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薄命輪廻の転生者  作者: 神殿真
第一章
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第六話 森林にて

「アレク、調子はどうだ?」


「すごぶる良いよ。今なら、魔物百体でも相手できそうなくらいだ」


「お前ならマジでできちまいそうなのが恐ろしいぜ……」


 エイドと軽口を叩きあったあと、身支度を整える。

 時間の経過と共に吹き消えた篝火を丹念に処理していく。

 辺りは鬱蒼と繁った木々に囲まれている。艶やかな新緑は潤いを感じさせ、そう簡単に火が点くようなことはなさそうだが、念には念を入れておく。

 火は簡単に命を燃やし尽くすことを、身を持って知っているから。


「しっかし、改めてでかくなったもんだなぁお前」


「どうしたんだよ、いきなり改まって。なんか変なもん食った?」


「態度もでかくなったもんだねぇ」


 エイドはまじまじとアレクを見定める。

 もう十年来の付き合いにもなり、今や同じ討伐者として命を預け合う仲だ。

 その成長や変化を一番に知っているはずの彼が、それでも常日頃、目を見張るほどに彼は成長した。

 まず、その体躯。

 二メートル近くまで伸びた身長。それに見合うだけの筋肉量。背負った大剣は優に一メートルは超えている。重量もそれ相応にあるにも関わらず、まるでそれを感じさせない。

 そして、その大剣はあの大猪の牙から作り上げられたものだ。再び村に現れた際、アレクが討伐した記念に作ってもらった。鋼よりも硬く、作成には手こずったが、その分頑丈さは折り紙つきだ。

何より、その顔つきはすでに一人前の戦士のそれとなっていた。何度も修羅場を潜り抜けた経験が、彼を精悍な男へと変えていた。


「あの猪の魔物を一人でぶっ倒しちまったときからなんかあるとは思っていたが、ここまでとはな」


「……何もあげないよ?」


「いらねえよ」


 急に褒めだすエイドにアレクは身構える。

 しかし、エイドが感嘆の声を上げるのも仕方ないことだった。

 なんせ初対面のときは謝ることしかできない少年だった。

 それが今やこの国で一番大きなギルドでも五本の指に入る討伐者になったのだ。

 討伐者に序列があるわけではないが、任される仕事の大きさは間違いなくアレクの方が上だ。今回の依頼もアレクがいなければ今頃別のパーティーに任されていたかもしれない。

 いつの間にか自分を超えられていては、溜め息も溢れ出してくるというものだ。

 同時に我が子のような存在の躍進に誇らしくもあるのだが。


「アレクさーん! 準備はいいっすかー?」


 元気の良い声がアレクを呼ぶ。

 声の主は今回の依頼に同行している仲間の一人だった。


「あぁ、いけるよ。ソルンも大丈夫か?」


「ばっちしっす! サポートは任せてください!」


「はは、頼もしいよ」


 ソルンと呼ばれた少年は親指を立てながら元気に返事をする。

 彼はアレクと年齢が近いこともあり、友人のような関係だった。一方的にアレクに対して憧れを抱いているため、先輩後輩のような関係でもある。

 ソルンは今回の依頼に参加した討伐者の一人ではあるが、その仕事は魔物の討伐ではなく、アレクやエイドなど、戦闘をする者の補助だ。

 荷物の運搬や食料の調達、調理など細々としたことを生業としている。

 基本的なことはアレクでもできるが、今回のようなある程度の規模の依頼になると彼らのような存在は不可欠だった。


「そんじゃ、出発しようか」


 今回の参加者十数人全員の準備が完了したことを確認し、アレクたちは森を進む。

 今回の依頼は、この森の調査だ。

 広大な面積を持つ森林ではあるが、勇者の剣が刺さっているとか、妖精が住まうとか、そういった特別な要素は何もない。

 そんな森林に調査の依頼が出されたのは、魔物たちの動きに異変があったからだ。

 この森の魔物たちが付近の村や町を襲うようになったのだ。本来、この森の中だけで充分に食料が得られ、出てくる必要がないにも関わらず、そのような状況に至った。

 そのため、この森に何かしらの異変が起きているはずと、調査の手筈が整えられた。

 なのだが。


「相変わらずなんもいねぇなぁ」


 その地には魔物どころか獣すらろくにいなかった。


「今日もまた草しか食べれないかもな」


「俺たちは牛じゃないぜ、全く」


 携帯食料もある程度持ち込んでいるとはいえ、荷物量を抑えるため、現地調達が基本だ。

 しかし、肉になる獣がいないため、野草や果物が食事のほとんどを占めていた。

 幸い、自然豊かなために食糧不足に陥りこそしないが、もう数日間主菜にありつけていない彼らの不満は溜まっていく一方だった。


「気持ちは分かるが、気は抜かないようにな。何がいるか分かったもんじゃない」


 アレクもその気持ちに共感しつつも、咎め、意識を引き締める。

 これほど広大な森林で動物と遭遇できない。それがどれほどの異常事態かアレクには測りかねていた。

 何があってもおかしくない。

 にも関わらず、ソルンはあくびをしながら間の抜けた返事をする。


「もうそろそろ目的地に到達しますし、何もないんじゃないっすか?」


「それならそれでいいんだけどな……」


 実際、今回の依頼で任された探索範囲は今日で充分に終わる範囲だった。

 あともう少しで終えられるという達成感の前借と、ここまであまりにも何事もなかったことが全員の気を緩ませる要因となっていた。それこそ、アレク自身、苦手な火の前で眠りについてしまうほどに。


「……! なんだ?」 


 しかし、そんな緩慢とした空気を切り裂くように、何かの咆哮が不意に鳴り響く。

 全員がそちらの方に振り向き、原因を探る。

 アレクもまた臨戦態勢をとり、わずかな物音を聞き取っていく。

 数秒後には誰の耳にも届くほどに大きな地響きが辺りに届き始め。

 そして、それは姿を現した。


「……デカいな」


 それは木々に見間違うほどに巨大な熊の魔物だった。

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