第一話 ありきたりな転生
死の危機に直面して、脳裏に浮かんだ言葉は「あぁ、今から死ぬんだなぁ」という呆けたものだった。
煙を吸いすぎたのか呼吸が上手くできない。
根本が焼け落ちて、こちらに倒れこんできた柱が足を咥え込み離してはくれない。
火傷は見ていられないほどに酷く、もはや痛みも感じなくなっていた。
そんな状況で、出てくる感情は早く終わってくれないかなという、諦めだけだった。
当然といえば当然で。
諦められる程度の人生しか送ってこなかった。
たった十数年で、生まれて来なければ良かったと決めつけられるくらいには、良き部分があまりに少ない人生を送ってきた。
だから、薄れていく意識の中で思い浮かぶのは、来世に対する期待と。
どうせならこんな痛い終わり方ではなく、さくっと終わらせてくれれば良かったのにという、どうしようもないものだった。
赤ん坊の泣き声が聴こえる。
骨に響くほど騒がしい声。
何処から聴こえてくるのかを探そうにも、身体は思い通りに動いてくれない。
それこそ泣き声が出そうなほど動けと身体に念じて、ようやく反応したのは瞳だけだった。
身体中の力を振り絞って瞳をこじ開ける。
そうして、ようやく見えたのは真っ白で、知らない天井と。
全く見知らぬ外国人の男女だった。
「アレク、水汲みはまだか」
「ごめんなさい。まだです」
「日が暮れるまでに済ませておけよ」
アレクと名付けられた彼は、父親からの命令に頷く。
それは五歳にさせるにはあまりに重労働だった。
それこそ、生前の彼でもした覚えがないほどに。
焼死という死に方の中でも比較的苦痛の多い死に方をしたにも関わらず、彼の転生はそう恵まれたものではなかった。
記憶を保持したまま転生したのは悪くなかった。
決して頭は良くなかったが、それでも生まれたての赤ん坊よりかは流石に頭が良い自信はあった。
転生したばかりの頃は意識がはっきりとせず、いつの間にか五歳にまで成長していたが、それでも五歳児にしてはしっかりしている自信がある。
しかし、そんなものはこの世界には関係がなかった。
アレクが生まれた場所で欲されていたのは、働き手だった。頭がいい人間ではなく、仕事を頑張れる人間だった。
アレクが住まう村は貧しく、子供であろうと働かなければならない。
計算のできる大人の方が少なく、学校なんてものは存在しない。
歩けるようになれば仕事を任され、家族のために働く。
そんな世界に、彼は二度目の人生を与えられたのだった。
「重たい……」
五歳児の肉体には数リットルの水はあまりに重たい。
またその水が汲める川も決して近くはない。
それを数回。
他の兄弟たちに比べればこれでも楽な方だと言うのだから信じがたい。
あまりに過酷な環境。
ここが何処かも分からない。
言語は聞いたことも見たこともないもの。
生えている木々も見たことがなく、毎日食べている作物も、前世では口にしたことのないものだった。
前世での生活は最低であったが、それはあくまであの世界での社会においてだった。
最低限保証されていたものが、どれだけ素晴らしいものだったかを実感するには充分な生活だ。
そして、生まれ変わらなければ良かったと思うには充分すぎる生活でもあった。