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忙しい再会

「昼間の件はすまなかったな。ドラッドの奴が迷惑かけちまって」

 言葉の上では謝っているが、その口調は羽のように軽い。通信宝珠越しですら話すのは久々だが、不躾な物言いは以前にも増して酷くなっているようだ。

「それだけで終わりか? 犠牲者も出ているんだぞ」

「犠牲者だと? ドラッドの部下が2人死んだってのは聞いたが、そっちにも魔人がいたのか?」

「魔人ではない。人間の死者だ」

「あぁん? 人間が死ぬのは『犠牲』じゃなくて『成果』だろ」

 やはりこいつとは馬が合わない。だがここで折れる訳にもいかない。


「視野が狭いぞ。我々は魔王様復活の為に人間の畏敬を集めねばならん。ただ殺して脅すだけではいずれ限界が来る。何故そんな事も分からないんだ」

 俺が強めに出ると沈黙が返ってきた。通信が切れたのかと思ったが、数秒後に来たのはグレンの噛み殺すような笑いだった。

「……くはは。噂は本当みたいだな」

「噂だと?」

「育ててるんだろ? くくく……野菜を」

 同族からの嘲笑にはもう慣れた。俺は堂々と答える。

「だからどうした? 何も食べなきゃ死ぬのはお前も人間も同じだ。飢える腹を満たしてやる事は殺戮より遥かに難しくて骨の折れる仕事だ」

 再びの沈黙。今度こそ通信が切れたかと思ったが、返ってきたのは意外な答えだった。


「……まあ、それはそうかもしれねえな」

 『それはそうかも』グレンの口から今まで聞いた事のない言葉だ。面食らっているのが相手にも伝わったのか、グレンはこう続けた。

「実際に自分が軍のトップに立ってな、魔王様とあんたが今までしてきた苦労に気づいたよ。前の魔王軍にいた時はド派手に暴れてれば自ずと荒くれ者がついてきたし、それで良いと思ってた。それが全て俺の力だとな。だが、魔人ってのはそんな単純じゃねえ」


 あのグレンが真っ当な事を言っている。何か裏の狙いがあるのかと疑うが、確かめようがない。

「俺は参謀としてのあんたを評価してるんだぜ。あんたは頭が切れる。いつも冷静だし、どこか達観している。そして最後には常に最善の選択肢を取る。その分余計な気苦労を背負い込んでるがな」

 これは……夢か? グレンが俺の事を褒めている。非現実的だ。

「……何が言いたい?」

「謝りたいだけだ。部下が迷惑かけちまってすまなかった。ドラッドには後できつく言っておくよ。これでいいだろ?」

 味方を奇襲しておいて、「きつく言っておく」だけではいかにもぬるい。そんな調子では軍隊をまとめ上げるのなんて無理だ。……とは思うが、こいつにはこいつのやり方があるし、態度を改めている途中なのかもしれない。これ以上責めても互いの利益にはならなそうだ。


「次はないからな」

「……ああ、分かってるよ。これからは俺もズーミアと裏で協力すると約束してる」

 それならまあ、とんでもない馬鹿はしでかさないだろう。

「あと街を2つか3つ落とせばエレメントも掌握出来そうだ」

 グレンがそう言った。俺は尋ねる。

「何故分かる?」

「あぁ? そりゃ感覚で分かるだろ。むしろ何故分からない?」

 感覚で、か。アバウトな答えだ。確かに、原初のエレメントには特別な力があり、それを感じ取る事は俺にも出来るが、どのくらいで掌握と言える状態まで行くかというのはいまいちピンと来ない。守護者の有無が関係しているのだろうか。チェルに聞いてみた方が良さそうだ。


「半年後に集まろう。その時が魔王様復活の時だ」

 グレンの言葉に、俺は「分かった」と返したが、正直言うと半年で畏敬を集めるのはかなり厳しいとは思っている。全く持って無駄な感情だが、即答したのが俺の見栄と言う奴だ。

