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魔王

「俺はこの世界を1つにする」


 それが魔王様の口癖だった。続けて、「ロディ、着いてこれるか?」と俺に尋ねる。そんな魔王様の凛々しい横顔は今も瞼の裏に焼き付いている。


 本名はレイシャス。だが魔王軍が今の形になってからは名を捨てて「魔王」と名乗った。この広い魔界を統べ、魔物や魔人を束ね上げるのに名前は邪魔だったのだ。


 もう20年も前になる。まだ俺が魔王様をレイシャスと呼んでいた頃の事。俺とレイシャスは、魔界の最深部にある洞窟にやってきていた。その頃には既に、レイシャスの下には10を超える魔人貴族が集っており、魔界内における一大勢力を築き上げていた。だが、洞窟にやってきたのは俺達2人だけ。それには理由があった。これから手に入れる物を知っている人数は出来るだけ少ない方が良い。


「ロディ、お前は後ろを頼む」

「ああ、分かった」

 レイシャスはずかずかと大胆に洞窟内を進んでいく。俺は後ろを警戒しつつ、斧をぎゅっと握りしめる。洞窟は「無限岩窟」と呼ばれており、魔界内では最も魔力の濃い場所だった。それだけに他では見られないような強力な魔物が潜んでおり、過去には腕利きの魔人が何人も挑戦したが、帰ってきた者は1人としていなかった。


 もちろん、無計画に挑戦した訳ではない。レイシャス自身はその腕利きの魔人が束になってかかっても勝てない程強かったし、「無限岩窟」を攻略する為のマジックアイテムも用意していた。


「ここにある魔石があれば、魔界を支配出来るというのは本当なんだろうな?」

 俺はレイシャスに尋ねる。この頃はまだ、部下がいない所では敬語を使う必要は無かった。リーダーはレイシャスだったが、仲間として対等な立場で話をしていた。

「魔界どころか、地上すら俺達の物になるぞ」

 俺はレイシャスの言葉を鼻で笑ったが、内心では「こいつなら可能かもしれない」と思う所があった。


 当時、魔界から地上へ出るには入り組んだ小さな洞穴を通る必要があり、軍勢を率いて攻めるなど夢のまた夢だった。しかもその穴の出口には人間の守り手が何百年と守護についており、時折地上に出ようとする魔人や魔物をことごとく返り討ちにしていた。1人分の道幅しかない場所では、いくら強い魔人といえど地理的に不利であり、いざとなればあちらからは道を埋める事が出来る。つまり地上への侵攻は事実上、不可能だった。


「まあ、まずはここから生きて帰る事だな」

 レイシャスはそう言うと、魔物の群れに飛び込んでいく。魔王となった後は、魔物を味方とする為に保護する主張を繰り返していたが、この頃はまだ立ちはだかる者全て敵というスタンスだった。全てを守るだけの力が足りなかったからだ。


 レイシャスは軽い身のこなしで次々に現れる魔物を一撃の下に伏せていく。俺は後方からレイシャスを見つつ魔物達の流れを声で伝えていた。例えレイシャスと言えど、囲まれたり背後を取られれば無事では済まない。そうならないようにするのが俺の役目だった。


 自画自賛のようで痒いが、俺だってそこそこ近接戦闘はいけるし、全体を見る力には自信があった。レイシャスもその部分を買ってくれていたからこそ、「無限岩窟」の探索に俺を連れて行ったのだと思う。


 1週間かけ、俺達は最深部へとやって来た。そこにあった魔石は、親指サイズ程でありながら、魔界内全体の魔力の約20%程が圧縮されており、膨大な力を放っていた。なるほどこれだけ洞窟が複雑になる訳だ。


 目的の物を手に入れ、「無限岩窟」からいざ脱出しようという時トラブルが起きた。

 攻略の為に持ち込んだマジックアイテム『羅真球』がその機能を失っていたのだ。


 『羅真球』はガラスで出来たドームの中に、魔力を込められた欠片が浮いており、持ち主がどこにいても対になった『羅真球』を指すという代物だった。これがあれば、どれだけ複雑な道であろうと帰りの方向が分かるので、時間はかかっても脱出が可能なのだが、いざ使おうと取り出した時、欠片はぐるぐると狂ったように回っておりいつまでも止まらなかった。


