表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薄命輪廻の転生者  作者: 神殿真
第一章
3/62

第二話 改めての絶望

 一頻り絶望しながらも、今日もまた水を汲みに行く。

 どれほど絶望したとしても彼は自ら命を絶つことはしない。

 それは決して高尚な考えや殊勝な心がけがあるわけではなく、ただ自ら死を選べるほどの強さがないだけだ。

 首を吊るのも、手首を切るのも、飛び降りるのも。

 どれも怖くて、踏み出せないだけ。

 一度死を体験したうえで、それでもなお、それを自ら再び経験しようとはとても思えなかった。

 だから水を汲みに行く。

 そんな自分の弱さにも絶望しながら。


「よう、アレク」


 不意に声をかけられる。


「こんにちはおじさん」

「誰がおじさんだ。お兄さんと呼べ」


 気さくに挨拶をしてくれたのは近所に住むおじさんだった。

 まだ二十代後半らしいが、そうは見えない。


「相変わらず暗いなぁ、お前は」

「……ごめんなさい」


 いきなり悪口を言われたのに、思わず謝ってしまう。

 悪気がないだけにアレクもどんな反応をすれぱいいのか分からない。ましてや前世で人との関わりが気迫だった彼には謝る以外の会話方法が分からなかった。


「もっとシャキッとしろ! シャキッと!」

「……はい」

「お前なぁ……そんなんじゃあ、魔物に食われちまうぞ」

「魔物?」


 聞き慣れない単語に思わず聞き返してしまう。

 そのすぐあとに、子供に恐怖心を抱かせて言うことを聞かせる類いのもの、日本でいうなら悪さをすると鬼が出るとか、ご飯を残すともったいないお化けが出るだとか、そういったものなのだろうと一人納得した。

 そして、その納得はすぐさま瓦解することになる。

 まるで示し会わせたかのように。

 それは突然訪れた。


「逃げろ!! 魔物がこっちに!!」


 村中に響き渡る誰かの叫び声。

 それを掻き消すかのように、獣の咆哮が村へと届いた。

 続いて重機が走り出したかのような足音が鼓膜を震わせる。

 そして、悲鳴のような音を鳴らしながら樹木が薙ぎ倒され。

 災厄の主が、その姿を現した。


「おいおい、嘘だろ……」


 隣にいたおじさんが呆けた声を漏らす。

 それに対してアレクは声帯を震わせることさえできなかった。

 現れたのは巨猪。

 しかし、ただの大きいだけの猪ではない。

 通常の猪のように眼が一対ではなく、三対。計六個の眼球がギョロギョロと回り動いている。

 口元に生えた角のようの伸びた牙も、捻り曲がった禍々しい形をしており、鋼鉄であろうと貫いてしまえそうな迫力がある。

 何よりもその巨躯は前世に存在した猪ではあり得ないほどの大きさだった。その巨大の牙も合わせて、もはや猪というより、マンモスに近いかもしれない。

 その圧倒的存在感が、脳内にあった現実感を全て塗り潰してしまった。

 魔物。

 おじさんが言っていた言葉の意味をようやく理解できた。

 これを獣とは呼べないだろう。

 それほどの異形を目の前にしてそれだけは、はっきりと理解できた。

 当然、そのような異形がそのまま踵を返すはずもなく。

 再び地響きを挙げながら、村へと突っ込んでいった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