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再会

 結局、小さな友人達が用意してくれたこの「究極の畑」が一体どういう仕組みで機能しているのかというのは俺にも分からない。ただ1つ、偽り無く思いを述べるのならば、それは感謝でしかなかった。


 俺はタリアと話をした。生き延びてから2年間、どうやって生活していたかなど、本当は恥ずかしくて知らせたくなかった事まで、思わず歯止めが効かなくなって言ってしまった。とにかく、何でもいいから話をしたくて仕方なかったのだ。


 間に合わなかった事、警戒が足りなかった事、何度も謝罪の言葉を贈ったが、その度にタリアは受け取りを拒否した。


「死んだ私が言うのもどうかと思いますが、ロディ様、あなたは今全く生きていません」

 自覚していた事だったが、こうして目の前のタリアから言われると新たな発見のように思えた。

「私は今こうして考えて喋る事が出来るけど、ここから出る事は出来ない。でもあなたは違う。地上に戻れる」


「嫌だ」

 俺ははっきりそう言った。

「ずっとここに居た方が良い。お前が地上に戻れないなら、俺も戻る必要はない。もう魔王様も亡くなったし、戻ってする事なんて1つも……」


 言いかけた所で、背後の気配に気づいた。


「ロディ、しばらく会わぬ内に随分変わったようだな」


 声を聞いただけで、俺は2つの意味で泣きそうになっていた。


「……魔王様」


 この畑には、ありとあらゆる生物の記憶が眠っている。菌類統率者は遺伝子とやらを呼び起こし、そこに魔力を加え、こうして俺に見せてくれる訳だ。これを本物と呼ぶのは間違いがあるかもしれないが、少なくとも霊でもなければ幻でもない。失われた命は形を変えて土になった。それを収穫出来るのが、「究極の畑」という訳だ。


 さて、そろそろ向き合わねばならないだろう。


 俺は不安定な姿勢ながらも何とか片膝をつく格好になり、魔王様の下に跪いた。


「魔王様。復活を成し遂げられなくて本当に申し訳ありませんでした。処罰は甘んじて受け入れます」

「ほう。ならばグレンを倒せ」

 即座に帰ってきた答えに、俺は冷や汗をかく。


「そ、それは……私めにはいささか重すぎる役割ではないかと……」

 俺は頭を下げて魔王様の言葉を待つ。


「何言ってんのさロディ。あんた以外に誰がやるの?」

「あの馬鹿を殺してここに連れてきなさい。もう1回殺してやるから」

 顔を上げると、シルファとズーミアの姿がそこにあった。


 どうやらここにいる限り、俺に逃げ場はないらしい。


「……正直に言えば、私にもグレンへ復讐を果たしたいと思う気持ちはあります。しかし現実問題として、今私には戦力がありませんし、グレンは3つのエレメントを持っています。それを使って奴は国を手に入れました。1つの国に対して個人で立ち向かって行く事など……」


「泣き言を聞きにこうして現れたと思っているのか?」

 今やもう懐かしさすら覚える魔王様の威圧感に俺はひたすら平伏する。

「何としてでも復讐を果たせ。これが死者からの望みだ」


 俺は頭をフル回転させて考える。圧倒的な戦力差を補う手。暗殺というのが1番現実的だが、果たしてグレンに近づけるかどうか。俺にはズーミアのような変身能力はないし、相打ちを狙って捨て身で行くのは別に構わないが、土のエレメントが戦闘に全く向いていないのは分かりきっている。そして戦力を増やそうにもあてはない。せいぜいナイラの力を使って生き残った僅かな人類を束ねたとしても、ただの集団自殺にしかならない事は分かりきっている。


 立ちはだかる難問を前に、情けない事ではあるが、俺は思わず我が妻に助けを求める視線を送ってしまった。すると妻は笑顔でこう言う。


「仇を取って下さい。ロディ様なら出来ます」


 それは信頼の裏返しなのか、はたまた1人生き残った事に対する罰なのか。

 復讐なんて何の解決にもならないという綺麗事はよく聞くが、死んだ者にこうして直接頼まれてしまっては、断る訳にはいかなかった。


「……分かりました。何年かかってでもグレンへの復讐を成し遂げるとお約束します」

「よく言った。ロディ」

「任せたよ」

「頼むわね」

「あなた、頑張って」


 他人事だと思って適当になっていないか、という疑惑が若干浮かんだが、俺はそれを飲み込んで立ち上がる。


「ロディ、覚悟したお前に渡したい物がある」

 魔王様がそう言った。

「渡したい物?」

「そうだ」

 死者からの贈り物など見当もつかない。俺は首を傾げた。


「一体何でしょう?」

「それは地上に戻ってからのお楽しみだな」

 魔王様がにやりと笑った。友人であるレイシャスとしての顔が垣間見えた。


 さて、復讐を決意したからといっても、この場所からの戻り方が分からない。

 ここに俺を連れてきた張本人を俺は探し、すぐに見つかった。チェルは背中をこちらに向けていた。俺が魔王様やタリアと話しているので、気を使ってくれたのだろうか


「チェル、戻ろう」

「うん。もう少し待ってくれないか」


 俺は目を凝らす。ぼんやりとではあるが、チェルの前に3つの影が立っているのが見えた。見覚えはないが、少なくとも俺の知り合いではない。


「……チェル?」


 近づいて見てみると、3つの影はチェルによく似ていた。4つのエレメントにはそれぞれ守護者がいた事。そして守護者達は魔王様の弟である勇者に殺されたという話を思い出す。チェルからはほとんどその頃の話を聞いた事は無かったが、並んだ4つの精霊の影は、心無しか満足そうに見えた。


 しばらくそれを眺めてると、チェルは振り向いて、いつもと変わらぬ飄々とした態度で「戻ろうか」と言った。


「ロディ様、頑張ってください」

 タリアにそう声をかけられながら、俺は究極の畑を抜け出し、地上へと戻ってきた。


「ロ、ロディ!」

 急に土の中からボコっと湧いて出た俺を見て、ナイラとジスカは心底驚いた様子だった。サルムの手には錆びたシャベルが握られている。汗だくな様子からしても、どうやら俺を掘り起こそうとしていたらしい。


「何が起きたの?」

 ジスカに尋ねられて、俺はどう説明していいか迷った。


 土のエレメントの守護者に引きずられて、地中深くに埋められたが、そこには死者達の魂のような物があって、会話が出来た。それで本人達からグレンへの復讐を依頼され、了承せざるを得ない状況になった。

 そんな事を言っても理解してもらえるかは甚だ疑問だったが、結論は1つだ。


「グレンを殺す」

 俺はそう言いながら、顔についた土を払った。


 まずは泥まみれになった服を着替えよう。それから、魔王様からのプレゼントとやらを受け取ろうではないか。

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