「……おそらく、この魔石の膨大な魔力にあてられて壊れたんだろう」

 レイシャスは冷静にそう言ったが、その表情には焦りの色が見えた。言うまでもなく俺も同じだ。

「とにかく、ここにいても仕方がない」


 結果から言えば、それから俺とレイシャスは何と約1年もの間「無限岩窟」の中を彷徨う事になった。レイシャスが魔物を狩って食料を確保し、俺はコツコツと地図を作った。何度も迷い、行き止まりにぶつかりながら、正しい道を炙りだして行く。今から見れば、この極限に近い修行期間があったからこそレイシャスは真の意味で魔王になれたとも言えるが、当時は一生出られないのではないかという不安で一杯だった。1年で脱出出来たのはむしろ幸運かもしれない。


 脱出したその日、抱き合って喜んだのを覚えている。見飽きたはずの魔界の空が、やけに眩しく光って見えた。


「ロディ、改めて礼を言う。お前のその地道な性格が無かったら、俺はとっくに諦めて洞窟の中に定住していただろうよ」

「……いや、お前の力が無ければその前に死んでいたよ」

 そんな会話を交わした後、俺達は本格的に魔界の統治に乗り出した。


 持ち帰った魔石は『操魔の指輪』に加工され、不可能と思われていた魔物を主とした軍の形成に役立った。俺は魔人貴族達と交渉を行ない、地上征服という絵空事の実現の為に走り回った。

 レイシャスの実力があれば、頭数を集めるのは容易い。俺はNo.2に徹し、レイシャスを神格化する為に以前のような付き合い方をやめた。忠誠を誓い、魔界四天王という役職を作り、そのメンバーをレイシャスと共に選定した。


 1人目はシルファ。魔石の加工を請け負ってくれた職人の子であり、魔術の才能に長ける。本来魔人では習得が難しいとされる治癒魔法を扱えて、その自由気ままな性格は魔人にも魔物にも好かれやすかった。俺とレイシャスには無い視点を持っていたし、要となれる人材だった。


 2人目はグレン。性格は粗野で乱暴だが、その腕っ節は確かに頼れる。一騎討ちでレイシャスに敗れてからという物、実の兄のように彼を慕い、少しでも近づこうと努力していた。血気盛んで戦いを好む魔人貴族はこういう人物が好きなので、部下からの信頼も厚かった。


 最後はズーミア。彼女に関しては、俺ではなくレイファスが突然連れてきた。魔人の中でも類稀な変身能力の持ち主であり、特殊な魔術体系を習得している。レイシャスに彼女との関係について尋ねると、「腹違いの妹」という答えがあっさり返ってきたので、俺はそれをなるべく言いふらさないように忠言した。身内は弱みになるからだ。


 とはいえ、その関係性を差し引いても彼女は頭がキレる。時々キレ過ぎて恐ろしさを感じる事もあるが、魔王軍にとって役に立つのは間違いないし、頭の良さを買ってついていく魔人もかなりの数いるようだった。


 改めて考えてみると、この頃から俺には人望が無かった。いや、あえてレイシャスの影役に徹していた部分もあるが、魔界四天王の他3人と比べても圧倒的に華が無かったのだ。俺の仕事はあくまでも地道に、増やしたい数字を増やして減らしたい数字を減らす事だ。だが俺はそれで満足だった。レイシャスを魔界と地上の王として君臨させる。その目標がある限り、ひたすら道を歩く事が出来たのだ。


 それから7、8年の時間をかけて、俺達は魔界の統一に至った。

「魔王様」

 そう言えば、誰もがレイシャスの顔を浮かべるようになった。


 時を同じくして、地上への道が開いた。

 勇者と呼ばれる人物が、地上に現れたのだ。

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