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双子のいる風景

 比較的平穏な1週間が過ぎた。毎日治癒魔法をかけてもらっていたので骨は完全にくっついたし、肉体的なダメージはほぼ回復したと言って良いだろう。タリア付き添いの元で畑仕事して、野菜も沢山食べて栄養を摂った。流石に負担をかけた事を反省したのか、タリアの方から再度襲ってくる事は無かったが、1日の仕事が済んだのに何故か無言で俺の部屋にいたり、夜になると扉の前に気配がしたりと無言のプレッシャーをかけてきている。


 あとは変わった事と言えば、チュートンが王都に帰った事くらいだろうか。ノード農場の視察は十分にしたようで、サンプルとしていくつかのLv2品を持って帰った。俺が気絶している間に物流の段取りもしていたようで、これからノード農場で採れる作物は全てチュートンの管理下に置かれ、王都を中心とした各街に運ばれ販売される。ただの組合員だったポロドも出世して正式にチュートンの部下となった。


 ナイラも魔導機械のメンテナンスを終え、農場は順調に機能している。サルムと村人だけでは人手が足りなくなっていたのだが、ナイラを護衛してきた部隊が訓練代わりに畑仕事をしてくれるのも助かる。滞在中はここの物を食べる訳だしそれくらいはしてもらわないと困るのだが、兵士達も特に不満はないようだ。グレンとの熾烈な戦争に投入されるよりは、ここで1日働いて腹一杯飯を食べた方が得だという判断なのだろう。


 ただ、それに関連して1つ問題になっているのは、ナイラはいつ王都に戻るのかという事についてだ。当然本人は城には戻りたがっておらず、兵士達も出来る限りこの農場に滞在したがっている。王都での執政はズーミアが取り仕切っているし、名義上の最高権力者であるナイラはいてもいなくても良い。となれば、別に戻らなくても良いのではないか、という話なのだが、事はそう単純ではない。


 王家最後の1人が王都に不在というのはそれだけで民は不安に思う物だし、それに跡取り問題もある。ズーミアがいる限り再びクーデターが起きる可能性は限りなく低いが、それでも貴族達を放っておけば何を企むか分からない。新魔王軍との戦いにおける士気にも影響する。兵士達の中にも家族に会いたがっている者はいるし、そろそろ戻るべきではないか、という意見が出ていた。


「お姉ちゃんの言う事が聞けないの!?」

 そんな時、村長宅の居間で双子が喧嘩している所にばったり出くわしてしまった。

「いきなり姉づら、カッコ悪い」

 ジスカもここでの暮らしが慣れてきたのか、語彙が多くなってきたのは良い事だと思いながら眺めているとこちらに火の粉が飛んできた。


「ロディ、君からも言ってあげてくれないか」

「……何をだ?」

「私は王都に連れさられて、いきなりお姫様扱いされるなんていう酷い目にあった。今度は同じ血を引いてる双子のジスカの番って事をだよ」

 なるほど、良く似た双子の妹ほど影武者に相応しい者はいない。

「事情は知っているが、一切無視して戻らないってのも良いんじゃないか」

 俺からすればどっちでも良い事なので適当に答える。

「……そういう訳にもいかないのさ」

 ナイラの視線の先には一通の手紙が置いてあった。封ろう印からして魔術師協会の物だ。俺はそれを手に取って斜めに読んだ。


 内容をざっくり説明すると、ナイラが戻って来なければ魔術用品の提供を差し止めるという事だった。魔導機械の開発に使う素材はおろか、ちょっとした魔術に使う触媒に至るまで、ありとあらゆる魔術用品の販売をストップするという事だ。確かにこれはちょっとまずい。


「チュートンにこっそり売ってもらえばいい」

「低品質の物は商人組合でも取り扱ってるけど、高品質の物は魔術師組合に所属する魔術師の加工なくしては作られない。組合長が差し止めればいくらチュートンでも入手は無理だね」

「ズ……いやクラリスに頼んで大臣の権限で魔術師組合にプレッシャーをかけるってのはどうだ?」

「動機が無いし矛盾している。大臣であるクラリスは私の帰還を待っているという大前提で仮の権力を握っているからね。だから帰ってくるように催促は出来ても帰ってこないような動きを露骨にする事は出来ない」

