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決戦

「ここでいい」

 ナイラにそう言って俺は魔導機械から降り、久々に王都の地を踏みしめた。

 以前に来訪時、城の周辺は隙間なく石畳で舗装されていたが、今は所々抉られてその下の地面が剥き出しになっている。皮肉な事に城に近ければ近い程その荒れ方は酷くなり、僅かに残った部分も焦げたり割れたりしている。


「お前ら2人は周りの人間を出来るだけ遠ざけてくれ」

 運転席に座ったナイラとその後ろに座って身を乗り出していたジスカにそう告げる。

「ちょっと待って。1人で戦おうとしてるの?」

 ナイラの後にジスカが続ける。

「私、手伝う。ロディ1人じゃすぐ殺されて終わり」


「お前らでは戦力にならない。いてもいなくても対して変わらん」

 冷たいようだが事実だ。当然2人は納得していない。

「そんな事ない。私にだって手伝える事はあるはず」

「だから残った人間を避難させてくれと言っている」

「そうじゃなくて、これからあのグレンと戦うんだから、1人じゃ勝てないでしょ」

「1人じゃない。なあチェル」

「え? 僕? 何も出来ないよ」

 とチェルがとぼけた声を出したが、当然ナイラ達には聴こえていない。存在は知っているが、エレメントの守護者であるチェルは所有者である俺にのみ見えている。


「チェル、何て言ってる?」

 とジスカに尋ねられたので「自信満々だ」と返しておいた。


「……ロディ! 見て!」

 突然ナイラがそう叫んだ。俺は振り返ると同時にエレメントに魔力を注ぎ込む。


 風の力で宙に浮かんだグレンが、両手の平から巨大な火の玉を放出していた。2つの火炎は螺旋状に回転しながら俺目掛けて飛んできた。それに合わせるようにして足元の土が盛り上がり、壁となって軌道を塞ぐ。『地形変化』だ。すかさずそこに触れ土を最大まで固くする。壁の完成。


「はっはっは! 瞬殺とまではいかねえか」

 空を飛ぶグレンが楽しそうに笑っている。俺はナイラ達に向き直り、告げる。


「お前達を守りながら戦うのは難しい。頼むから俺の指示を聞いてくれ」

「……分かった」

 それから2人は周りの住民に声をかけて避難誘導を始めた。


「おいロディ! 俺を無視するんじゃねえよ!」

 そんな声が聞こえて、俺は空を見上げる。鬱陶しい奴だ。

「2年も逃げ回っていた奴が、一体何の用だ? 泣いて許しを乞いに来たのか?」


 俺は少し考えた後、こう答えた。

「魔王様の命令でお前を殺しに来た」

「はっ!」グレンの身体を持ち上げる風が更に強くなり、高度が上がる。「今は俺が魔王だ。どこにいたのかは知らねえが、まさか俺がこの国の支配者になったのも聞いてないってのか?」


 俺はあたりを見回し、惨状を確かめる。

「国を見れば支配者の質が分かる。ここまで馬鹿なのはお前しかいないだろうな」

 グレンはにやりと笑いながら、両手で再び火の玉を作り出した。かと思ったら、すぐにそれを引っ込める。そして無言のまま、上昇気流をゆっくり収め、地上に降り立つ。


「ロディ、お前ともあろうものが、戦況を理解出来ない訳ないよな?」

 グレンはこれみよがしに胸元に下がった3つのエレメントを指さす。

「俺は3つ、お前は1つ。しかもお前のは最弱の土なんだぜ?」

「ああ、そうだな」

 俺が肯定すると、グレンは1歩近づいてきてこう言った。

「ここで提案なんだが、お前、俺の部下にならねえか?」

「部下?」

「ああ。今なら大臣にしてやるぜ? 実の所、人間を殺しすぎちまってな。飯の確保すら最近じゃ難しいんだ。俺自身は困ってねえが、他の魔人どもがうるさくてな。なかなか有能な大臣がいなくて困ってた所なんだよ。どいつもこいつも使えない奴ばっかりで」

「ふむ」

「お前、得意だろ飯作るの。前魔王の下で資材を管理していたのもお前だった。エレメントは一旦取り上げるが、立て直しに成功したら返してやってもいい。それに何より死なずに済む。どうだ?」

「どうだ、とは?」

「話を受けるのかどうかだ」

「クソくらえ、と言っておこう」


 以前のグレンなら、怒りに任せてこちらを攻撃してきただろう。だが違った。この2年で少しは成長したのか、あるいはキレすぎて逆に冷静になっているのか。


「……まあ、そう言うとは思ってたよ」

 じりじりと距離を詰めてくるグレン。俺は動かず、ナイラ達が人間を避難させるのを待つ。周囲を巻き込まれながら派手に戦われると厄介だったが、どうやらグレンはそれなりに俺を警戒しているようだ。土のエレメントの事もあるだろうが、こいつは俺が策士である事を知っている。態度を見て、何か企んでいる事を警戒しているのだろう。


 ある程度まで近づくと、グレンはぽつりと呟いた。

「じゃ、そろそろ死んどけや」


 そして手の平を俺に向ける。


 だが何も起こらない。グレンが目を細め、俺を見る。

 グレンはかつてのズーミアのように、水のエレメントの力を使って俺の体内の水分をコントロールしようとしているのだろう。


 相変わらずだなグレン。俺が対策せずに現れたと思ったのか。


 今度は俺から近づいていく。グレンは明らかに戸惑いながら、何度も手の平を開いたり閉じたりしながら俺に向ける。


「グレン」


 名前を呼ばれて、ようやくグレンは気づいたらしい。

 俺の拳が、自分まで届く距離にあるという事に。


 俺はグレンの顔を思い切りぶん殴る。グレンは僅かに上体を逸らしたものの、何とかその場で耐えた。そうでなくては困る。俺はグレンの首から下がった3つのエレメントを片手でもぎ取る。続けざまにグレンに蹴りを入れると、これには堪えきれなかったようでグレンはその場に仰向けに倒れた。


 種明かしをすると、水のエレメント対策も俺の小さな友人である菌類統率者がしてくれた。俺の体の中には今、数多の菌類統率者がいる。彼らの小さな身体ならば血液と共に血管を流れる事は用意であり、底に起きた変化に対処する事が出来る。つまり、水のエレメントによって外部から圧力が加えられた場合、逆方向に引っ張ってくれればその力を相殺出来るという訳だ。


 俺は手に入れた3つのエレメントを手の平の中で転がしながら、グレンを見下ろした。


「……非常に残念だ」

 俺がそう呟くと、グレンは「くっくっく」と笑いながら上体を起こし、自信たっぷりに自分の胸元を俺に見せつけた。


「こんな事であっさり勝ちだと思ったか?甘いぜ、ロディ」

 そこには肉と一体化した3つのエレメントがあった。つまり俺が奪ったのは偽物。目眩ましの飾りだったようだ。


「どうやって水のエレメントの攻撃を防いでるのかは分からねえが、結果は変わらねえ。……捻り潰してやる」

 グレンが立ち上がると同時に、ぽつぽつと雨が降り始めた。

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