「じゃあな。畑作り頑張ってくれ」

 グレンの言葉には若干皮肉のニュアンスもあったが、皮肉を言えるという事は頭が冷静に働いているという事でもある。俺が「ああ」と答えると同時、通信が切れた。


 ドラッドの処分に関しては、正直納得はいっていない。事の始まりは奴の弟がここを襲った事だが、俺が殺したのも事実だし、ドラッドからしてみればもう1人の弟が捕われている事も我慢ならなかったのだろう。

 だがグレンも魔人を統率する苦労に気づきつつあるようだし、魔王様復活までの道のり自体は順調なので、些細な事にこだわっていても仕方がない。今の俺に出来るのは、王都で得た物を生かして全力で農業に励む事。半年というリミットは短いが、何とか間に合わせてみせようじゃないか。


 通話を終えて村長の家に戻ると、ちょうど2つの再会が同時に起こっていた。片方はフレンクとサルムの兄弟。もう片方はナイラとジスカの姉妹。前者では弟が困惑しており、後者では姉が困惑していた。


「どういう事だよフレンク兄ィ! 全く意味が分からない!」と、サルム。

「え……誰? ていうか、何……え……?」と、ナイラ。

「冷静になって判断しろ。ヘカリル家の事を考えろ」と、フレンク。

「あなた、私の姉。私、妹。よろしく」と、ジスカ。

 2人ずつのペアになって話をしているが、少なくとも仲良しこよしという様子ではない。言葉は多くかわしているが、通じ合ってはいない。それをタリアが眺めており、俺と同様にどこから手をつけていいのか悩んでいるようだった。


 王都では、ナイラとあまり直接話す時間をもてなかったし、島から連れてきた妹の話はついに出来なかった。とにかく無事に農場へ戻って来てもらう事を優先した結果だ。というか、戻る道中のどこかで育ての親であるホガークから妹の存在について知らせておけよと思ったが、形としては金で養子を買ったような物なので、ホガークからすると言い出しづらかったのだろう。しかし俺に丸投げされても困る。


「タリア、ホガークを探して呼んでこい」

 村は狭いので、その外にある兵士達のキャンプにいるはずだ。


 一方でヘカリル家の厄介な兄弟の方は、サルムだけが困っているようだった。

「もうこんな田舎で農作業なんて嫌だ! ロディの奴に復讐しなくてもいい。とにかく俺を助けてくれよ兄ィ」

 俺が戻ってきているのに気づかない程必死になって懇願している。「駄目だ」と答えたフレンクの隣に俺は立つ。

「ひぃ! ロ、ロディ……様」

「どうしたんだ?」

 サルムを無視して俺がフレンクに尋ねた。

「ちょうど良かった。弟を引き続きこの農場で働かせてくれないか?」

「ね、ねえ」隣からナイラが話しかけてきた。「私って双子だったの……?」

「そうだ。ホガークから説明させるから待ってろ」

 途中で割り込んできたナイラを軽くいなして、俺はフレンクと向き合う。

「働かせるのは構わないが、理由は?」

「根性を叩き直してくれ。……というのが半分。もう半分は、あんたについて行けば美味しいからだ」

 正直な答えだ。

「だが本人の同意は得られてないようだが?」

「ちょ、ちょっと。こっちの話も聞いてよ。私に双子の妹がいたなんて初耳なんだけど、というか今まで一体どこに? いやなんでここに……」

「待ってろと言っている。今は話中だ」

「ロディ、良いジャガイモ、獲れた」

 ジスカがカゴにいっぱいのジャガイモを持ってきた。これは高く売れそうだ。だがその報告は今じゃなくていい。

「同意に関しては問題ないだろう。『服従の首輪』はそのままつけておいてもらって構わない」

「ま、待ってくれよフレンク兄ィ!」

「え……双子って事は……この子も王位継承者という事になるの?」

「ロディ、機械、調子悪い。見て」

「姉に見てもらえ」

「ナイラお姉ちゃん、見て」

「え……いや、ていうかここで働いてるの?」

「フレンク兄ィ!」

「サルム、いい加減に駄々をこねるのはやめろ」

「チュートンだが今時間あるか?」

「見ての通り、無い」

 カオス。そう表現するしかない。

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