「そもそも何故魔術師協会はこうまでしてお前を王都に呼び寄せたいんだ?」

「さあ? どうせくだらない権力争いだろう。戻ったらしばらく言われた事をすればいいだけ」

 なるほど、それで白羽の矢が立ったのがジスカという訳か。


「見た目ほとんど同じだし、別にいるだけでほとんど喋らなくても良いんだからバレないはず。ちょっと戻って周りが満足したらまた戻ってくればいい」

「やだ。私、ここ気に入ってる」

「……ジスカ、姉1人に厄介な仕事を押し付けるなんて卑怯だと思わないか? 魔術用品が手に入らなかったら新しい魔導機械は作れないし、その内メンテナンスも出来なくなる。農場も止まる。それは困るだろう?」

 ナイラはジスカだけではなく俺に向けてもそう言っていた。確かに困るというのは事実ではある。


「どちらかは1度戻らとならんな」

 俺がそう呟くと、ピリッとした空気が2人の間に流れた。

「もし俺がどちらかに決めたらお前らは従うか?」

 毒をくらわば皿まで。巻き込まれたのなら出来る限り活用しよう。

「……ええ」

「ロディが言うなら、仕方ない」


 2人の同意を得ると同時に俺は手を叩く。

「よし、分かった。ならば2人で勝負しろ」

「勝負?」

「そうだ」

「魔術勝負だね。分かった」

「ナイラ、そんな事は言ってない。というかお前が勝てるジャンルを選ぶな」

「野菜育て勝負?」

「どうやって判定するんだ」

「じゃあ何の勝負だい?」


 ちょうど良いのでこの2人を使おう。

「調査力勝負というのはどうだ? 何でもいいから、明日までにタリアの弱みを握ってこい。使える情報を持ってきた方が勝者だ」


 現状、タリアに従わざるを得ないのは逆レイプ事件で俺が脅されているからだ。これに対抗するには、同じくらいバラされるとまずい秘密を握ればいい。2人なら、同性として俺よりも自然にタリアに近づけるし、俺に知られたく無い情報を入手する事も可能だろう。


「……なんか裏の意図があるみたいだけど、分かった。その勝負に負けた方が王都に帰還だね」

「分かった。頑張る」

 あとは2人に任せよう。


 翌日。

 タリアに畑の様子を観に行かせた直後、2人が俺の部屋に来た。さあ、成果を報告してもらおう。


「で、どっちから報告する?」

「じゃあ私から」と、ナイラ。


「昨日、あなたから依頼された屋敷の設計図を描いてたら、タリアの方から来たの」

 実は3日ほど前に、そろそろ家が必要だという話をした所、ナイラが設計出来ると言い出したのだ。魔導機械専門かと思いきや、物作りなら大体何でもいけるらしく、とりあえず設計図だけでも描いてもらおう事になった。もちろん正式な依頼として金も払うが、ナイラとしてはそれよりも自由に作りたいらしい。魔導機械をふんだんに取り入れた現代的な邸宅を作ると意気込んでいた。


「で、タリアはロディには内緒で依頼をしてきたの」

「ほう」

「2つの寝室を繋げる隠し通路と、スイッチ1つで寝ている人物を拘束出来るベッド。魔人の腕力でも振り解けないようにという注文付き」

「……」

 思わず絶句してしまったが、じわじわと恐怖心が湧いてきた。

「面白そうだから引き受けた」

 引き受けたのか。

 ……まあ、分かっていれば回避は出来る。そういう意味では2人に勝負を持ちかけておいてよかったと言えるだろう。


「ジスカの方はどうだ?」

「弱点、分かった」

「ふむ。何だ?」

「後ろから、抱きしめられるの、弱い。耳噛まれるのも、敏感だから。そして相手が魔人だと、もっと弱くなる。これがナイラの弱点」


 しばしの沈黙の後、俺は真顔で尋ねる。

「……お前、タリアに買収されただろ?」


「されて……ない」

 目が泳いでいる。

 勝者はナイラで決まった。ジスカにはしばらくナイラの身代わりとして王都に戻ってもらおう。

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