復讐
この作品が利用規約に抵触しているというメッセージをなろう運営様から頂きました。
R15以下の表現になるようにこれから改稿していきますが、12月10日以降にこの作品は削除される可能性があります。それでも完結は目指しますが、詳しくは活動報告の方へどうぞ。
切り立った山が並ぶ北の地にて、荒れ狂う吹雪の中を1人の男が歩いていた。動物の毛皮を着込み、深く被ったフードで顔は見えない。その手には小さく丸い果実が房になったブルーベリー、大地を覆う雪を1歩1歩踏みしめながら進んでいた。
男の住処は、山のふもとにある洞窟だった。入り口は細いが中は広く、ボロだが生活用具が一通り揃っている。針葉樹の薪は乾かす為に細く切られて広げられ、錆びた鍋と粘土製のボウル、なめした皮で作られた寝床に、大きさのまばらなガラス瓶。
入り口を木で塞ぎ、出来るだけ風が入らないようにしてから上着を脱ぐ。部屋の中心にある空間に、だるそうな手つきで焚き火を作り、かじかんだ手を揉み解して指先を眺める。血が温まり、鮮やかな紫色がそこに宿る。男は魔人だった。
しばらく身体を温めた後、男は持ってきたブルーベリーをボウルにぶちまけ。すりこぎで潰していく。その目には光がなく死人のようだが、一定間隔の動きはどちらかといえば機械のそれに近い。
1時間ほどブルーベリーを潰し、ぐちゃぐちゃになったそれを器と器でこし、ガラス瓶に流し込む。そしてそれを洞窟の隅に仕舞い、その代わりに別の瓶を持ってくる。中の液体は同じくブルーベリーだが、色が変色している。酒だ。
男は瓶を縛っていた蓋を開けると、少し口に含んだ。くちゅくちゅと口内で遊ばせた後、また一口飲み込む。果実と酒の匂いがあたりに漂い始めた。
万年0度を下回る北の土は、人が食べられるような作物はほとんど育たない。だがブルーベリーだけは別で、永久凍土にもしっかりと根を張り、その少ない栄養を吸い上げて果実を実らせる。男は狩りをして腹を満たすが、獲物が獲れない時はこうしてブルーベリーを摘んで酒を作っていた。自家製で度数も低かったが、男はそれを呑んで酔おうと努力した。
忘れたい事なら沢山あった。
第4章「火のエレメント」
隙間風から逃げるように俺は毛皮に包まる。昨日開けた自家製ブルーベリー酒の瓶を横になりながら眺める。頭は起きているが、身体は起きそうにない。本当はどちらも起きたくなかった。焚き火は消え、炭の中で燻った熱が細く長い煙を発している。それが洞窟の天井に僅かに触れて、煤をくすぐった。
あれから2年が経っていた。妻と子、魔王様、同僚、それら全てを失った夜。俺が生き延びたのは明らかに間違いだったし、それを修正しようと努力した事もある。だが俺はそれにも失敗した。だから今もこうして死んだように生きている。
俺を助けた張本人は、ここ1年姿さえ見せていない。俺に文句を言われるのが面倒になったのか、あるいは堕ちた俺の姿を見るのが嫌なのか、どちらでも良いが俺にとっては幸いだ。何故助けたと尋ねてもはぐらかされるし、何をして欲しいのかも特に言わない。妖精の気まぐれという奴なのだろうか。あのままだとチェル自身も他の妖精同様に殺されていただろうし、懸命な判断ではあると思う。
コト……という音が聞こえた。強風で戸がズレたかと最初は思ったが、戸を下ろす音が続けて聞こえて、俺は毛皮から静かに身体を出した。誰かが来たのは間違いない。問題はそれが、俺の追っ手か、それともただの迷い人かという事だ。
闇の中、手探りで斧を掴み、目を凝らして入り口の方を見る。僅かな明かりの中に映る2つの影。小柄だし、パッと見では武器を持っているようには見えない。だが油断は出来ない。斧の重さを確かめながら、いつでも投げられるように筋肉を強張らせる。
だが同時に、何故そうまでして生きようとするのかという疑問が浮かんで、途端にやる気が無くなった。俺を追ってこんな辺鄙な山奥まで来たのなら、その褒美に殺されてやっても良いじゃないか。くれてやれる物は土のエレメントとブルーベリー酒くらいしかないし、割に合うとは思えないが、好きにしたら良い。
訪問者の正体は俺の予想通り追っ手だった。だが、俺を殺そうとしに来た訳ではない。
「ロディ……凄い格好だね」
女の声がフードを下ろした。見覚えのある顔が、2つ並んでいた。
「寒い。臭い。疲れた」
「気持ちは分かるけど、ちょっと黙ってくれるかな? ジスカ」
「ナイラもさっきまでぶーぶー言ってた」
「そりゃそうだけど。やっとロディを見つけたんだから、もう少しらしくしようよ」
「何らしく?」
「うーん……王様?」
「もう国無いじゃん」
俺を放ったらかしにして喋るナイラとジスカの2人。俺は斧を下ろし、座り込む。
「……な……何しに来た?」
久々に声を発したので、かすれたし抑揚も不自然になってしまったが、好意的に受け入れていない事くらいはどうにか伝わっただろう。俺は髭を
「何しにって、ねえ?」
「分かりきってる」
俺は首を横に振る。
「復讐」




