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土壌改善と成長促進

 気づくとノード村に来てから1週間が経っていた。

 その間、俺はひたすらカブとほうれん草を育てている。気づいた事がいくつかある。まとめてみよう。


 まずは土のエレメントに関してだ。

 現状、これを通じて使えるスキルは、『土壌改善』と『成長促進Lv1』の2つ。


 『土壌改善』の方は、土のステータスを表示して、それを調整する事が出来る。栄養度、水持ち、通気性。良い畑を作るに必要な項目を見て操作する事が出来る。特に重要なのは水持ちで、これが低い状態だとせっかく雨が降っても土が水分を保持出来ない。


 『成長促進』の方は、畑に付与出来るスキルで、次に植えられた野菜に必要な物を自動で補って強制的に成長させる事が出来る。1度発動すると、収穫可能な状態になるまでは途中で止めたり出来ないので注意が必要だ。


 両方に共通して言えるのは、色んな事をしたり、より広範囲に影響を与えようとすればする程必要な魔力が大きくなるという事だ。そして俺の魔力は1日眠っても最大の半分くらいしか回復しない。


 村で1番大きな畑の土壌を改善したら、それだけで2日分の魔力を消費してしまった。しかも厄介な事に、野菜を1度収穫すると土壌の栄養分は一気に無くなり、また「土壌改善」が必要になる。


 1週間を振り返ると、最初の土壌改善に1日、栄養を補って2日、水分が十分にある状態で『成長促進Lv1』を使い1日、また畑を整えるのに3日。という感じで時間が消費されていく。水分の為には雨を待つ必要もあるし、雨が上がらないと『成長促進Lv1』が使えない。たかが畑1枚でこれな上、スキルを使った後は魔力不足で身体がだるくて何もする気になれない。


 食料自体は収穫出来た物である程度の備蓄が出来たが、このペースで行くと大きく儲ける事は出来ない。何らかの手段が必要だ。


 理想は、土壌をスキル無しで整え、水も天候に左右されずに供給し、俺はひたすら『成長促進』だけを使い続ける事。つまり『土壌改善』の部分を出来る限りアウトソーシングする。時間が短縮できる分、4枚の畑をフル稼働出来るし、メロン栽培で大儲けという目標がその分近づく。


 なんとかして、もっと効率的に農業をしなければ……。


「すっかり農家が板についてきたね、ロディ」

 思案する俺を見てチェルが言う。正直腹は立つが、土のエレメントに関してはこいつの方が遥かに詳しい。少し気になっていた事を聞いてみよう。


「そういえば、『成長促進』の表示にはLv1とあるが、1があるって事は2があるんだよな? どうやったらそれが使えるようになるんだ?」

「4つのエレメントは自然の象徴であり人間との関わりその物だから、どれも人間からの畏敬によって機能に制限がかかっているんだ。つまり、エレメントの所有者が人間から尊敬されたり畏れらたりすればする程、いろんな事が出来るようになるよ」


 ああ、魔王様はこの事を言っていたのか、と納得する。負けてしまった勇者は世界中を旅してその地の民を救い、人間達から尊敬されていた。だから4つのエレメントの力を最大限に引き出す事で魔王様に致命傷を負わせる事が出来たのだ。


「ちなみに、今ロディは人間『6人分』の尊敬を集めているね」

「な、何だと!? たったの6人!?」

 思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。この1週間、村の為に身を粉にして働いたのにたったの6

人。驚いたって仕方ない。


「それはそうでしょ。食料については村人達も助かってると思うけど、ロディは見た目が完全に魔人だしまだそこまで信頼されてないよ。それに畑に出てきてもちょろっと弄るだけですぐ家の中に戻ってこうして寝転がっているし、肉体労働したのは初日だけじゃん」


 確かにそうだが、にしても20人いる村人のほとんどが俺の事を尊敬していないというのはなかなか堪える物があった。という事は、最初にカブを作った時に畑で俺を持ち上げてた村人達、あれはほとんど口先だけだったという訳だ。


「ちなみに、僕の会った事がある人なら誰がロディを尊敬しているか分かるよ。教えてあげようか?」

「……いや、いい」

「なんで? 怖いの?」

「貴様……魔王様が復活した後、お前の扱いをどうするかは俺次第なんだぞ。覚えておけよ」

「わあ、楽しみだね」

 そもそも妖精だから仕方ないが、掴み所の無い奴だ。


「あと4人に尊敬されたら、次のスキル『成長促進Lv2』が使えるよ」

「Lv2になるとどうなるんだ?」

「獲れる野菜が美味しくなる。消費魔力も大きくなるけどね」

 ドヤ顔で言うチェルにまた腹が立ったが、それならとりあえず急いでレベルを上げる必要はなさそうだ。


 ……ん? 待てよ。


 魔王様の傷を治すには、どっち道俺が人間に尊敬されなければならないのか。つまりレベルを上げていく必要がある。こんな村でいつまでも野菜を作っていても、埒があかないではないか。仮に全員からの畏敬を得たとしてもたったの20人。それでは勇者にはなれない。


「もう1つ質問だ。畏敬ってのは畏れも含まれるんだよな?」

「うん。そうだよ。君のお友達はそっちを優先しているみたいだね」

 グレンの事をお友達と呼ばれるのには違和感があったが、確かにあいつは今、魔王軍を率いて南に下りつつ人間達を圧倒しているらしい。おそらく多くの人間がグレンに対して恐怖を抱いているだろうし、これからもそれは増えていくだろう。


 ……くそっ。エレメントの扱いにおいても、奴の方が何歩も先を行っているというのか。土属性はやはり不遇なのだろうか……。


「……嘆いていても仕方ない。なんとか、エレメントを使わずに土壌を改善する方法を考えてみよう」

 俺は自分に言い聞かすようにベッドから立ち上がり、村長の部屋を訪ねた。


「土壌の改善方法、ですか?」

 村長はヒゲをさすりながらそう言う。さっきのチェルとの会話が頭に残っていて、少なくともこいつは俺の事尊敬しているよな? という疑念も浮かぶ。


「ああ。俺の魔術で全てをやるのは非効率的なのだ。とりあえず畑の栄養を補える方法があれば教えてもらいたい。……堆肥以外でな」

 堆肥だけだと栄養が偏るというのもあるが、単純に扱いたくないというのもある。

「ふむ……」

 村長はしばらく考えた後こう言った。


「ならば、『骨粉』がちょうど良いかと思います」

「『骨粉』?」

「ええ、動物の骨を乾燥させて粉々に砕いた物です」

「そんな物が畑の栄養になるのか?」

「はい。まだこの村に男手があった時は、家畜もそれなりの数飼っていましたから、潰した時に出た骨を畑に再利用していました。徴兵されてからは家畜の世話をする人手も足りませんで、全て商人に売ってしまい、供給が無くなりましたが……」


 動物の骨、か。この辺は森も少ないし、近くの川へ水飲みに来る鳥くらいなら捕まえられるかもしれないが、畑に撒けるほどの骨粉になるかは甚だ怪しい。


 その時、走る足音が聞こえた。村長の家の扉を開けて、村人の1人が叫んだ。

「村長! 大変です! 魔人が率いるスケルトン軍団がこちらに向かってきています」

「何だと!?」


 よりによって畑で手一杯の時に、余計な事を。なんて思っていると、チェルが言った。

「ラッキーだね」

「何がだ?」

「だってスケルトンって骨の魔物でしょ? ちょうど欲しかった『骨粉』が大量に手に入るよ」


 ……やはりこいつはイカれている。

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