない、我々魔物だ」
「うっ…うっ…うわぁぁぁん!!」
その場にうずくまって泣き出す私に戸惑う魔王。
「あーあ、女の子を泣かせましたね魔王様」
「えっ!?俺のせい?俺のせいなの!?」
「女の子の扱いがなっておらんのぉ…」
「映像見せたのはお前だろクソジジイ!」
「こんな時こそパンデモニウムの出番でございますなぁ!さぁ聞くのですポポアさん!気分が落ち着く旋律を奏でてみせましょう!」
「くだらん。部屋に戻る」
泣きつかれて寝てしまった私は翌日詳しい話を聞き、改めて魔王とその仲間たちと一緒に世界を変えようと志すのだった。